20話・陛下の秘密の交際相手?
ある晩のこと。陛下が政務に手こずっているらしく、珍しく先に寝ていて良いと、知らせが来たので遠慮無く先に寝させてもらった。
喉の渇きを覚えて夜中に目が覚めると、一人暗い寝台の中に収まっていた。まだ陛下は起きているようだ。
寝台から下りてサイドテーブルの上の水差しで喉を潤してから、何の気なしに燭台の明かりが漏れてくる廊下に出ると、陛下の後ろ姿が見えた。イヴァンは屋根裏部屋へと繋がる階段を上がって行ったようだ。
何をしに行ったのか気になってこっそり後を付けると、ある部屋の中に入って行った。その屋根裏部屋は現在、物置になっていると以前、セルギウス侍従長から説明を受けていた。でも、それと同時に滅多に誰も立ち入らない場所なので、近づかないようにと厳重注意も受けていた。
その部屋に入って行った陛下。そこに何かあるのは確かなようだ。
セルギウスは危ないから立ち入らないようにと行っていたのに、イヴァンは平気で入って行ったことから本当は危険な場所ではないのかも知れない。
私には見て欲しくない、何かが隠されているのかも知れなかった。静かに音を立てないように扉へと近づいて耳を押しつけて中の様子を窺うと、陛下が熱心に何か言っていた。
「……あなたならどうだろうか?」
ドアが厚いせいか、イヴァンの声しか聞こえてこないが、誰かと話しているようにも思える。
「そうか。そうかもしれない……」
「すると何か、考え違いをしていると言うことか?」
突如、何かに思い当たったようなイヴァンは、喜色の声をあげた。
「さすがは余の宝石姫。感謝する」
宝石姫? その名称は彼の機嫌が良いときに私に向けて言う言葉だ。それを誰かに向けて言っていた。
「ああ。宝石姫。余の大切なあなた。あなたがもしも……だったなら。余はこうして王になどなっていなかった。あなたの側で生涯を終えただろうに……」
切々と陛下が誰かに向かって話していた。まるで口説いてでもいるようだ。余の宝石姫と呼びかけるくらいだから、相手はきっと女性なのだろう。
陛下には交際している女性がいる?
もし、そうなら屋根裏部屋になど隠さなくても、公に愛妾として公認にしてしまえばいいのに。そしたら私は気が楽だ。
何だか落ち着かない気にさせられて私はそこから離れた。急いで階段を下りて寝室へと戻る。寝台に入ってからも興奮は収まらなかった。
陛下に愛する女性がいる。そしたらその女性に閨事はお任せすればいいじゃないかしら? 悪くないわ。
良い思いつきに思えた。私は転生者。前世では陛下は異母弟だったのだ。その相手に抱かれるなんて気味が悪く思われるし、イヴァンだって嫡男のヨアキムがあんな事になってしまって、世継ぎを早くと大臣らから求められていたりもする。
それなのにどうしてイヴァンは隠しているのだろう? 王妃の私に悪いと思って?
別に私はイヴァンに愛する女性が出来ても悋気なんか起こさないし、逆に万々歳なのだけど。早く紹介して欲しいくらいなのに。
それから悶々として寝台の中をゴロゴロ寝転がって眠れずに終わった。陛下が部屋に来たのは朝方の事で、「どうした? 寝ないで待っていたのか? 目が真っ赤だぞ」と、言われ、「陛下の気のせいです」と、起き上がろうとしたのを寝台に鎮められて抱き枕にされたのは言うまでもない。
その日は結局、陛下は仕事を半日休みにして私と寝付いたのだった。




