147話・ネリーの出産報告
それからの日々は政策に没頭した。特権階級にはいない民を飢えさせずに食べさせていく方法はないかと考え、灌漑工事を起こしてそこに人を派遣し、その人員に貧民層を当てた。食事と住む場所を与えれば、仕事にもやる気が出るのではないかと考え、報酬も働きに見合った分だけ宛がうようにした。その為の指揮する者や、監視者には信用が置ける者をおき、私欲を肥やすような者は排除した。その案件が落ち着いてきた頃には一年が過ぎていた。
そこへネリーの出産報告が届き、胸が躍った。女の子が生まれた? その報告を聞いて三ヶ月後、夜が明けるのも待たずに愛馬にまたがってバラムの屋敷へと向かっていた。
ネリーが子供を産んだ。男か女か。性別は気になるがまず赤子の顔を見たかった。どんな顔をしているか気になった。一目散に馬を目的地まで駆けさせて到着した頃には心が期待で膨らんでいた。
「バラム! バラムは居るかっ」
屋敷の前に立ち大声で呼べば、老齢に入りかけたバラムは渋面を作って玄関先に姿を見せた。
「陛下。朝からいきなり何ですか? そのように大声を出されて。供も付けずに一人で来たのですか?」
「供は付けずとも大丈夫だ。影がついている」
「……どうぞ、お入り下さい」
渋々と言った形で屋敷の中へ入れてもらった。
「まだネリーと赤子は寝ています。ネリーが起きた頃に呼びますので、陛下もこちらで少し休まれては?」
と、二階の客間に通された。
「では有り難く世話になることにしよう」
バラムが退出して寝台に横たわると先ほどまでは興奮して寝れなかったのに眠気に襲われた。
目が覚めて階下へと降りると、バラムが階段を上って来るところだった。
「陛下。いまお迎えに上がろうと思っていました」
「ネリーが起きたか?」
「いえ。食事は如何ですか? お腹が空かれたでしょう?」
バラムに気遣われて、食事もせずに馬に乗ってきたことを思い出した。食堂へと通されるとバラムの妻タチアナと息子が揃っていた。
「陛下。いらっしゃいませ」
「皆変わりはないか? ダニール、おめでとう。そなたもこれで一児の父親だな。ネリーと子供のことを宜しく頼むぞ」
「はい。陛下。母娘共々、大切に致します」
バラムの息子ダニールは父親に似た優しい男だ。この男なら兄の愛した女性を託しても大丈夫だろうと思う。ネリーは父親が亡くなった後、生家を継いだ兄嫁と折り合いが悪く追い出されそうになっていた。
そこを保護してバラムに預けていたのが思わぬ結果をもたらした。
この地方で取れた野菜を煮込んだスープとハム、固めに焼いたパンをその中に浸して食べながら(そうやって食べた方が上手いとバラムの息子に勧められた)会話していると、侍女に連れられてネリーがやってきた。その腕の中には赤子が抱かれていた。




