203話・ソニア殿下は素晴らしい御方でした
「女だてらに摂政などと持ち上げられて、人気取りの為に国庫を国民にばらまき空にした。それと言うのも女として自分に自信がなかったせいだな。醜女だったし当然だな」
陛下の言葉にこの国の無能な腰巾着どもがクスクスと失笑を漏らす。他国の者達は不快な顔をしていた。
「政務を執ることと、見た目は関係ないのでは? 執務に必要なのは能力ですわ」
執務を執るのに外見は関係ないだろうとレナータは言ったが、彼らは馬鹿にした目を向けてきた。
そこへ割って入るように明るい声が上がった。
「あら。そこにいらっしゃるのはレナさまでは?」
フランベルジュの王太子妃が姿を見せた。自分が連れている男性を紹介してくる。二人はこの間、お茶会で顔を会わせ仲が良くなったようだった。
「こちらはわたくしの叔父のフィリペと申しますの。建築家をしております」
「お初にお目に掛かります。イヴァン国王陛下」
その説明で頭に閃いた人物の名があった。
「もしや、あなたがエクセリン国のアドラー公爵か? 宮殿建築の権威の?」
エクセリン国はこの国の王太子妃の母国。確か今は亡き、この国の王妃もその国の出身だったはずだ。かの国は宮殿建築が優れていて優美な建築を誇っていた。
「機会があったらぜひ、貴殿に会いたいと思っていた。まさかこの国で会うことになろうとは思わなかった」
「それは光栄にございます。私もクロスライト国王にお会いできるのを楽しみにしておりました」
ふいに脳裏に浮かんだ水上の都。レナータに内緒で推し進めてきた建設中の都についてアドバイスをしてもらえたらと思った。ここで出会ったのも何かの縁だろう。
「貴殿の建築技術は素晴らしいものだと聞いている。一度、視察でエイトール国へ行ったことがある。そこで貴殿が手がけたルーカス城を拝見した。交差する階段や、空中庭園は素晴らしかった。どこか物語の世界に入り込んだような幻想的な城がそこにあった」
以前、目にしたルーカス城に素晴らしさに感銘を受け、あのような幻想的な都が造れたならと思っていた。その構想を練った者にこうして会えるとは思いもしなかった。
「お褒めに預かり光栄です。今の私があるのは全てソニア殿下のおかげなのですよ」
「義姉上が?」
ソニアのおかげとはどういうことなのだろう? 脇のレナータを窺うと彼女も分からないようで怪訝そうに見返してきた。
「私は十五の頃に乗っていた商船が大嵐で流され、船員と共にある浜辺に打ち上げられた事があるのです。そこでソニア王女に助けて頂きました」
その言葉にソニアが何かを思い出したようだ。あの時の。と呟くのを聞いた。
「ソニア殿下は素晴らしい御方でした。自分のことなど後回しで、常に他の者達のことを先に考えていたように思います」
フィリペが懐かしむように言う。自分の知らないソニアを彼が知っているのが少しだけ妬けた。




