109話・ブリギットと宰相の関係は?
その日、イヴァンは私の元を訪れなかった。てっきり仕事で忙しいせいと思っていたのだけど、他にも理由があったようだ。
「陛下が……」
「え? うそ。本当なの?」
「だって、彼女の部屋から出てきたって……」
翌朝、若い女官達が噂しているのを聞いてまさかと思っていたのだけど、庭に散策に出て噂の二人を目撃してしまった。
イヴァンとブリギットは二人仲良く肩を並べて談笑していた。
「おはようございます。陛下」
「ああ。レナ。夕べは遅くなったからおまえに伝え忘れたが、しばらくブリギットはこの城に留めおく」
「お客様としてですか?」
「……ああ」
イヴァンは私の問いに、何だか歯切れの悪い反応を示す。
「宜しくお願い致します。妃殿下」
「宜しくね。ブリギットさま」
ブリギットが微笑んでくる。イヴァンは事も無げに言った。
「そろそろ昼餐の時間だろう? ブリギットも共にどうだ?」
ブリギットも一緒で良いよな? と、聞かれ頷いてしまったが心の中は複雑だった。相手がイサイ公爵夫婦のように、打ち解けた間柄ならともかくも、過去イヴァンが気にかけていた女性と言うだけあって心の中がもやもやするのだ。
「王さまってどんなに良いものを食べているのかと思っていたけど、私達とそう変わらない食事なのね? ヴァン」
「これか? 普段の食事だが? なあ、レナ」
「ええ。いつもと同じですわ」
食事の席についたブリギットは目の前に置かれた食事を見て不服そうな声を漏らした。目の前にあるのはチーズに生野菜、エビのパテにパスタ、ひよこ豆のスープ。それを見て王族が食べるにしては質素に感じたらしい。
「これで十分だよな? レナ」
「はい」
どこかおかしいか? と、イヴァンがブリギットを見る。彼女は苦笑いした。
「ヴァン達は毎食、豪勢な食事をしているのかと思って」
「それは宰相に吹き込まれたのか?」
「お義父様は関係ないわ」
イヴァンは抜け目がなかった。やはりブリギットを警戒しているようだ。宰相のことを義父と呼ぶ彼女が気になった。
「そういえばブリギットさまは還俗なさったの? 宰相のことをお義父様と呼ばれているようだけど、どのようなご関係なの?」
「わたくしはつい最近、還俗致しました。宰相さまは修道院の院長さまのご友人のご関係で身元引受人となって下さり、わたくしを養女にして頂いたのです」
ブリギットは還俗し、宰相の養女になったと言った。この間会った感じでは一生を修道院に捧げる感じではあったから驚いた。
「そうなの。てっきりブリギットさまはあのまま修道院におられるのかと思っていたわ」
「余もそう思っていた」
私の言葉にイヴァンも同意する。イヴァンの様子から何か目的があってブリギットを側に置いている感じがした。
「昨日は人払いまでしてお二人でどのようなお話を?」
「それはここでは言いにくいな。後で話してやろう」
イヴァンがブリギットを見ながら言う。ブリギットは俯いた。何かそこにあるらしい。




