171話・眠れそうな方法とは
「兄弟仲は宜しかったのですね?」
レナータは自分と他の兄弟は腹違いである為、なんらかの確執でもあったと思っていたのだろうか? 念押しするように聞いてくる。その彼女に誤解の無いように話した。
周囲の思惑はともかく自分達の仲は良かったのだと。そういう風に導いて下さったのは王妃さまのおかげなのだと。
それなのに王位を簒奪するような事になり、恩を仇で返すようなことになってしまい、王妃さまに顔向けできないと言えば、レナータにも大体の事情は分かってきたらしい。
それは他の者が企んだことであなたは担がれただけですよね? と、核心に触れてきた。
あの簒奪劇によりレナータは実の父を亡くし、先王である伯父や伯母を亡くした。彼女にも知る権利はあるだろう。
自分の母が首謀者だと伝えればレナータは驚きもしなかった。予想していたのかも知れない。
実母は愛妾としてそれ以上のことを求められなかった。王妃に成り代わろうとした実母は、自分の子に王冠を被せ、自分は王母として君臨する野望を秘めていた。その為に将軍を利用した。
彼らの醜い野望のせいで命を落とした兄や姉のことを思うと後悔しかない。
それが顔に表れていたのか、慰めるようにレナータが言ってきた。
「でもそう悪いことは出来ないものですね。そういった方々は今ではもうお亡くなりになられておりますもの」
「……そうだな」
実母と将軍を手にかけたのはこの自分だ。膝の上の掌に目を落とすとこちらをレナータが見ていた。
「起こしてしまって悪かったな。さあ、寝るか。レナ」
「はい」
ベッドの中に潜り込んでも目が冴えて寝れそうになかった。それを悟ったようにレナータが窺ってくる。
「ヴァンさま。眠れそうですか?」
「ま、一晩くらい寝なくとも大丈夫だ。眠くなったら寝るさ」
戦場にいたときはおちおち寝てもいられなかった。野営で寝ずの番をしたこともある。その頃と比べれば今は平和なものだ。温かい寝具に横たえられる時間があるのだから。
「それでは体を壊してしまいます」
レナータはこちらを見上げていた。彼女との距離が近かった。いつも寝る時に自分から距離を取る彼女が自分から体を寄せてきた。しかも仰向けに寝ているところに顔を覗き込むような形で見下ろしている。
それだけ心配してくれているらしい。そんなに警戒がないと気を許してくれているのか試したくなる。
「唯一、眠れそうな方法があるにはあるのだが……」
「それは何ですか?」
戦場でも眠れない時はあった。そんな時は商売女を相手に一晩過ごした。体が疲れることをすれば眠れないこともない。ただ、それにレナータを利用するのはと思いつつも、体が勝手に動いていた。彼女の腕を掴んでシーツの上に背を倒し、覆い被さって半開きになっていた唇に自分のそれを重ね合わせていた。




