115話・おっさん国王VS礼儀を知らない王子
宰相は項垂れた。事情を知らないロディオン王子は喜色を露わにした。
「あんたすげぇな。ますます気にいった。俺の嫁になれよ」
「それはお断……」
ロディオンが私の手を取ると、もう一人護衛として側にいた男がその手を振り払った。
「レナは誰にもやらん」
「おまえ、イリヤじゃないな。何者だ?」
ロディオンは今更ながら、深く帽子を被っていた共にいた男が仲間ではないと気がついたらしい。帽子を脱いだ顔は私の見慣れた顔だった。私は彼が変装してこの場にいた時から気がついていた。その為、強気の発言も出来た。何か危険に晒されれば彼が間違いなく助けてくれると思ったから。
「陛下!」
慌ててその場に宰相は膝をついた。
「宰相、おまえは後で尋問することにする。後ろ暗い事が沢山ありそうだな。おい、連れて行け」
イヴァンが顎をしゃくるとどこからともなく間者が現れて宰相を連れていく。
「ヴァン」
「へぇ、あんた陛下か?」
イヴァンは私を腕の中に囲んでしまう。それを見てロディオンは面白くなさそうな顔をした。
「もしかしてさ、王家の秘宝ってそのあんたの瞳のこと?」
「ご名答」
「なるほど。だから誰も手にしたことがないのか。してやられたな。ますます欲しくなる」
「レナータはやらんぞ」
ロディオンの言葉にイヴァンが目つきを険しくした。
「分かったよ。おっさん。そう怖い目で見るなよ」
「最近の若者は目上に対する言葉使いがまるでなっておらんな」
「失礼致しました。クロスライト国王陛下」
イヴァンとロディオンの間で目に見えない火花が散ったような気がした。
「さあ、おまえの知っていることを吐いてもらおうか?ロディオン王子。この件には貴殿の兄、アルシエン国王はどこまで関わっている?」
「吐いても良いが、無駄じゃ無いか? 兄上を問い詰める事は出来ないぞ。あの兄のことだから、都合の悪くなった俺のことは切り捨てるだろうからな」
ロディオンは冷静に言った。
「そうかしら? 別に人質はあなただけとは限らないわよ」
「まさかあんた! ブリギット姉上を?」
その言葉に反応した者はいなかった。つまりこの場にいる者は皆、知っていると言うことだ。何も明かされなかった私には腹立たしい限りだった。
「やはりブリギットはアルシエン国の王女殿下でしたか」
「でも姉上は俺たちとは違って正妃の子ではなく側妃の子で……」
鎌をかけてきたら予想以上の情報が知れた。
「宰相が養女にするぐらいの相手ですからそれなりの身分がある御方だとは思っていました。ソニア殿下が亡くなられるきっかけとなった政変に乗じて起きた国境の争いとはブリギット絡みなのでしょう? 陛下」
前世の自分に絡みついてくる影響がこんなにも大きいとは思わなかった。
「レナータ。おまえには全てが終わってから話すつもりだった」
「酷いですわ。私だけ蚊帳の外ですの?」
イヴァンと向かい合う自分はどんな顔をしているだろうか? イヴァンにはソニアという前世の記憶ごと愛してもらっているけれど、だからといってそこまで求められているわけでもなかったのか?
私はあなたとは対等になれないの? あなたの隣に並ぶ私とは所詮お飾りなのか?
愕然とする私の耳に廊下の外で揉め合うような声がして、この場に一人の女性が乱入してきた。




