103話・昼間に見てもらった方がいい
翌朝。寝台の上で目覚めると珍しくイヴァンが隣にいなかった。いつも必ず目覚めると隣に彼がいるのが当たり前だったから寂しく感じられた。
「ヴァン?」
「お目覚めですか? 妃殿下」
ちょうど女官長が二名の女官を連れて入室してきた所だった。
「陛下は?」
「陛下なら先に起きておられます。妃殿下はお疲れのようだからゆっくり寝かせておくようにとの仰せでした」
「そう」
寝台から降りると、窓の外から二人の男性の気合いの入った声が聞こえてきた。
「あれは?」
「陛下がイサイ公爵さまと鍛錬をなさっておいでです」
窓の外を窺うと、二人はシャツに半ズボンという身軽な姿となって互いに向き合っていた。お互い刃の潰した剣を持って打ち込みをしていた。こうして見ているとふたりとも少年のように生き生きして見えるから不思議だ。
「さあ、妃殿下。お着替えを」
女官長の促しに窓から離れ、身支度を調えることにした。着替えが済んで髪の毛もまとめてもらうと外ではまだイヴァンがイサイ公爵とやり合っている。
応接間の方に移りバルコニーに出て彼らの様子を眺めていたら女官長に提案された。
「お食事をこちらにお運び致しましょうか?」
「頼めるかしら?」
「畏まりました」
これで好きなだけ彼らを見ていられると思ったのに、女官長と話をしている間に修練は終わってしまったようだ。少し残念に思っていると、部屋にイヴァンが入ってきた。後ろにイサイ公爵を連れていた。
「起きたか? レナ」
「おはようございます。陛下。イサイ公爵」
「こいつも一緒にいいかな?」
「失礼致します。妃殿下」
二人は修練の後、まっすぐこちらに来たらしい。私が頷くと、女官長はすぐに女官に食事の追加を伝え、バルコニーに用意されたテーブル席に三人分の食事が並んだ。
「朝から体を動かしたから気持ちが良いな」
「良い汗をかいた。ヴァンは俺と違って剣を振るう機会もないから体が鈍っているんじゃないかと思ったけど結構、追い込まれたな」
「まだまだ現役だからな。毎日執務室で書類に取りかかる前と休憩中には体を鍛えている」
「だからか。体力全然落ちてなくて驚いた」
「おまえもさすがだな。動きに乱れがない」
二人はお互いに相手の腕をたたき合っている。二人の仲の良さが羨ましかった。
「ヴァン。聞きたいことがあるの」
「何だ?」
「昨日、これからこの城に住むってあなた言っていたわよね? どういう意味?」
私の質問にテオドロスが訝る様子を見せた。
「おまえ、ヴァン。レナータさまにまだ言ってなかったのか?」
「レナは眠そうだったからな。ここに着いたのは深夜だったし、教えるなら昼間の方が最適だろうと思っていた。まあ、取りあえずは食え」
「……?」
テオドロスの問いに、澄まして答えるイヴァン。確かに昨夜はこの城に着いた時点で眠かった。そんな状態で話をしても私の頭が回転しないだろうと言う意味で言ったのかと思ったのだけど、後に昼間の方が最適の意味を知る。
この時は意味不明で説明を求めるようにイサイ公爵を見てしまった。公爵からは苦笑が返ってきた。
「食べたら教えてやる。実際に目にしてもらった方が早いからな」
私の不安を察したらしいイヴァンにそう言われてしまったら何も言い返せない。黙って食事を摂った後、この城の屋上へと連れ出された。




