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9、儚い王子は何を思う?




レンside




露店で色んなものを食べた後、違う道へと案内された。


「レン様。1歩違う道に入れば、こうなるんです」


「人通りが少ないね⋯」


「それだけじゃ、ないんです」


「助けて⋯。お腹空いた⋯」


そこには、今にも野垂れ死にそうな親子がいた。


「!?」


「そう。こういう人達が、いっぱいなんです。さぁ、これを食べて」


彼女は持ってきていた食べ物をそっと出し、親子に差し出した。


「お兄ちゃん⋯。ありがとう⋯」


「ありがとう⋯ございます⋯」


涙を流しながら、少女と母親は、必死に食らいついて食べている光景は──





生きたい─────





そう思っているんだと、強く感じた。

それもそうだ、誰しも"死にたい"と思う人はいるだろうか。いや、大抵の人は死にたくない(ソフィも、その1人)と思うはずだ。


1人物思いにふけっていると、ソフィから声がかかった。


「行きますよ」


そうして───


連れられて来たのは、さっきの明るい通りだった。俺は質問をぶつけた。ぶつけるまでもなく、分かりきっていた事だが。


「あれは⋯どういうこと?」


「この国は一見、豊かに見えてそうじゃないという事だよ」


「⋯⋯あの⋯⋯⋯両親⋯⋯のせいか」


「何か言いましたか⋯?」


「何でもない⋯」


「⋯⋯⋯あぁいう人達をどうにかするには、かなりの改革が必要だ」


そうだろう、途方もない改革が必要だと思う。俺は知らなかった。知ろうともしなかった。住む場所もなく、食べる物もなく、苦しんでいる人が、いるなんて。


「住む場所に、働く場所。そして、ご飯を食べれること。衣食住が必要なのよ」


「ふむ⋯⋯」


「自給自足が出来れば⋯いいんだけどね。作物を作ってだとか。まぁ、この国は気候が良いことが唯一の救いかな 」


確かに、この国は気候が豊かだ。作物を作るのも適しているだろう。



俺は生まれた時から王子だった。



そして──立派な王子と、なるべく教育を受けた。



何の為に、教育を受けているのか分からないまま────。



でも、ひとつ答えが見えた気がする。

俺は今のままじゃ駄目なこと。助かる命も助けられないなど、国の上に立つ者では無い。


俺の教育の過程でも、民の税が使われてきているのだ。




早々に、何とかしなければならない───




俺は、やっと⋯自分の存在意義を知った。目の前にいる婚約者の、お陰で。


「⋯⋯そう」


「そういう訳で家に帰り─────」


彼女は帰ろう──と言いかけて言葉を切り、走り出した。


「ど、どこに行く?!」


俺が声をかけても、彼女は見向きもしない。

とにかく、彼女を追いかけた。


「これは⋯高く売れるぜ。他の奴等も一緒にな」


「あぁ。この国は無法地帯が多くて人攫いなんて簡単なもんだ。この国の王家は何してんだかな?」


あの馬鹿両親のせいで、こんな奴等がウジャウジャといて無法地帯になっているのか?






国は国民あってこそ─。






国民が国を支えている。その国民を守れなくて何が王族だ。




自分自身にも腹が立つが。


罪のない子供達を、こんな簡単に攫い⋯金に変える奴らがいるとは──。





反吐が出るッ────!!!!





イラッとした時───




パキッ⋯




「誰だ!?」


ん?あ、足元に木の枝が⋯折ってしまったのか。


「レン様。このまま、まんまと捕まりますわよ」


彼女は、言った。一体どうする気だ⋯


「え?」


そうこういうが早いうちに、俺達は、まんまと捕らえられ気絶させられ⋯今は暗い部屋の中にいた。


「うっ⋯」


「目が覚めたか?」


俺は気がついたであろう、彼女に声をかける。


「えぇ⋯⋯」


彼女は辺りを見回すと、声を荒らげた。


「あの男の子⋯は⋯。あ!いた!!金髪の少年!」


「⋯⋯!!」


彼女と彼が見つめ合うこと数秒。

彼女が奇声をあげた。


「ぬぁぁぁぁぁぁぁっ!!!私の、お嫁に是非来て下さいませ!!」


「は?」


相手は言わずもがな、素っ頓狂な声を上げ目を丸くしている。無理もない。


「はっ!!し、失礼致しました」


この男は獣人⋯か。それより、何故。俺の婚約者は、この男を嫁にと言ったのか⋯。全く意味が分からない。


おいは、男たい(俺は男だ)分かとっと(分かってんのか)?」


実際は吐血なんてしていないが、俺には彼女が吐血している姿が見えた。


これは気の所為だろうか⋯。


そして、彼女は冷たい床に崩れ落ち、床をベシベシと叩いていた。なんて奇行に走る女なんだ。


「だ、大丈夫です⋯わ⋯。僕は、男ではなく⋯女ですから!」


彼女の発言に、彼は間抜け面を晒している。無理もない。どう見ても、男にしか見えないのだろう。それより、彼女は目の前の男に囚われ過ぎていないか?



「ソフィ、君⋯俺の事忘れてない?」


「!?」


これは、忘れ去られてた⋯⋯⋯な。


「今から作戦を、お話しますわ」


「君⋯スルーしたね」


「それでですわね」


はぁ⋯答えたくないようだ。


「分かった。どういう作戦?」


「えぇ、今からレン⋯⋯には、私の家に⋯現在ここに居る皆様と戻って頂きます。そして、私のメイド⋯ネルに、これを渡して下さいませ」


ソフィは、紙を取り出し俺に渡してきた。


「何これ?」


「私の場所を特定出来る魔道具ですわ。これをメイドの、ネルに渡して下されば大丈夫です。レン⋯には、此処に居る方々をお任せ致しますわ」


俺の身分を知られるのが良くないからか⋯様をつけて呼ばれていない。ずっと、そのままでも良いのに。何せ、俺の婚約者なのだから。


「分かったよ。それより、君は?」


返答を待つ間、彼女は頭を両手で掻きむしって、

ブンブンと頭を振っていた。



何してるんだろ⋯。変な女⋯。



と思っていたら何事も、無かったかのように──


「私は大丈夫ですわ。此処に残りますから」


そんなことを言った。

するとすぐ、


「何ば言いよっと(言ってるんだ)!!」


そう、彼が口を出してきた。何を言っているか理解できない⋯。


「大丈夫ですって。貴方も此処に居る皆様同様、安全な場所へ、ご案内致しますから」


彼女は彼の言葉を理解しているようだ。


「そがん事言わんと!!女ん子1人で残せるわけなかたい!おいも残る!!」


彼女は、今までの比にならないくらい頭をブンブンと振り手まで振っていた。なんの儀式だ??


「で⋯でも⋯」


「おいが守る。ただ、連れ去られたんは、事実やけん信用できんやろうけど────」


「そのお気持ちだけで、私は嬉しいです⋯!!ありがとうございます!!えーっと──」


「おいは⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯リム⋯。宜しくたい」


「リム様!宜しくお願い致します!私は、ソフィですわ」


彼が残ると言うのなら俺だって残る。

彼女を1人に出来ないのは、こちらも同じだ。


「それなら俺も残るよ」


「レン⋯⋯⋯⋯はダメです!やり遂げればならないことがありますでしょう?犯人逮捕の為にも、成し遂げなければならないのです。貴方にしか出来ない」


貴方にしか(・・)⋯ね。


こんな風に僕自身を頼ってくれた人は君が初めてだよ。そう言われてしまえば仕方ない⋯。


「⋯⋯⋯⋯分かった⋯不本意ではあるけど、やるよ。俺にしか出来ないんだよね」


「えぇ」


それから、ソフィは誘拐された子供達に声をかけた。


「皆、よく頑張ってきたね。もう頑張るのは今日でおしまいです。僕が君達を安全な場所へ移動させる」


「ほ、ほんとうに⋯?私達⋯助かるの?」


「あぁ、勿論だとも。この僕がいるからね!さてと時間は無い。皆、隣にいる人と手を繋いでから目を瞑って」


俺も隣にいた子と手を繋いだ。


「レン⋯⋯⋯も、リム様も目を閉じて」


仕方なく、彼女の指示に従う。次に目を開けた時には、彼女の部屋だった。誘拐されていた子達も一緒にいてキョロキョロしている。


まず行動として起こしたのは、この子達に声をかけること。


「もう、大丈夫⋯!君達は、此処で大人しくしているんだ。いいね?」


俺の言葉に、みんな一斉に頷いた。




そして、次に放った言葉は───




「ソフィのメイドは、いるか!!」


メイドはスッと扉を開けて瞬時に入ってきた。


「ソフィの居場所を、すぐ探れ」


俺は、メイドに彼女から受け取った紙を渡した。メイドはすぐ様、顔色を変える。



そうして、何か唱えると⋯


「特定が出来ました。至急、向かいます。クラトゥニィウス様は、此処でお待ち下さい」


「そんな事、出来るわけないだろう。俺の婚約者が攫われたんだ」


「!?」


メイドは、かなり驚いた様子で俺を見る。


「大丈夫です、貴方様の婚約者はヤワではありませんので。こちらで、お待ち下さい」


この俺に対して⋯と言いたい所だが、ここで権力を振りかざせば、俺の両親と何ら変わらない。



グッと堪えた。


「大丈夫です。信じて下さい。では、行って参ります。この子達を、お任せ致します」


「分かった」


頷くしか無かった。俺は、まだまだ子供という事を突きつけられた気分だった。


いや実際そうだった。


それから程なくして、誘拐犯も捕らえられ王宮の地下牢獄へと繋がれた。その後、誘拐されていた子供達を親の元へ返した。



ただ、1人を除いて──。



後に、ソフィも無事に帰ってきたと聞く。


ただ、俺の目の前に彼女が現れることは無かった。なんせ⋯あの男に付きっきりだというのだ。


何故かイラッとしなくもないが、今日は帰ろう。そう心に決めた。両親にも呼び出された事だし⋯。


それに俺は、やるべき事が出来た⋯。


ソフィという⋯初めて会う婚約者のお陰で。




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