202話・懲りない男
どこまでも甘い男だ。ため息しか出なかった。そろそろ真相を話すべきだろう。
「我が妻は亡きソニア殿下の姪なのですよ」
「姪……?」
陛下と王太子は怪訝な反応を見せる。やはり彼らは知らなかったようだ。
「ご存じなかったですかな? 我が妻レナータは余の兄アレクセイの娘。騙り者のタマーラとは違って本物のクロスライト国の王女です」
その言葉にようやく二人は観念したようだ。
「すまなかった。重ね重ね失礼した」
滅多に人前で頭を下げることなど無くそれを良しとしない二人が深々と頭を下げてきた。
「これで分かって頂けましたかな?」
「承知した。マルタは貴殿の言うとおりにしよう」
「陛下」
まだ不服そうな殿下を一睨みし、陛下はこちらの意向に合わせると言ってきた。陛下としては最後の仕事になるかも知れない。
そろそろこの国も牧童の王の夢から覚めるときが近づいているのだ。
滞在最終日の前日の夜。宮殿の夜会に招かれて応じることにした。色々とあったがあの後、ルシア王女とその母の件は落ち着いてホッとしていた。
もうさすがに何もないだろうと思われたのだが、自分がレナータの為に飲み物を取りに離れた隙に、フランベルジュ国王がレナータに言い寄ろうとしたようだ。
可愛げの無い女だという言葉が聞こえてきて、すぐにレナータのもとへ戻る。
「余の妻はなかなか手強いでしょう?」
「イヴァン」
「そなたの好きな果実酒を用意してもらっていたから戻ってくるのに時間が掛かった。悪い男に引っかからなかったか?」
冗談めかして聞くと、レナータは思い切り顔を顰めて言った。
「粉はかけられましたわ。そこにいるフランベルジュの王に」
「ギヨム陛下が? 物好きな」
大袈裟な反応を示すと、ギヨム陛下は慌てて言い訳をする。
「王妃が一人で寂しそうにしていたので声をかけただけで、そこに特別な意味は無い」
「おまえの身に何かあったら困る。何事もなくて良かった」
懲りない男だ。この間、レナータは余の姪であると言っておいたのだが。レナータは自分のように堅苦しい女はソニアを見ているようで嫌いのようだと当てこすっていた。
前世ソニアだった彼女には、見目の良さだけで言い寄って来たフランベルジュ国王ギヨムを良く思っていない。毛嫌いしていると言っても良いだろう。
客観的に見ても、老齢に入っている陛下がまだ十代の娘に言い言っている心証はあまり宜しくない。その陛下は、レナータに「あなたはソニアとは違う」と言って、ソニアのことを馬鹿にし始めた。
それを聞いてますますレナータの機嫌が悪くなっていくのに気がついてないらしい。
「王女ソニアは余の敬愛する義姉上です。侮辱は止してもらおう」
それ以上、ソニアを貶されたくなくて言ったのにギヨム陛下は止めなかった。
「あのような女を? 陛下は姉の横暴を見かねて挙兵されたのではないのか? そのように聞いていたが?」
「ソニア殿下が横暴?」
それはどこ情報だ? 自分のことを簒奪王と貶められるのは構わないが、国民の為になることを常に考え政策を練っていた姉の事を何も知らないくせに悪く言われるのは許せなかった。




