194話・フランベルジュ国の後ろめたい事情
ステラ離宮は、昨晩泊まった宮殿のように金銀ギラギラに派手に飾り立てられた豪華さはなく、白を主体とした清楚な感じがあった。
財力を見せ付けるのに金銀で飾り立てられた部屋は必要なのかも知れないが、個人的にはこちらの質素な部屋の方が、気が休まる。それはレナータも同じ気持ちだったらしい。
「昨晩は落ち着かなかったわ」
「ああ。ごてごてした趣味の悪い金ばかりかければ良いといった感じの部屋で休めた気がしなかったな」
「そう言えばイヴァン。昨日の挙式だけど各国の王族の方々への挨拶しただけに終わったわね。王孫王子の兄弟の方々にはお会いしなかった気がするけど?」
レナータは首を傾げていた。普通はお祝いの席にその兄弟も招かれるのではないかと。自分達は聖堂での挙式に参加後、他国の王族らに話しかけられて挨拶はしていた。
その夜の宴会では顔だけ出して退場となったが。
不思議なことに挙式にも宴会にも新郎側で参加していたのは祖父である陛下と、その両親である王太子夫婦だけで他の親族の参加がなかったのだ。
そこはこの国の後ろめたい事情があるのだが、何も知らないレナータにあえて教えてやることもないだろう。 訝るレナータに、王孫王子は一人っ子なのだとだけ言うとまだ不審がっているので、それに伴うことだけ教えてやる。
王太子が腹違いの兄弟達を参加させるのを快く思わなくて断った話や、腹違いの兄弟達を全員招いたら、王孫王子とそう年の変わらない王子、王女が居並ぶことになると言えばレナータは国王の下半身事情を察したようだが、問題はそれだけではない。
王太子も実は父親に似てまともではなかった。表だって側室や愛妾を置かないので愛妻家と勘違いされやすいが、そう見えていて実に悪趣味な性癖を持っていた。父親の女を寝取ることだ。
それも父親が寵愛しているものほど執着し、相手の関心が父親よりも自分に向くと飽きてしまう。
父親もそれを分かっていて息子のお手つきになった女には二度と通わなくなり、新たな女を物色する。
その歪んだ閨事情の結果なのか、天罰なのか王家の血を引く王子、王女のなかでまともに育ったのは王孫王子だけというなんとも締まらないことになった。
見目は良いが中身がスカスカなのだ。考え方が幼稚で感情のままに行動しやすいので王子や王女の教育係は頭を痛めていて陛下や王太子に相談しようにも、手が掛かるなら修道院にいれろとしか言わないらしい。
それをレナータに言う気になれなくて、誤魔化すようにしか言えなかった。
「王太子殿下は幼い頃から父親が女性に手が早いのを見て育ったせいで、嘆く母親の王妃の心情をくみ取り自分は許婚の王女に誠実であろうと、側妃や妾を持たなかったそうでお子は一人だ」
それは王太子がよく人前で言っていることで、王太子妃をそれだけ大事にしているように表向き振る舞っているが、実際には父親の女を性欲解消として寝取っているのだからやっていることは父親以上に屑だ。女の敵と言ってもいいだろう。
「私、あの人に嫌われていて良かったわ」
「あの御方は女の見る目がないようだからな」
レナータはソニアの時にギヨム陛下には嫌われていた。それで良かったと言う彼女に頷く事しか出来なかったが、仮にもしもソニアがこの国に嫁いでいたのなら、陛下を矯正し、人徳的にも立派な後継者を育てていたかもしれない。
そうなっていたらこの国は少しはまともに機能していたかも知れないとも思う。
レナータはギヨム陛下を毛嫌いしているようだ。昨晩、自分に向けられた視線が気持ち悪かったみたいだから生理的に受け付けない所だろう。




