175話・おまえが兄上の娘だ
「それは誰かに唆されたのか?」
もしも、そうなら少しは酌量の余地がある。しかし、彼女は本当なのだと言い張った。その上、今更ノコノコ現れて何がしたいのだ? と、聞けば父の兄弟である自分に会いたかったのだと、まだ嘘を突き通そうとする。
吐き気がした。実母に似た要素を感じる。男に寄りかかり寄生する害虫にしか思えなかった。
そこで少し脅しをかけてみた。自分は簒奪王と呼ばれる非道な王だ。先代の王と血の繋がりのある者は生かしておくことは出来ない。余の政策の邪魔になる者は排除すると言うと、タマーラは顔色を変えた。
「うそ。嘘ですよね? 叔父様」
まだ叔父様と呼ぶか。白々しい。
忌々しく思われてこれ以上、対面ごっこに付き合う気は失せた。
近衛に命じて彼女を拘束させた。タマーラは「叔父様」と言いながらしぶとく抵抗する。
「王族を騙った重罪人だ。ギーズ監獄へ収容せよ」
ギーズ監獄と聞いて隣にいたレナータが息を飲む。ギーズ監獄は一度入ったら二度と出ることは叶わないと言われている監獄だ。
何も知らないタマーラは喚きながら近衛兵に引きずられて退出して行った。
「いいのですか? 陛下」
もしも彼女が本当にアレクセイ殿下の娘だったなら?」
「あれは偽者だ。本物は別にいる」
タマーラの必死な様子に宛てられたらしいレナータが不安そうに言ってきたので、タマーラは別人だ。アレクセイ兄上の娘は他にいると言ってやればどこに? と聞いてきた。
「余の目の前にいる」
「陛下の目の前って私しかいないのでは?」
「その通りだ」
「えっ? わ、私?」
いくら聡明で知られるレナータでもそこまでは考えが及ばなかったようだ。凝視した後に自分の顔を人差し指で指してきた。
「そうだ。アレクセイ兄上と、子爵令嬢で兄上付きの女官だったネリーとの間に生まれたのが、レナータおまえだ」
「うそ。本当に……?」
「おまえに嘘なんか言わない。余は義兄上に頼まれていた。もしものことがあれば恋人のネリーのことを頼むと。余は義兄が亡くなってすぐにネリーを保護した。余の側に置いていれば母らに嗅ぎつけられる。そこでバラムを頼り預けたのだが、ネリーが体調を崩したことで甲斐甲斐しく世話を焼いていたバラムの息子に惹かれて、二人が結びつくとは思いもしなかった。なあ、バラム」
「さようにございます。陛下」
半信半疑のレナータを前に、バラムに話を振れば彼は跪いた。
「今までレナータ妃殿下には本当のことを申し上げずに、ご無礼の数々を失礼致しました」
「お祖父さま。そんなこと言わないで。私はお祖父さまの孫娘でいたい」
慕っていた祖父の物言いに寂しいものを感じたのだろう。いつも通りに話して欲しいとレナータは望んでいた。
バラムも本当はいつまでも祖父と孫の関係を崩したくはないと思っているはずだ。レナータはまだ疑っていた。
「あの。陛下。私の父は本当にアレクセイ殿下なのですか? 今のお話だと母とは恋人だったってだけで……」
信じがたい思いでいるレナータには全て話した方が良いのかも知れないと考えて、彼女の母親と育ての父について話すことにした。




