7、運命の出会いという名の嫁に出会った(1)
ソフィside
王子が会いに来た、その日。私は運命の出会いをするなんて思いもしなかった。
「クラトゥニィウス様⋯」
そう言えば、彼は不意に言った。
「⋯⋯レンと呼んで」
ま、待って待って?!あの彼が!こんな簡単に自分の名前を呼ばせるなんて!!
「わ、わ、わ、わ、分かりましたわっ!レン様!」
いやこれが、妃の特権?いや、そんなはずは──。
「そ、それで⋯レン様。私に何の御用で?」
「君、授業を抜け出してるって聞いた」
「⋯⋯えぇ⋯⋯」
「何故?」
まさか、彼の口から何故と聞かれる日が来ようとは⋯。
「何故?私、3年前から言い続けていますわよ?婚約を破棄させて下さいませと」
「どういうこと⋯?君は僕との結婚を望んだんだろう?」
「えぇ、それは以前の私の話ですわ。今の私は望んでおりません。大丈夫です。レン様には、後々素敵な令嬢と、ご縁がありますから」
「⋯そんな事は、どうでもいいけれど。とりあえず、婚約は破棄したいって事だね。分かった」
この件は彼に直接言えば、すんなりと纏まるはずなのだ。婚約破棄なんて。それと⋯今の彼に聞いておきたいことがある。
「レン様、おひとつお聞きしたい事がございます」
「なに⋯」
「何故、こちらにいらしたのです。貴方ご自身のお考えですか?」
「そんな訳ないだろ。僕は両親に言われたから来ただけだ」
私が書いた通りのキャラクターだ。なんで、こんな儚げに書いちゃったかなー。いやそれは、私が好きだったから。ごめんね⋯レン様⋯。
「そう、でしたわね⋯。レン様。外に出られた事は、ありますか?」
「王宮⋯以外?」
「えぇ」
「ない」
やっぱり、そうなのか。とりあえず若いうちから、こんなんじゃダメね。私の小説少しぐらい塗り替えても平気よね?
「仕方ありませんわ。楽しいことや、今この国の現状を教えて差し上げます」
「は?」
私は、ネルを呼んだ。そうして、レン様を連れ衣装部屋へ。え?今から何をするって?変装よ!!ふふ!
「そうですわね⋯レン様には、これが似合いますわ!さぁ、着替えてくださいまし!」
レン様は、なんでも似合うから⋯と言って。あぁー!!!こういう機会があるなら、好みの服を新調しておけば良かったぁぁぁああ!!私のバカァァァ!!と悶々していたら、レン様は困った顔をしていた。あーなるほど⋯。理解したわ。
「あら。レン様にも恥じらいは、あったのですね。でも大丈夫。そんなの気にしなくて結構ですわ。私は少年の裸には萌えませんもの!!」
「も、もえ?」
「あら!失礼!なんでもありませんの。おーほっほっほっ」
服を着替えさせ、ウィッグを被せた。私も着替えた後に、彼の手を握り黒魔法を使って移動する。
「目を瞑っていて下さい」
あぁ⋯こんな簡単に⋯。信用ではない、だろうけど。どうでもいいと思っているんだな、これは。本来なら、警戒すべきところなのに。それが全くない。私は、懺悔したくなった。
そんな事を考えながら街へと転移した。
「ここは城下町ですわ。すごく賑やかでしょう?街は生き生きしているのですわ。まぁここだけですけれど。では早速、露店など見て回りましょう?」
ふふ⋯!唖然としているわね。本来なら、人々ではなく主人公の笑顔を見て気付くんだけど。大丈夫⋯⋯よね?実は8歳の頃、急に思い出したのよね。少しだけ。
「さぁ、これを食べて下さい。あ。毒味しないといけないんだったね」
とりあえず言葉遣いは、男の子に変えて⋯毒味の為に、コーンに齧り付く。
「大丈夫だよ。さぁ、食べて」
ん?今、瞳に光が刺したような⋯。いや気の所為よね。
「美味しい⋯」
「でしょう!この食べ物はですね、コーンというのです」
「へぇ⋯」
「さぁ、まだまだあるよ!行くよ!!」
それから、レン様にたくさんの食べ物を食べさせた。後は露店に並んでいる品物だとかを見て回り最後には、この国の現状を見せる為に、ある場所へと向かう───。
「レン様。1歩違う道に入れば、こうなるんです」
「人通りが少ないね⋯」
「それだけじゃ、ないんです」
「助けて⋯。お腹空いた⋯」
「!?」
「そう、こういう人達がいっぱいなんです。さぁ、これを食べて」
私は持ってきていた食べ物を、そっと出した。と言っても一時しのぎでしかない。これは、なんの解決にもならない。
「お兄ちゃん⋯。ありがとう⋯」
「ありがとう⋯ございます⋯」
涙を流しながら少女と母親は、ご飯を食べた。
「行きますよ」
私は、彼を連れて明るい場所へと戻った。
「あれは⋯どういうこと?」
「この国は一見、豊かに見えてそうじゃないという事だよ」
「ッ───あの⋯⋯⋯両親──のせいか」
「何か言いましたか⋯?」
「何でもない⋯」
「⋯⋯⋯あぁいう人達をどうにかするには、かなりの改革が必要だ」
かく言う私も、この国にこういう貧困層があるなんて知らなかった。そもそも、描いていないからだ。私の書いた小説は、あの学園の中だけでなく外の世界も⋯間違いなく生きているのだ。私が知らなかっただけで。
「住む場所に、働く場所。そして、ご飯を食べれること。衣食住が必要なのよ」
「ふむ⋯⋯」
「自給自足が出来れば⋯いいんだけどね。作物を作ってだとか。まぁ、この国は気候が良いことが唯一の救いかしら」
ついつい、忘れて女の口調になってしまう。まぁいいか。
「⋯⋯そう」
「そういう訳で家に帰り─────」
私は見てしまった。金髪の少年⋯私と同じ歳ぐらいの子が連れさられる所を。私は走り出していた。
「ど、どこに行く?!」
3年前にも誘拐されたけど⋯まさかね。路地裏に入り込んだので、跡をつけた。
「これは⋯高く売れるぜ。ほかの奴等も一緒にな」
「あぁ。この国は無法地帯が多くて人攫いなんて簡単なもんだ。この国の王族は何してんだかな?」
あーぁ⋯。この国の王子が聞いているわよ?バカねぇ⋯私達に、つけられているとも知らないで。何故つけることが出来るかって?
3年間で、私は隠密行動が可能なくらいの人物になっている。言わば敵国へ、スパイ潜入だって可能だ。ふふふふふふ⋯伊達に3年間無駄にしてきたわけじゃないわよ!
パキッ⋯
「誰だ!?」
ちょっと!レン様!!こんな、お約束展開ある?!そう、レン様が音が鳴る物。たまたま!何故か知らないけど⋯⋯。足元に木の枝があったのだ。それを踏んづけて、折った。
「レン様。このまま、まんまと捕まりますわよ」
「え?」
そうこういうが早いうちに、私たちはまんまと捕らえられた。そうして、まんまと気絶させられ⋯今は暗い部屋の中にいた。
「うっ⋯」
「目が覚めたか?」
「えぇ⋯⋯」
辺りを見回すと、色んな少女や少年⋯青年までいた。見目麗しい子達ばかりだ。ただし、汚れていたりするけれど。皆、すすり泣いていた。
「あの男の子⋯は⋯。あ!いた!!金髪の少年!」
「⋯⋯!!」
金髪の少年と呼ばれたことに驚いたのかどうか分からないけど、彼は私を見た。
そして、私は──ハートを撃ち抜かれた。
「ぬぁぁぁぁぁぁぁっ!!!私のお嫁に是非、来てくださいませ!!」
「は?」
「はっ!!し、失礼致しました。」
そう、彼は金髪の綺麗な髪に⋯ちょこんとお耳がおふたつ。そして、サファイアのような綺麗な青い瞳に、もう片方は、アメジストのような綺麗な紫の瞳──。
なんて綺麗で⋯可愛いんでしょう!!
「おいは、男たい。分かとっと?」
ぐはっ──────!!!!
私は冷たい床に崩れ落ち、床をベシベシと叩きました。えぇ、悶えているからですわ。何故こんな状態に陥ったか!!これは博多弁⋯又は長崎弁と呼ばれる言語だから!!
「だ、大丈夫です⋯わ⋯。僕は、男ではなく⋯女ですから!」
私の発言に、相手はポカンとしている。無理もない。どう見ても、私が男にしか見えないのだろう。とりあえず、このお方を助けなくては!!というより、ここに捕まっている皆さんをですけど。
「ソフィ⋯。君、俺の事忘れてない?」
「!?」
す、すみません!!すっかりレン様のことを忘れていましたわ!!って待って⋯??この国の王子が誘拐された??
え、ヤバイじゃないですか。とにかく、こんな部屋から逃げ出すのは私の闇魔法で難なく出来ることですけれど⋯。
犯人を捕えないと、意味は無いですしね。よし!ここは私が、人肌脱ぐ番ですわ。
「今から作戦をお話しますわ」
「君⋯スルーしたね」
「それで、ですわね」
更にスルーした。
「分かった。どういう作戦?」
「えぇ、今からレン⋯⋯には、私の家に、現在ここに居る皆様と戻って頂きます。そして、私のメイド⋯ネルに、これを渡して下さいませ」
ポケットから、ある紙を取り出し彼に渡す。
「何これ?」
「私の、場所を特定出来る魔道具ですわ。これをメイドのネルに渡して下されば大丈夫です。レン⋯には此処に居る方々を、お任せ致しますわ」
様付けするのを忘れている訳では無い。身分が知られては困るから、わざと呼び捨てにしている。ものすごく言いずらいけどね?!
「分かったよ。それより、君は?」
先程は、ソフィと呼んでくれたのにぃぃぃい!!あぁ!!惜しいことをしてしまった!!ボイスレコーダーがあったら、録音しておきたかった⋯!!
「私は大丈夫ですわ。ここに残りますから」
「何ば言いよっと!!」
そう言って、口を出してきたのは⋯私の嫁!!
「大丈夫ですって。貴方も此処に居る皆様同様、安全な場所へ、ご案内致しますから」
「そがん事言わんと!!女ん子1人で残せるわけなかたい!おいも残る!!」
きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあっ!!!!ダメだ萌え死ぬわ!!可愛い!!かっこいい!!なんて、素敵な人なんでしょう!!
「で⋯でも⋯」
「おいが守る。ただ、連れ去られたんは、事実やけん信用できんやろうけど────」
「そのお気持ちだけで、私は嬉しいです⋯!!ありがとうございます!!えーっと──」
「おいは⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯リム⋯。宜しくたい」
「リム様!宜しくお願い致します!私はソフィですわ」
リム様が返事をしようとした時──。
「それなら俺も残るよ」
「レン⋯⋯⋯⋯はダメです!やり遂げればならないことがありますでしょう?犯人逮捕の為にも、成し遂げなければならないのです。貴方にしか、出来ない」
「⋯⋯⋯⋯分かった⋯。不本意ではあるけど、やるよ。俺にしか出来ないんだよね」
「えぇ」
そして、早速。ここに連れ去られてきた子達に
声をかけた。
「皆、よく頑張ってきたね。もう頑張るのは今日でおしまいです。僕が君達を安全な場所へ移動させる」
「ほ、ほんとうに⋯?私達、助か⋯るの?」
「あぁ、勿論だとも。この僕が、いるからね!さてと時間はない。皆、隣にいる人と手を繋いでから目を瞑って」
コクコクと数十人いる子達は頷き、手を繋ぎ目を閉じた。だけど⋯レン様は目を開けたまま。
「レン⋯⋯⋯も、リム様も目を閉じて」
渋々と言った感じで言う通りに閉じてくれた。それから、私はレン様リム様の袖を掴んだ。リム様は別に参加しなくても良いのでは?って?ま、そうなんだけど。目を開けられたりしたら良くないから参加してもらっただけ。そして、黒魔法を発動した。皆が一瞬で消える。残されたのは、私たち二人だ。
「もう、開けていいですわよ。リム様」
「あん⋯なんで、おいのこと⋯様付けするとね⋯?」
「それは⋯尊い方ですから!!」
「いーっちょん分からん⋯。よかけん、様付けはやめるたい。むず痒く感じるばい」
「⋯⋯ええぇ⋯⋯。まぁ⋯でも、リム様がそう仰るなら仕方ありませんわね。リムと呼ばせて頂きますわ」
「ん。それがよか」
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!もう、可愛い⋯!!すごく可愛い!!撫で回したい!!抱きつきたい!!愛でたい!!とにかく好きです!!
「皆、消えとるたい⋯」
今、気づいたのかポツリとリムは言った。
「えぇ、今頃⋯レンが何とかして下さっていますわ」
「ん。おい達は、これからどうすると?」
「ふふふ⋯よくぞ、聞いて下さいました。まず犯人は捕まえます」
満面の笑顔で答えた。
「そいで?」
「えぇ、ここには扉がありますよね。私達が真正面から見ると左手にドアノブがあるので、開けたとします。そうすると、相手側から左側は扉があるので覗き込むまで、人が居るかなんて分かりませんよね?」
「あぁ、死角になるたいね」
「そうです!その死角を利用して奇襲をかけます」
「理解したばい」
「奇襲をかけるのはいいんですが⋯どちらが──」
「おいに決まっとるたい。女にそがん役、任せられる訳なかたい」
あぁぁぁぁぁぁ!!!かっこいい!!素敵!!
なんて紳士⋯!!!もう私の心臓が悲鳴をあげている。
「ありがとうございます⋯⋯!かっこいいですわ!!」
「かっ、かっこいい⋯!?」
耳をピクピクと動かし⋯何やら顔は赤いですね。え、なんですか!!照れですか!!え、ご褒美じゃないですか!!きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁ!!!ゼーハーゼーハー⋯!!
「だ、大丈夫⋯ね?」
「えぇ⋯。だ、大丈夫ですわ⋯」
精神的⋯萌えによって、良い意味でのダメージを受けているなんて言えません。ご本人には!!
そういえば⋯⋯リムなんて子、書いた覚えはない。またオリジナル??スザクに続く?そんな思考を一瞬にして剥ぎ取られたのはノックの音。