188話・フランベルジュ国王からの書状
その後、支度を終えて朝食を取り執務室に向かうと、一通の書状がフランベルジュ国から届いていた。国王直々の文面だ。孫王子からタマーラという害虫を引き離してくれたことで、王子は許婚と向き合うことができ、この度、王子の婚礼が無事に執り行うことが決まったことへのお礼に、ぜひ婚礼には足を運んで頂きたいとあった。
きっと宰相辺りにせっつかれて書かされた物だろう。あそこの王は享楽主義で、政治のことなど臣下任せ。王子の一件も面倒くさいことは「良きに計らえ」と、宰相らに任せきりだったと報告が届いている。
そんな国王自身には好意が持てないでいた。政治への姿勢だけではなく、以前王とは彼が王太子時代に姉のソニアとお見合いがあり、その姉を王が「ブス」と罵り馬鹿にしたことを聞いていたからである。
その事はその場にいたバラムから聞かされていた。バラムが父王の命を受け、使者としてフランベルジュ国に渡ったことで成り立ったお見合い話だ。
先進国の中でもっとも勢いのある国の王太子は怠慢で、傲慢だったと聞く。見合い話を持ちかけるためにフランベルジュ国の宮殿に向かったバラムは「これはないな」と、思ったらしいが、父王は何としても先進国との結びつきを求めていた為、相手が愚か者であろうとなかろうとこの話を勧めようとした。
一方、フランベルジュ国側も当時の王がクロスライト国の肥沃な土地に目をつけ、有能な宰相らの勧めもあってソニアを受け入れる準備をしていたのだと言う。
ところがクロスライト国へと送り出し見合いをさせた本人がこの縁談を踏み潰した。お見合いの後、帰国した息子に「どうだった?」と訪ねた父王に王子は、クロスライト国は田舎者の集まりだった。食べ物は二流。たいした美味しい物は出てこなかったし、言葉にはなまりがある。とても野蛮でこの洗練されたフランベルジュと肩を並べるほどの者ではないとこき落とした。
父王は実際にクロスライト国に行って見たわけではないのに、溺愛していた息子に言われてそれを信じた。その見合いに同行した従者らにも聞いたが、彼らは王太子に言い含められていたようで何も言えずに頷いた。
王太子の言った言葉でクロスライト国は貶められることになったのだ。その国の王からのお礼状。さぞや国王は面白くなかっただろうと思われる。
一時、国王と孫王子の仲が険悪になった時もあったようだ。孫王子は自分のお気に入りとして側においていたタマーラを、祖父王がクロスライト国の田舎娘がと詰るので面白く思ってなかったようだ。
孫王子はお気に入りタマーラが田舎娘と国王に詰られる度に、「クロスライト国にはタマーラのような美しい娘がいるのです。陛下はずっと昔のことをいつまで引きずっておられるのですか?」と、ムキになって言い返していたらしい。
孫王子に言い返され、孫王子の側近達にも陛下の物言いは失礼ではないかと声があがっていたようで、社交界でも許婚を持つ王太子に言い寄るタマーラの行動は褒められたものではないとしながらも、
「クロスライト国を貶めるのは良くない」という風潮に変わっていったようだった。
バラムの話では、一度自分が視察に訪れ、希少価値のある宝石や毛皮を土産として振る舞ったことで先進国と謳われる大概の国はクロスライト国への偏見がなくなっていたようだ。
ただ一人を覗いては。現フランベルジュの王だ。
自分から見れば年取った爺でしかないのだが、未だ下半身はお元気なようで女達の間を渡り歩いていると聞く。
その国王が未だソニア王女を貶めていることに我慢ならないでいた。その王がぜひ、孫王子の婚礼に出てやって欲しいと書いてきていた。
内心どうしたものかと思う。あの王を見ると未だ忌々しく殴ってしまいたいような衝動に駆られる。
答えが決まらないまま悩んでいたら晩餐の時間になっていた。




