206話・二人の気持ちがぴったりと重なり合った夜
夜会を後にすると、間者の一人が耳打ちしてきた。例の件が上手く行きそうだと言う。フランベルジュの事もケリが付いたことだし、帰国することにした。
馬車の中で肩を寄せ合うと子供の頃を思い出した。良く馬車の中で眠くなると王妃が肩を貸してくれたものだった。その事を思い出しレナータに話すと「今度はそれを私がしてもらっているのね」と、嬉しそうに言う。
頭を撫でると「私って駄目ね。お母さまのようにはなれない」と、言ってきた。あの御方は聖母のような御方だった。なさぬ仲の愛妾の子だった自分を実の子のように愛し育ててくれた。
なかなか出来ることでは無いと思う。ヨアキムを己の子として愛情を持って育てることなど自分には出来なかった。
自分はヨアキムが自分の血を引かないことを知っていた。だから愛情が持てなかったのではと思っていたが、今となっては、それは言い訳にしかならないような気がしている。
王妃は自分が愛妾の子であり、陛下の血を引かないことを知っていたはずなのに、どうして実の子と変わらない愛情を惜しみなく向けてくれていたのだろうと思われてならなかった。
「余も無理だな」
「イヴァン……?」
迷いなく言えた。レナータがもしも自分以外の男に惹かれて抱かれることになったのなら? そしてその男との間に子を設けたなら平静でいられる気がしない。
歪んでいるだろうか? そう思ったら口にしていた。
「もしもおまえが……と、考えることがある。おまえが余以外の男に惚れて抱かれることにでもなったなら平気ではいられない。その場に乗り込んで相手の男を殺しかねないような気がする」
懺悔するような気持ちで言えば、レナータが私もよと言った。
「いま私ね、同じようなことを思っていた。私とあなたって似ているわね。姉弟だし、叔父と姪の仲だからかしら?」
彼女のあっけらかんとした言い方に罪悪感など吹き飛んだ。レナータも同じことを考えていた。同じくらいに自分に執着している? それならこのような想いは偶然などではないはず。
「いや、きっと運命の相手だからに違いない。転生した姉上が今は余の妻となっているなんて滅多にないことだろう?」
「そうね。神さまの存在を信じたくなるほど不思議な縁よね」
しみじみとした感じでレナータが言う。
「余にとって、おまえは唯一の存在だ。誰も代わりにはなれない」
「イヴァン」
「これから二人の間に何かあったとしても、余の気持ちは疑うなよ」
「それはイヴァンの方よ」
二人の気持ちがぴったりと重なり合ったような気がした。




