132話・兄との再会
自分が十四歳で入隊した辺境部隊が置かれている岩で築かれた古城には色々な人物が揃っていた。親を怒らせるようなことをしでかして送り込まれた者や、この地に近い街育ちで他国から国を守る愛国心で入隊を希望した者、制服がかっこいいからという理由や、異性にもてるからという不純な動機で入隊した者。
しかし皆身分はそう高くない。王子であるイヴァンが入隊してきて、初めは遠巻きに見られていた。でも、イヴァンが上司から宛がわれた仕事を文句の一つも言わずにコツコツとこなしている姿勢から一人、二人と口を聞いてくれるようになっていった。
その部隊には後に自分の側で仕えるようになるキルサンや、テオドロスがいた。その頃、キルサンは先輩として自分の世話役を買ってくれていた。どうも実の父親である将軍が根回ししていたようだ。
男所帯でむさ苦しい部隊の中。仕事が終われば夜の街に繰り出す者も多い。ある日、娼婦館に行こうと仲間の一人に誘われた。
「いやぁ、俺は……」
「遠慮するなって。イヴァン。これは隊長の奢りだぞ。健全な男子なら女の体に興味があるだろう?」
「まさか王子様は結婚するまで清い体でなくてはいけないって決まりでもあるのか?」
「いやぁ、それは……」
困ったなと側にいたキルサンに目をやれば、当時五歳年上で十九歳になっていたキルサンが言った。
「まだイヴァンは成人を迎えていないんだ。勘弁してくれ」
十四歳と言えば成人している年だが、皆が彼の発言で勘違いしたようだった。
「そっか、おまえまだ十三歳だったか? 体つきがしっかりしてきたからもう成人を終えたと思っていたわ」
無理に誘って悪かったなと誘った男は頭を掻き、キルサンやテオドロスを連れて行ってしまった。翌日、帰ってきた男達は上機嫌で「来年、成人したらおまえも行こうな」と、言われた。あの頃は好きでもない女を欲望の為だけに抱くという行為を好きになれなかった。その気にならなかった。
王都から遠く離れた地にいてもソニアの事が気になっていたし、もしも娼婦を抱いたなんてソニアに知られたなら彼女の嫌うラーヴル将軍と同類に思われそうな気がして出来なかった。
数日後。王都の周辺の隊を任されていたアレクセイが司令官として辺境部隊にやってきた。それまで司令官だった者は入れ替わるようにして別の地方へと移動して行った。
移動してきたアレクセイにすぐに執務室へ呼び出された。
「久しぶりだな。イヴァン」
「兄上」
「なかなか男前になったじゃないか?」
腕を叩かれる。
「どうしてここへ? 陛下がお許しにならなかったのでは?」
「移動願いを出したのさ。兄上や姉上は困惑していたけど」
その頃には父王が亡くなって、兄のイラリオンが王位を継いでいた。イラリオンは体が弱かったのでソニアが摂政としてついている。ソニアとしては王位に就いてイラリオンも日が浅いし、王権を盤石とするためにも実弟のアレクセイを手放したくなかったはずだ。




