201話・ふしだらな王女
三日後。陛下に招かれて宮殿に来ていた。ルシアの一件で正式に謝罪を受けた。実はルシアが突撃訪問してきた翌日に使者が朝から来ていたが、その後にも遅れて陛下と王太子殿下からのお詫び状と謝罪の品々が届けられた。
フランベルジュ国王としては、孫王子がタマーラに誑かされて廃嫡となりかけたのをクロスライト国が元凶のタマーラを連れ帰り、孫王子から引き離したことで王子の目が覚め危機を脱した。
そのお礼をする為に自分達が招かれたわけだが、それを空気を読めない王女がしでかした所で、両国の間に亀裂が入ると宮殿内は相当な騒ぎになったらしい。
いくらルシアが陛下に溺愛されている王女とは言っても、自分の機嫌を損ねた事を察した陛下は不問にする事は出来なかったようで謹慎を命じたと聞いた。また何か問題が起きれば母親共々、修道院送りらしい。
例の王女が大人しくしているのなら何も言うことはない。だがまだ自分はあのルシアの言った言葉が気になっていた。レナータをどこぞの馬の骨と言い切った彼女の母親にはしかるべき処分を請求した。
他国とは言え、王族を馬鹿にしたのだから首を差し出せと言えば陛下は呻り、王太子は顔を青ざめながら抗議してきた。
「それではルシアから母親を取り上げるようなものではないか?」
「殿下。あの女は我が妻を愚弄した。到底許せるものではない」
「クロスライト国王よ。気持ちは分かるが、あの者は陛下の一寵妃に過ぎないのです。もう国王らの目に触れぬようにするので修道院送りで許してくれぬか」
「殿下は随分と甘い。あの女のことがそれほど大事ですかな?」
「いやあ、その。マルタは……祖父の弟の娘でもあるのだ。大叔父上には生前からマルタのことを頼まれていたのもあり……」
王太子が言いよどむ。マルタとは寵妃の名前だ。しかも陛下の寵妃なのに王太子は必死だった。
「頼まれたからと言って何でも許すのはお門違いだとうが?」
「そういう訳ではないのだが、幼い頃から庶子として苦労してきたらしく……」
「苦労してきたから他人を馬鹿にしても許されるとでも? 彼女はあの詐欺師タマーラと大変親しくしていたようですな?」
調べはついていると釘を刺すと、殿下は押し黙った。
「余は随分と舐められたものだ。この国の寵妃には妻をどこぞの馬の骨と嘲笑され、しかも社交界では詐欺師タマーラをお気に入りとして連れ歩き、余の姪とこの国の貴族らに紹介して回っていたとか言うではないか? その上、自分の娘に娼婦まがいのことをさせるとは一体、どのような教育をさせているのか?」
自分の言葉に殿下は噛みついてきた。
「聞き捨てならないな? ルシアが娼婦まがいとは?」
「六年前、余の寝室に薄着でルシア王女殿下が忍んで来たことがあった」
「そんなこと聞いてない」
王太子はムキになった。逆に陛下は静かに様子を見ていた。
「翌日、抗議したら陛下は子供のした事、寝ぼけたのだろうと笑って誤魔化された」
王太子は陛下を見た。陛下は黙って頷く。
「今回ルシア殿下は余の妻になれると思い込んでいたようだった。恐らく母親から吹き込まれていたのでしょう。余と妻を仲違いさせて後釜にでも納まろうと思ったのか?」
「いや、ルシアはそのようなことは考えていない。母親であるマルタもそこまでは考えていなかったはずだ。誤解です、イヴァン陛下」
「口ではなんとでも言えますな。それにしても気分が悪い。妻といる場に空気を読めない王女が堂々と邪魔しに来るので」
「それは申し訳なかった。ルシアには悪意がないのです。まだ十四歳で幼くて……」
「ルシア殿下は我が妻とは二歳しか年が変わらぬ。しかも余の妻になると言ってのけることのどこに悪意がないと?」
既婚者に言い寄っている時点で、ふしだらな娘と思われても仕方ないのでは? と、指摘すれば必死にルシアを庇おうとしていた王太子は黙った。




