123話・あなたはソニアを越える事は出来ない
「アルシエン国王はブリギット殿下が亡くなった事を知っていましたが、その事を国元には伏せていたからです」
「その頃はまだブリギット殿下を寵愛している前国王さまが存命中で、ロディオン王子も姉上さまに会いたがっていたから?」
「その通りです。しばらくブリギットさまが亡くなったのを隠しておく必要がありました」
「哀れよね。偽ブリギットも。暗殺者から修道女になって孤児院の子供達の世話をして手なずけたと思ったら、ロディオン王子に会って姉弟ごっこに、イヴァンに近づいて誘惑まで頑張ったのに報われないわね」
どうせあなた方は彼女を見捨てる。彼女も許されるような罪ではないと言えば、あの女も腹は括っていると応えが返ってきた。
「あれも失敗した時点で、アルシエン国王には切り捨てられております。必要以上に語る事はないでしょう」
宰相は感情をそぎ落とした顔で語った。彼らの企みの裏にアルシエン国王が関与していたのは確かなのに、それ以上聞き出すのは無理なようだ。国王はしらを切るのが分かりきっている。国王を罪に問うのは難しいものに思われた。
私は最後に宰相に聞いておきたいことがあった。彼はソニアを貶めてまでも手に入れた宰相の座に満足していたのかを。
「あなたはこれで満足して? 邪魔だと思っていたソニア殿下の命を奪ってまでも手に入れた宰相の座はどうだった?」
宰相からの言葉は無かった。彼は無言だった。
「あなたは満足できなかったのね? 今もまだソニア殿下の亡霊に取り憑かれているのではなくて?」
「そのような事はあり得ません。ソニア殿下が余計なことさえしなければ私はすぐに宰相になることが出来たんだ。それを王女という立場で面白半分に領地改革なんか行って、私の出世を阻んだ。殿下のせいで私はこの手を汚した」
宰相の余計な言葉が黙って聞いていたイヴァンの怒りを再び買った。
「この屑めが。まだ言うか?」
「宰相。人のせいにしないでくれる? あなたは机上の空論ばかり述べては、具体的なことはほとんど人任せだったわね? そんな人に宰相を任せられるわけがないじゃない」
「……」
「口で言うだけなら誰でも出来る事よ。ソニア殿下があなたの出世を阻んだというのなら、彼女を越える何かを自らの手でやり通してみれば良かったのよ」
自分の実力を目に見える形で証明してみれば良かったでは無いかと言うと、宰相は項垂れた。
「ソニア殿下に恨み節を吐いている以上は、あなたは彼女を越えることは出来ないわ。ソニア殿下をそれだけ気にしていると言うことだもの。自分が叶わないと心のどこかで認めているから、悔しくて批難することしか出来ないのよ。そんなあなたのどこが彼女を越えたと言えて?」
彼女の事を気にしている以上は負けているのだと指摘すれば宰相は悔しそうに唇を噛みしめていた。




