182話・キルサンの謀
キルサンにとって自分は愛しい父を葬り去った憎い男にしか思えないのだろう。
「それなのに陛下、あなたの頭に王冠を被らせようと奮闘した親父を、粛清の一言で処刑した」
実際にはラーヴルは自分の手で殺した。処刑したことにしたのはセルギウス達の根回しの結果だ。キルサンは憎々しげに睨み付けてきた。
レナータは少し考えて聞いた。
「もしかして私達の結婚式当日、イサイ公爵のところに届けられた手紙というのはあなたが? 囚われたヨアキムさまを救い出せなどと書かれた手紙を送りつけたのは貴方かしら?」
レナータの問いにキルサンはそれが正しいことだと思っていたと認めた。キルサンの計画では脱獄させたヨアキムを王位につけ、自分を廃位させる気でいたらしい。
ところがキルサンがアリスという害虫に夢中になってしまった為、計画が狂ったようだ。ヨアキムがアリスに執着しすぎたのだ。アリスと上手く引き離す事が出来なかったようだ。
キルサンはレナータと復縁して王位に就き、アリスを愛妾に迎えれば良いと説得したが、ヨアキムはそれに対しアリスを修道院から出してくれるならと条件を出した。
そしてそのことでアリスに逆にこのことを陛下に伝えても良いのかと脅されるようになり、その上、キルサンの女にしろと迫られていたらしい。
アリスは股が緩いようだ。自分にとって利益がある男なら誰でもいいのだろう。
キルサンは邪魔になったアリスを手にかけた。これでヨアキムの目が覚めるかと思ったのに逆で、亡くなったアリスの事ばかり考えて塞ぎ込むようになっていたヨアキムに手を焼いていたらしい。
キルサンはアリス殺害を認め、王である自分の殺害を考えていたことを暴露してきた。
「俺はヨアキムさまが王位に就き、王妃としてレナータさまが収まれば何も問題ないと考えていた。ヨアキムさまに言い寄る害虫を駆除したまで」
アリスを殺害したことには、罪悪感を全く感じてないようだった。
それにしても気になることはある。
「おまえのしたことで納得の行かないことが一つだけある。おまえの話では余に恨みがあっての犯行だというのは分かったが、それならどうしてレナータにも毒を盛った?」
「レナータさまに毒を盛れなんて命じてない。あの女が勝手にしたことだ」
女官が計画通りにしなかったこともキルサンの怒りを買ったのかも知れない。女官は失敗したことを悟りキルサンとは目を合わせなかったのか?
「余に毒を盛った後はどうする気だった?」
「俺が代わりに王位に就くつもりだった。その為の兵も用意していたが、貴方のことだからすでに抑えていたのだろう?」
「ああ。事前に怪しいもの達がいたからすでに拘束して牢に繋いだ。皆、正直に将軍の指揮の下、動く予定だったと吐いてくれて助かった」
自分の言葉にキルサンは力なく笑った。志を共にする仲間の何人かがすでに裏切っていたことを悟ったようだ。
負け惜しみのようにキルサンは言った。
「俺はレナータさまを妻に迎え、王位に就く気でいた」




