120話・宰相の嫉妬
後日、取調室で宰相の取り調べが行われた。朝早くから行われると聞いていたし、イヴァンから同席しなくとも構わないと言われていた。
でも王妃としてまた、ソニアの記憶を持つ者としてどうして彼がそのような行動を取ったのか知りたかったので参加する事にした。
身支度に時間が掛かってしまった為、遅れて参加する事になってしまった。
湿っぽい牢屋へと続く階段を降りていき、鉄格子の部屋が並ぶ先に目指す部屋はあった。女官長が静かにドアを開けた先には中央で両手を後ろ手に縄で縛られ、衛兵によって膝をつかされた形の宰相と、腕組みをして見下ろすイヴァンがいた。
「では認めるのだな?」
「はい。私がやりました。以前からアルシエン国の王太子とは……アルシエン国王とは連絡を取り合っておりました。私は摂政姫として名高いソニア姫に嫉妬していたのです」
どうも過去から取り調べていたようだ。ソニアの名前が出てきて驚いた。私は彼らから離れた場所で見守ることにした。
「ソニア殿下の殺害にレンゲアザレイアの花蜜を使用しました。殿下なら領民の志を無碍にしないと分かっていたからです。ワインに毒を仕込みました」
あの頃、囚われの身でも領民達からソニアだった私の元へ差し入れがあった。その差し入れを楽しみにしていた。品物に毒を入れることが出来た人間は限られていると思っていたが宰相が仕込んでいたとは。なぜという思いしか湧かなかった。
宰相はソニアの双子の兄、イラリオンの学友だった。宰相は抵抗せずに淡々と話していく。
「私にとって亡きソニア殿下は邪魔者でしかなかったのです。私はあの頃、次の宰相の座を約束されておりましたのに、イラリオン王太子が王位に就かれ、いざ蓋を開けてみるとソニア殿下が摂政になる事が決まり、私はそれを支える副宰相の地位に留められていました」
彼にとってかつて学友だった王太子のイラリオンが王になった暁には、自分が宰相になれると信じていたのに違っていた。それが許せなかったのだという。
「そこでソニア殿下を側に置くイラリオン陛下を恨み、ソニア殿下を追い落とす為に、彼女の事を気に食わなく思っていた者達と手を組んだと申すか?」
「はい。アニスさまとラーヴル将軍に、あなたさまを王位に就かせるために協力しても良いと近づき、事の暁には宰相の地位をもらう約束になっていました」
宰相は副宰相としてソニアの下に着くのが面白くなかったようだ。その為、イヴァンの母である愛妾や、ラーヴルと手を組んだそうだ。
彼らの狙いは愛妾の息子であるイヴァンを王位に就けること。その見返りに宰相の座を求めると二人とも快く応じたらしい。
「しかし、私は陛下を甘く見ていました。アニスさまの息子であると言うことから、思うように事が進むと思っていたのに当てが外れました」
「傀儡に出来なくて残念だったな。余が粛清を始めて恐れたのか?」
「はい。まさか陛下がご自身を王位に就けるのにご尽力したご母堂や、将軍をいの一番に処刑されるとは思いませんでしたから」
「余がおまえの思惑通りに傀儡の王と出来なかったのは残念だったな」
「とんでもない御方を王位に就けてしまったと思いました。そして次に粛清されるのは自分ではないかと恐れを抱きました」
「そこでおまえは余の機嫌を損ねない為に、自分の配下の娘を宛がおうとした」
「保険です。陛下は前王妃殿下と仲はあまり宜しくなく、妃殿下の産後は離宮へと追いやられていましたから、チャンスはあるのではと思い込んでおりました。しかし、レナータさまが現れてその願いも叶わなくなりました」




