136話・テオドロス、おまえもか?
その後、密偵を放ち調べた所では、宮殿で暴動が起きたと言うのは将軍の罠で、宮殿に赴いたアレクセイ兄上は当然のこと、イラリオン陛下やソニアは囚われの身となっていたようだ。
焦燥に駆られてアレクセイの無実を証明する為に彼が接触した者や、宮殿で暴動が起きたと告げた使者の行方を追っていたら、アレクセイの処刑が決まったらしいと知らせが入ってきた。
同時に将軍からも帰還の促しの書状が届いた。アレクセイの無実を伝えるためにも兵を率いて王都入りすると、弔いの鐘が鳴り響いているのに出くわした。静かな王都の様子に不気味なものを感じながら宮殿へと馬を進める。
乗り込んだ宮殿では将軍と実母が待ち構えていて、その後ろに大勢の使用人を初め、将軍配下の者らに歓喜の声でもって受け入れられることになった。
「将軍。聞きたいことがある。兄上は……」
「イヴァンさま。無事のご帰還、我ら一同お待ち申し上げておりました」
「お帰りなさい。イヴァン。さあ、貴女達、支度を」
アレクセイのことを問いかけようとした自分を遮って将軍は頭を下げ、厚化粧の実母は満面の笑みを浮かべていた。
呆気にとられたのを、母の指示に従った女官に群がられて支度部屋に連れ込まれた。あっという間に着替えさせられ、姿見に映った姿にあ然とする。自分が着ているものは王子が着るようなものではなく、父王や、兄王が着ていたもの。
「これは……!」
「まあ、よく似合っているわ。さあ、聖堂で大司教さまがお待ちよ」
姿見に映った自分の姿に信じられない思いでいるのに、実母がさらに信じられないことを言う。半信半疑で聖堂へと足を向けると、大司教が待っていて儀式めいたことを行い自分の頭に王冠が乗っていた。
「おめでとうございます。陛下」
「我ら一同、イヴァン陛下に従います」
その場にいた者らが一斉に頭を下げた。謀られたと気がついた時には遅かった。将軍と実母が自分を王にすべく動いたのだ。頭を垂れる者達を見て今すぐ切り捨ててやりたい思いに駆られる。
そこへ宮殿の玄関前で制止するテオドロスの手を振り切って一人で乗り込んだせいか、その後を追ってきた彼が残りの兵を伴ってやって来た。そして罵られるかと思ったのに一斉に頭を下げられた。
「イヴァン陛下。おめでとうございます。ここに来るまでは何が起こっているのか分かりませんでしたが、我らも大変喜ばしいことに存じます」
「貴殿は確か陛下の部隊の?」
テオドロスとその部下を見てラーヴルが眉根を寄せる。テオドロスが言った。
「こちらに来るまでにキルサン隊長から話を伺いました」
「キルサンが。なるほど。今までよく陛下をお守りしてくれた。礼を言う」
部隊の一番後ろにキルサンが控えていた。キルサンは自分とは違う別部隊の隊長をしていた。そのキルサンがこの場にいるということは、元から彼はこの計画を知らされていたようだ。
ラーヴル将軍はテオドロスの肩に手を乗せ、これからも陛下の事を頼むぞと言う。その二人の姿を見て、腹心のテオドロスさえも寝返ったのかと恨めしい気持ちになった。
「さあ、皆さま。今夜はお祝いよ。この後広間で……」
落胆する自分の耳に母親の弾んだ声がどこか遠くに聞こえる。その後は良く覚えていない。気がつけば日が暮れて寝室にいた。




