102話・宰相の不幸
レナータ付き(王妃付き)の侍従長はゲラルドです。元アリスの許婚で現在はレナータの侍従長をしております。彼の伯父がセルギウスです。セルギウスは陛下付きの侍従長をしています。
現在、宰相が始めイヴァンに推してきた娘は、レナータの侍従長ゲラルドの妻となっている。宰相は遠縁の娘とは言っていたが、その娘が愛妾に産ませた娘だと間諜の調べで分かっていたイヴァンは、ゲラルドとの縁談を持ちかけて有無を言わさず結ばせた経緯があった。宰相である父親は狡猾な男だが、その娘は父親には似なかったようで政略結婚相手であるゲラルドに真摯な態度で向き合い、仲良く結婚生活を送ってくれているのが救いだ。
宰相は正妻との間に娘がいない。その為、自分の息の掛かった配下の娘をあの手この手でイヴァンに勧めようとしてきた。娘が見初められたなら養女にするのは明らかだった。それほどまでに彼の中で外祖父とは魅力的だったのだろう。
「しかしさ、いつからここを手入れしていたんだ? 俺らが入城する前から色々と整っていたみたいだけど?」
「戴冠してすぐだ」
「それは随分と用意のいいことで。しばらく遊んで暮らせそうだ」
テオドロスは室内を見回す。ここは狩猟の城でありながら敵の侵入を許さない堅固さもあり、武器庫に一通り装備や武器が揃っている上に、貯蔵庫には数年では食べきれないほどの食料が揃っていた。
長期の籠城が出来そうだなとテオドロスが言ってくる。
「備蓄品がたまりに溜まったから移したまでだ」
「いや、宮殿にも結構な数、あったよな?」
「こちらに移した」
「はあ? その事を宰相は?」
「今頃、気がついているかもな。もって二日だろう」
イヴァンがほくそ笑む。テオドロスは苦笑いを浮かべた。
「宰相も気の毒に」
今頃、宰相は新国王となる予定の前イサイ公爵と手を組んでイヴァンらの帰りを待ち、打って出る気でいるのだろうが彼らの思う未来が来ないのは明らかだ。彼らはイヴァンの怖さを忘れたかのようだ。
あの粛清が再び? と、思ったなら彼らに与していても逃げ出す貴族が現れてもおかしくはない。
イヴァンは二日でケリをつけると言った。彼が確信もなく言うことはあり得ないことをテオドロスは良く知っていた。
宰相の不幸はイヴァンを敵に回したことだと思う。宰相はイヴァンが年若い妻に夢中になっている今が王位剥奪のチャンスだとでも思ったのだろう。
今回の旅行もレナータが望み、彼女のおねだりに弱いイヴァンがそれを叶える形で実現したと耳にしているはずだ。
イヴァンの粛清の記憶も薄れているのだろう。あれから年月が過ぎてイヴァンは丸くなったとでも思っていたとしたら大間違いだ。始めからイヴァンは宰相を警戒していた。爪を研いで確実に仕留める機会を窺っていただけだと言うのに、イヴァンの表側の顔に騙されてしまったようだ。
「来週にはケリがつく。忙しくなるから覚悟しておけよ」
「御意」
イヴァンの言葉にテオドロスは苦笑しか返せなかった。




