105話・そなたへの愛に余の命を預けよう
ソニアにプロポーズしようと考えていたと言うイヴァン。あの頃の私ならどう答えただろうか? 弟としてしか見てこなかったイヴァンの気持ちに触れて何か変わっただろうか?
「一度は姉上の死で腑抜けになって計画は頓挫したこともあった。でも、テオに男なら最後までやり通せと叱責されて投げ出さずに続けた結果、ようやく完成した。こうしてレナに見せることが出来て良かった」
「イヴァン。ありがとう。こんなにも美しいものを見る事が出来るなんて思ってもみなかった」
私の言葉にイヴァンは弾かれたように顔をあげ、その場に跪いた。
「レナ。この先も余に付いてきてくれないか?」
「勿論よ。ヴァン」
こちらを窺う眼差しが熱かった。イヴァンに手を差し出すとその掌の指先にキスをされた。まるで童話に出てくるような騎士とお姫様のような構図だ。
「レナータ。そなたへの愛に余の命を預けよう」
「イヴァン」
ここまで尽くされて拒める女性はいないと思う。その前に拒む気はないけれど。イヴァンのスケールの大きさに、もうイヴァンのくせにと言えなくなっているのを自覚させられる。
イヴァンはソニア亡き後、大きく成長していた。摂政姫と言われていた私、ソニアを越えたのだ。私の心を揺るがすくらいに魅力ある男性へと。
「ここまで来るのに相当な年月が掛かったでしょうね?」
「余が戴冠してからすぐに取りかかったから十七年掛かったか」
ため息が出るほどに美しく、巨大な水上の都を作り上げたイヴァンにはお見事としか言えなかった。彼は王位に就いてからひた走って来たような気がする。
いくらソニアの日記を元にしたと言っても、交通機関を整え、医療や、学校に市場、工場などと次から次へと改革し、このクロスライト国を大きくさらに繁栄へと導いた。
このようなことは誰にでも出来ることではない。イヴァンの手腕によるものだ。しかも、我が国を田舎者と蔑んでいた他国の王族達を見返せるぐらいに栄えさせた。今や、各国には我が国の名を知らぬ国など存在しない。それもこれもイヴァンのおかげだ。
父王はひょっとしたらイヴァンの才覚に気がついていたのではないかと勘ぐりたくなる。イヴァンの隣に並んで手を握ると、その手に力が込められた。
「もう都の名前も決めてある」
「何と命名する気?」
「レナータだ。水上の都レナータ」
そう言ってこちらを覗き込んできた瞳は「どうだ?」と、私の反応を窺っていた。




