159話・会わせてやりたくても出来ない
自分をいつから欲情相手として見始めたのかと聞いてきたレナータだ。姉の形見の品を未だ手元に持っていると知ったなら何を言い出すか分からない。レナータの反応が怖かった。
そう思いながら屋根裏部屋へと足を進めたら、部屋の前にいるレナータを見つけた。それを見て彼女がそこまで自分に興味を持ってくれたのかと嬉しくなってきた。
「レナ。何をしている?」
「へっ。陛下っ」
背後から声をかけると彼女がビクつく。それが小動物じみていて可笑しかった。
「あの、これは……、その」
「ゲラルドや侍従達から聞いて知っているぞ。王妃は余の事が気になって仕方ない様子だとな」
「別に陛下のことが気になっていたわけじゃありません。私は……」
だとしたらどうだというのだろう? レナータが何と言い訳をするのかが気になった。
「何をしようとしていたのだ?」
「以前、陛下がこの部屋に入って行くのを見てから気になっていました。この部屋の中には一体何が隠されているのかと」
「この部屋には大したものは置いてないぞ。中にはおまえの興味を惹きそうなものは何もない」
そう言ってドアから引き離そうとしたのに彼女は粘った。自分には大切な物でも、彼女が見たら「なあんだ」と、言うようなものしか置いてないのは確かだ。そこまでレナータが執着する理由が分からなかった。
「レナ……?」
「あ。うそっ。開かない……!」
ガチャガチャ必死にノブを回すレナータを見ていたら、何が彼女をそういう行動に取らせているのかが気になった。
「そんなにこの部屋が気になるのか?」
「はい。中には人知れず陛下の気を惹く御方が匿われているのでしょう? どうして私には教えて下さらないのですか?」
水くさいじゃないですか。と、責められた。レナは勘違いしていた。自分がこの部屋に女性を囲っていると思っていたらしい。そろそろ打ち明けどきか。腹を括ることにした。
「そんなに会いたいか? この部屋の主に」
「はい。是非に」
「それは無理だな」
「どうしてですか?」
この部屋の主は絵画の女。現実には存在していない。でもこの後の彼女の反応が見たくてもったいぶることにした。我ながら悪趣味だ。
「この部屋の中におるのは余にとってかけがえのないものだ。いくらお気に入りであるおまえでも会わせてやる事の出来ないものだ」
するとレナータは拗ねた。
「陛下の意地悪。ちょっとぐらいお話させてくれても良いじゃないですか? このお部屋の中にいる御方は陛下にとって大切な御方なのでしょう?」
「ああ。その通りだ」
彼女の別に会わせてくれても良いじゃないかという態度で詰め寄ってきたので苦笑するしかなかった。会わせてやりたくもその人は故人で、今は絵画の中に収まっている。




