199話・煩い来客
それからは何事もなく、平穏にレナータとの二人きりの時間を楽しんでいた。森の中を散策したり、宮殿の中を見て回ったり、隣でレナータが笑っているのを見ていると時間の経つのが早く思われる。
毎晩抱きしめ合って寝るのに、すぐに夜が来て朝になる。その何気ない日々に幸せを感じていた。
そんなある日、午前中は晴天だったのに午後から雲行きが怪しくなってきた。雷鳴が鳴り響き、雨が降り出した。その中、稲光が走る。それを窓越しに見ていると、隣にレナータが立った。
「雷か」
「綺麗」
窓ガラスに手を伸ばすレナータに「綺麗なのはおまえだ」と、思いながら背後から抱きしめる。すると廊下からキャーキャー甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「誰かしら?」
「騒がしい」
訪問客かしら? と言うレナータにまた二人きりの時間を邪魔されたくなくて、こんな時に誰が来たんだ? と思う。
クロスライトから連れてきた使用人達は雷には慣れている。悲鳴などあげて騒ぐことはない。恐らく誰か訪ねて来て騒いでいるに違いないが、こちらとしては大迷惑だ。煩くて叶わない。
「小父様!」
ドアが突然開き、そこにはルシアが立っていた。後ろには頼りない養育係が付いていた。なぜまた連れてきた? と、タラーリを睨むとすくみ上がった。そんな反応をするなら初めから連れてくるなと言いたい。
「殿下。いけません。帰りましょう」
「嫌よ」
雷が近場で落ちたようだ。それを聞いてルシアは耳を塞いで「キャアーッ」と言いながらうずくまった。
その王女を回収すべく、王女つきの近衛兵が近づく。
「来ないで。小父様っ。小父様!」
「何だ? 煩いな」
「小父様?」
思わず本音が漏れた。今まで王女の前では関わり合いになりたくなくて、よそ行きの顔で相手をしていたから自分の反応が冷たく思われたのだろう。信じられないと言った顔をする。
「小父様は何をしていらっしゃるの?」
「妻と雷を見ていたが?」
それぐらい見て分からないか? さっさと帰れと睨むと、懲りずに言ってきた。
「わたくし、雷が怖いの」
「そうか? あんなにも綺麗なのにな」
怖いならさっさと帰れとしか言えない。おまえなど邪魔でしかないと、ルシアの見ている前でレナータの耳にキスしてみせるとなぜかレナータを睨んでいた。
「あ。イヴァン」
「夫婦水入らずの所へ、入り込んできた害虫など目障りだ。放って置け」
人が見ている前でと恥ずかしがるレナータにあいつは害虫だ、気にするなと言ったことでようやくルシアも害虫が自分のことを指していると気がついたらしい。
「小父様。酷い。わたくしを害虫なんて。わたくしは雷が苦手なの。慰めてよ」
「他の者に頼め。余はレナータから離れたくない」
なぜおまえごときを構わなくてはならないのだ? さっさとどこへでも行けと言ったのに、ルシアはまだ粘る。




