107話・おまえは必ず守る
「宰相を更迭って、彼は何をしでかしたの?」
「宰相はおまえの殺害を企んでいた」
「……! いつから?」
「おまえが王妃となってからずっと狙っていた」
「でも、私は何でもないのに……?」
そう言いながら気がついた事があった。銀のスプーンを持ち歩くことを勧めてきたのはゲラルドだ。
「まさかゲラルドや、セルギウスは……?」
彼らは私が狙われていることを察していた?
「奴らは毒の扱いに長けた一族なのだ。彼らは王族の侍従として一目置かれてきたが、それは王の側にいて毒から主の命を守るためだ」
「知らなかった」
そのような目的で父王がセルギウスを側に置いていたなんて初耳だ。
「彼らの事は王家の中で秘匿とされているからな」
「そうだったの。では、私は何度か彼らに救われてきたということ?」
「ああ」
「宰相はどうして私を?」
「おまえが死ねば次の王妃に、自分の息がかかった娘を宛がうことが出来る」
「あなたは前王妃を亡くした後、一応独り身だったのだから機会は幾らでもあったのに?」
「あの頃はヨアキムが後継者となっていたし、おまえという許嫁もいたからつけ込む隙がなかった。そこへヨアキムが婚約破棄を起こし、廃嫡されたことで宰相は一度捨てた夢を諦めきれなくなったのだろう」
宰相は王の外祖父となることを望んでいたとイヴァンは言った。他の国でもあることだ。野心家の家臣が王に自分の娘、もしくは息の掛かった娘を王妃に宛がって生まれてきた王子を王位に就かせて傀儡とし、外祖父として政治に介入することは。
「それで邪魔な私を消すことにしたのね?」
「そうだ」
「じゃあ、宰相は業を煮やしているのかしら? 私がなかなか死ななくて」
「おまえを死なせはしない。王の代わりはいてもおまえの代わりはいない」
「イヴァン。馬鹿な事を言わないで。私にとってあなたの代わりは誰にも出来ないのよ」
早まって馬鹿な行動をしないでね。と、言えば勿論だと答えが返ってきた。
「分かっている。無理はしない」
「ねぇ、あなたが戦うのなら私も共に戦う。私にも手伝わせて」
「駄目だ。それだけは叶えてやれない。おまえを二度と喪いたくないんだ。分かってくれ」
「ヴァン……」
イヴァンが覆い被さってきた。私は彼の背を抱きしめた。
「おまえは必ず守る。だから今は大人しく守られていてくれ」
私は前世、イヴァンの腕の中で事切れた。イヴァンはそれを恐れているようだった。




