161話・浮気疑惑の真相
「この間、私は陛下が誰かに話しかけているような声を聞きました」
「時々、この姉上の肖像画に向かって語っていたのだ」
つまり彼女が、自分がこの部屋に入るのを見たと言う日の事だろう。彼女は盗み聞きしていたらしい。その事を咎める気がないが大いに脱力しそうになった。
「それにしてもこちらの絵は良く描けていますね。この絵はどちらの絵師が?」
「誰かに描かせた訳ではない。余が暇につぶしに描いた物だ」
レナータは感心していた。よく似ていると言いたいらしい。姉には一度も会ったことのない彼女がどうして姉の容貌をしっているのかと思ったが、執務室の絵を見ていたせいかと特に疑問には思わなかった。
絵のことを褒められていい気になってもいた。気がつけば幼い頃から絵を描くのが好きで画家になるのが夢だったのだと話していた。
そこでつい、自分は王になるよりも出来ることなら画家になりたかった等と言ってしまった。レナータに戯れ言と切り捨てられるかと思ったのに、彼女は言った。
「これからいくらでも描けば良いではないですか」
屋根裏部屋を改造してアトリエにしたらどうだとまで言ってくれた。絵を描くことを止めないのかと聞けば、普段政務で忙しいのだから息抜きくらい必要だとまで言ってくれた。優しい嫁だ。惚れ直した。
一緒に描くか?と、聞けば自分は下手だから苦手だと言う。何でもそつなくこなすレナータにしては珍しい。でも本人が嫌がることを無理強いする気はないので、モデルになってもらうぐらいはどうだろうと思う。
本人は風景画を描いて欲しい等と言うが、やはり姉上以外に描きたいものといえば、レナータの他に考えられない。その事は徐々に慣れてもらおうと思い、彼女にはとっておきの遺品を見せることにした。
「レナ。おまえにもう一つ伝えておこうと思う。これは亡き姉上さまの……」
「あ──!」
鍵付きの机の引き出しの中から一冊のノートを取り出すと、その表紙を見たレナータがひったくるように奪い取った。素早い行動に驚いた。
「れ、レナ?」
どうしたと言うのだろう? 何だかおかしい。レナータは自分と目が合い、ノートをペラペラめくりながら気まずそうに笑った。
「わ、私が昔、無くしたノートかと思いました。でも、違ったみたいですね」
そして手放すのが惜しいような様子でノートを差し出してきた。そのレナータを見ていて、何となくこのノートは彼女の手元にあった方が、姉が喜びそうな気がした。
「それは姉上が生前記していたノートだ。おまえにやろう」
「えっ? 良いのですか?」
レナータが満面の笑みを浮かべる。その反応にこれでいいのだと思った。レナータは顔や姿は違っていても何となく姉上に似た雰囲気を持っている。恐らく彼女は姉のソニアと似た思考の持ち主だ。このノートに心の底から共感できるのは彼女かも知れない。そんなレナータにノートをもらってもらった方が姉上も喜ぶに違いない。
ただ、ソニアの遺品でもあるので無くしてくれるなよと念押しだけはした。




