164話・そんなことは百も承知だ
それと同時に手紙の中を改める必要性が感じられてゲラルドに最初に目を通させることにした。レナータには伝えていないが、最近彼女を何者かが害そうとする動きが見られた。レナータを指名してくる辺りから、手紙に何か仕込まれていないとも限らない。
ゲラルドに改めさせると、中には何も仕込まれていないという。彼はアリスの元許婚だ。彼女の字かどうか確認も取ったが本人に間違いないようだ。
中にはどんなことが書かれていたのか聞けば、ある場所にレナータに来て欲しいと書かれていたようだ。馬鹿な娘だと思う。本人としては反省の色もなく、自分達がこんな不本意な状態におかれているのはレナータのせいとでも考えて、呼び出して文句の一つも言いたいのだろうが、場所を指定してくれたおかげで助かった。
いくら捜しても見つからなかった相手だ。レナータを呼び出そうとしているところに兵をやれば難なく愚息や、頭の緩い娘を捕らえることが出来るだろう。
そう思ったら笑いがこみ上げてきた。レナータは自分が赴かなくても良いのか聞いてきたが当然だ。
向かうのはレナータではなく兵でいい。あいつらの捜索はキルサンに任せてある。後はキルサン次第だ。
レナータにはキルサンに任せろと言った。レナータには自分の隣で構えていて欲しい。自分の目の届く範囲にいて欲しい。何かあったなら心臓がもたない気がする。
それを口にしたわけではないが、レナータに「宮殿で大人しくしていろ」と、言えばテオドロスと目が合った。テオは肩を震わせていた。
「公爵。何か?」
「いえ。陛下は妃殿下に対し、過保護なのだなと思いまして」
何で笑っているんだ? と、聞けば王妃に対し、過保護過ぎるなと言われる。大体、言いたいことは分かる。親子ほど離れた新妻に骨ぬきにされているなと言いたいらしい。それのどこが悪い。
「元々、レナータは余のお気に入りだったのだ。そう不思議がることもあるまい?」
悪かったなと開き直れば、度が過ぎるとレナータに嫌われるぞと釘を刺される。
そんなのは言われるまでもない。百も承知だ。
むっとした自分の隣でレナータが、「公爵はずいぶん、陛下に対し気さくなんですね?」と、聞いていた。
テオドロスは陛下が軍の一個中隊の隊長を任されていた時、副隊長を務めていたときからの付き合いですからと答えていた。テオドロスとは辛い軍隊時代を乗り切ってきた仲間だ。そして血みどろの王冠を被ってからも側にいてくれてなかなか辛いことも言ってくるが、頼れる参謀でもある。
しかもこいつは人垂らしなので、あっという間にレナータと親しくなっていた。あまりレナータに近づくなよと視線で牽制すると、おいおいと呆れたような苦笑が返ってきた。




