195話・レナータには近づけたくない
「よくやるわよね。確か末の王女殿下は十二歳になるのでしょう?」
「ああ。年がいってからの子だから相当、甘やかしていたな。見た目が陛下に良く似ていた」
以前この国に視察に訪れたときにまともに挨拶も出来なくて「おじさまのこと気に入ったわ。好きにして」と、深夜部屋を訪れて抱きついてきたのには驚いた。娼婦まがいの行動にどういう躾をされてきたのかと苛立ちを覚えた。
「相当な美少女のようね。知っているの?」
彼女を思い出して不快に思っていると、レナータが疑うような目を向けていた。
「六年前にこの国を訪れた時に紹介された。その時は六歳だったが甘やかされて育てられたらしい。おまえが六歳の時とは違って随分幼い感じで手を焼いた。我が儘が過ぎて呆れた」
率直に言うとレナータは首を傾げた。
「私には前世の記憶もあるから、思考がよその子供とは違って老けて見えるのかも。我が儘言われても可愛かったのではないの?」
「いや、厄介なだけだったぞ。余はレナにならどんな我が儘でも受け止める自信があるが、あれは迷惑行為にしかならん。王太子が他の王子らを招かなかったから助かった」
「そうなの。じゃあ、会わなくて良かったわね。でも、一目見たかった気がするわ」
レナータの言葉にとんでもないと思う。あれは害だ。側にいるだけで精神が削られる。レナータに近づけるなんて出来るか。
「止しておけ。あれは相手にするのも疲れる。父親が父親だからな」
ソファーに二人並んで座り、たわいもない話をしているとセルギウスがお茶を入れていた。
目の前に置かれたティーカップに目を留めると果実の芳香が湯気と共に立ち上る。
「あらこのお茶は果実の香りがするのね? 珍しい」
「我がクロスライト国ではハーブティーが定番ですが、こちらのフランベルジュ国では果実のお茶が広く親しまれているのですよ」
「そうなの? 良い香り~」
カップを持ち上げてレナータが目を細める。
「甘く感じられる香りね。爽やかだけど初めて嗅いだような気がしないわ。これよりももっと濃くて似たような香りを嗅いだ気がするわ」
「ひょっとしてそれはキルサンに盛られた毒じゃないか?」
「え……?」
レナータは警戒する素振りを見せた。
「そんな顔しなくとも大丈夫だ。このお茶には毒など盛られていない。余達の前に出す前にセルギウスが味見を終えている」
そう言うとレナータはホッとした様子を見せた。
「このお茶はアザレイアの果実のお茶だ。あの時に盛られた毒はレンゲアザレイアの方で花蜜だった」
「アザレイア! なるほど。アザレイアには毒があるものとそうでないものがあるから」
レナータが納得する。アザレイアの花は厄介なのだ。見た目が華やかなので鑑賞用に庭に植える貴族達もいる。アザレイアはピンク系の色をしていて無害なのに対し、レンゲアザレイアは黄味を含むオレンジ系の花をしていて全草に毒がある。香りも良く似ているので、嗅いだだけでは見分けがつかない。さらに花蜜は無色透明。毒殺に使われやすい植物でもある。




