129話・兄弟たち
兄王子達とは王妃の取りなしで仲良くなっていた。兄王子達としては、父王の愛妾の子に面白くない思いはあったと思うが、だからといって邪険にされることはなく、彼らの弟として認めてもらっていた。食事は彼らと同じ席について同じ物を食していた。この場に陛下が加わることはなかったが、自分達は家族のように過ごしてきた。
そこでよく話題に上がったのがこの場にはいないソニア王女のことだった。皆が十四歳にして宮殿を飛び出し、領地改革に身を乗り出している王女のことを心配していた。
皆の話を聞く度に自分も一度も会ったことはないソニア王女のことが気になっていた。兄達に聞くソニア王女とは、外見が父王に良く似ているだけではなく激しい気性も似ているらしい。型破りな王女で男勝りなのだそうだ。
母王妃が「少しは女らしくして欲しいのだけど」と零せば、すぐ上の兄であるアレクセイが「無理、無理。姉上は性別を間違えて産まれてきたんだ。変わりはしないよ」と、笑う。
その脇でイラリオンが「僕が女でソニアが男だったなら上手く世の中を回したのかも知れないのにね」と、残念そうに言い、王妃から「何を言うの? あなたはあなたのままでいいのよ」というのが定番だった。
イラリオンはソニアが持ち上げられると、きまって自分を卑下する。イラリオンは王妃に似た優しい気質で使用人達を怒鳴りつけたりしない。そのような人がこの場にはいないソニアと見比べてがっかりするのが不思議に思われた。
そこでアレクセイと二人きりになった時に聞いてみた。
「アレクにいさま。どうしてラリーにいさまはソニアおねえさまとじぶんをくらべるの?」
「ヴァンは知らなかったか? ラリー兄上とソニア姉上は双子なんだ。外見は似ていないけど一緒に産まれたからね。父王としてはつい、比較したがるのさ。二人同時に産まれたのに、ソニア姉上があまりにも出来が良いものだから、後継者のラリー兄上は落ち込んじゃってさ」
父王としては心優しいラリー兄よりも、気性の激しいソニアの方が王に向いていると思っていたようだった。アレクの話に納得すると、アレクの事が気になった。
「アレクにいさまは、きにならないの?」
「え? 僕の今後のこと? 僕は第二王子だからあの二人に比べれば気楽なものだよ。いずれ王子ではなくなって王の臣下に下るし。剣術が得意だからそっちを生かそうかと思っている。ヴァンも軍隊に入らないか? おまえは強くなりたいんだろう?」
「うん。やる! ぼく、つよくなっておかあさまやみんなをまもりたい」
「良い心がけだ。僕と一緒に頑張ろうな」
「はいっ」
その言葉がきっかけで自分は剣術の教師をつけてもらう事になった。王妃は危ないからと言って止めようとしたが、自分は一日も早く王妃が守れる強い人間になりたかった。
そんな自分をソニアはどう扱っていいのやら悩んでいるらしく自分から接触してくることはなかった。ソニアとしては、宮殿を不在中にいつのまにやら出来ていた異母弟にどう接していいのか分からなかったのだろう。
それでも何度か顔を合せて行くうちに話す機会は増えて、王妃と同じような優しい目で見てくれるようになった。
「イヴァン。あまり奥へ行っては駄目よ」
「へいき、へいき。あっ」
前を見て歩いてなかったことで誰かにぶつかった。見あげると優男風の男と目があった。男はこの見た目とは中身が伴わない戦神と評判のラーヴル将軍だった。
「これはイヴァン殿下とソニア殿下ではありませんか」
「ラーヴル将軍」
将軍は愛想が良かった。武勇もあり見目が良いこともあって女性にも注目されている。その男をソニアに近づけることを良く思わなかった。咄嗟にソニアの前に出ると将軍が苦笑いを浮かべた。




