128話・あなたはあの人に似ているわ
「あやつに良く似ておる。だからか。まだ、あやつにお心を残しているのか?」
「陛下。お許し下さい。この子は関係ありません。ヴァンを離して」
陛下は自分を睨む。陛下の口ぶりでは、自分が己の子ではないような言い方で気になった。まるで敵でも見るような目つきに足が竦む。王妃は陛下の手から自分を奪い取ってくれた。
綺麗で優しい王妃が自分の為に身を挺して庇ってくれていることに安心感を持つと同時に、自分が王妃を助ける事も出来ない子供だと言うことが情けなかった。
「この子はまだ五歳の子供なのです。乱暴は止して下さい」
毅然と立ち向かう王妃を、陛下は睥睨した。
「おまえはアレクセイが産まれた後、自分の義務は果たしたと言いおった。お褥すべりを自ら望んだ。我との伽を拒否したのはまだあやつに心を残しているせいか?」
「ご勘弁下さい。もう私は若くないのです。陛下の望むようには応えられません」
「ふん。興が削がれた。おまえの顔など見たくも無い」
陛下は踵を返したが、言葉で言うほど王妃を嫌っていないように見えた。退出する陛下の背が寂しそうに見えた。
二人は何かで行き違っているようにも思ったが、子供の自分には預かり知らない事だ。王妃と二人で黙って陛下を見送った後、王妃はため息をついて自分を抱きしめた。
「ご免なさいね。ヴァン。怖い目に会わせてしまって……。でも、ありがとう。庇ってくれて。頼もしかったわ。まるで騎士さまみたいだったわ」
そう言いながら自分を抱きしめてくる王妃の体は震えていた。泣いているのかと思ったら、顔面が蒼白だった。王妃は陛下を恐れていたのだ。
今まで自分は王妃に庇護され危険から遠ざけられていた。いわば王妃は命の恩人とも言える。その人がこんなにも陛下を恐れている。陛下は王妃にとって害にしかならないようだと思ったら、早くこの人を守れる存在になりたいと思った。
「おかあさま。ぼくはおかあさまをまもれるようなつよいひとになります」
「……!」
その言葉に王妃は目を見張り、弱々しい笑みを浮かべた。
「あなたはあの人に似ているわ」
王妃のいうあの人とは誰なのだろう? 先ほどの二人の会話からとても陛下の事とは思えなかった。だとしたら自分は父王の子ではないと言うことだろうか? ぐるぐると先の見えない不安だけが押し寄せてくる。
その中で王妃が有り難うと言いながら頭を撫でてくれたことだけは嬉しく思っていた。




