114話・あんたの事を気に入った
「妃殿下。その事をどちらで? ソニア殿下はワインの毒で亡くなられたと聞いておりますが」
「そうね。事実を知るのはそれを企んだ者と仕込んだ者しかいない」
後はそれを盛られて死んだソニアだった私、以外はね。と、心の中で呟いてみる。青ざめる宰相を前にして私はほくそ笑んでいた。ソニア暗殺の真相を知るラーヴル将軍と、王の愛妾はすでに亡くなっている。真相を知るのは宰相のみのはず。
彼にとってソニアは越えられない大きな壁だったはず。ソニアがいなくなってイヴァンが王冠を頭にした時、彼が宰相になったのは将軍達と手を組んでいたのは明らかだ。その彼をイヴァンが粛清せずに生かしておいたのは、イサイ公爵が育つのを待っていた為と、意外に宰相が大人しくイヴァン体制のもと従って来たからに違いなかった。
宰相がこのまま大人しく従っているのならイヴァンは行動を起こさなかっただろう。これからも上手く宰相を従える気でいたはずなのに、宰相が私の暗殺まで企てようとしたのが間違いだった。
「宰相。いい加減、腹を括ったらどうです?」
「妃殿下。何を言われているのか私にはさっぱり……」
「抗うというのね。仕方のない人ね」
ため息を漏らせば、ロディオンが先ほどの話だがと、口を挟んできた。
「妃殿下。俺にも話の流れが良く分かってないがでも、あんたの事は気に入った。王配って事はあんたが王になる気なんだろう? その夫に俺はどうだ?」
その発言にもう一人いる護衛がたじろぐ。
「そうですねぇ。王子には教えてあげましょうか? 王家の秘宝の秘密を」
「本当か?」
「妃殿下!」
期待に胸を弾ませる王子を前にして、宰相が止めようとした。
「そういえばねぇ宰相。私、ある物を探しているの。この額縁の裏に隠されていたはずの物をね」
「あなたさまがどうしてそれを……?」
「ソニア殿下の父王陛下は大事な物を額縁の裏に隠すのが癖だったのよ」
「……!」
「宰相ったら、正直ね。どこの馬の骨が産んだとも知れない娘がどうしてその事を知っているのかと言う顔をして」
本当ならイヴァンが私を王太子妃にと言い出した時に宰相という立場からして、一番に反対しそうなのにそれをしなかった。口喧しい者達は影で宰相が陛下の粛清を恐れて陛下の言いなりになっていると言っていたが、私は違うと思っている。
それなのに年を取ってきて彼は自分の醜い欲望の為に私を亡き者にしようとした。もう一度、思い知らせてやるしかないように思われた。私が誰なのかを。
「あなたは真相を知っていたのよね? 額縁の裏に隠されていた情報によって。あなたの考えているとおり私は先々王の血を引いているわ。私の祖父だもの。陛下は公表しなかったけれど私こそがアレクセイ殿下の娘よ。瞳の色が証拠よ」
「本物か!?」
ロディオン王子も驚いていた。一時、フランベルジュ国の社交界でアレクセイ殿下の娘を名乗る娘が王子や側近達を虜にしていた話はお隣のアルシエン国にも伝わっていたらしかった。




