61、共に
リアムside
ソフィが連れ去られた事件から何事もなく時は過ぎて俺達は2年生へと進級していた。
そして俺は今、2年の合同パーティーにソフィよりも一足先に来ていた。ソフィが、堂々と入ってくる。俺の瞳の色を身につけたドレスを着て。
心の中はソフィの言葉で表現するなら、煩悩で埋め尽くされていた。というより、ソフィのあの姿を見せたくない。
ものすごく綺麗だ。そして、おいの色に染ってるソフィを見てソフィは俺のモノだと傲慢な思いを抱いていた。
早く迎えに行こう⋯そう思う前に、ずっと見惚れていた。ソフィをずっと見ているとキョロキョロと周りを確かめていた。
とまぁ、そんな露骨ではなかやけど。やっぱり気が緩むと自が出で駄目だな。気をつけないと。と言っても、ソフィの前でしかありのままのおいしか見せてな───いや、口が悪いのも物騒なことを言うのもおいやけど⋯。
それは、あまり見せないようにしていた⋯。周りの連中にはモロバレだが。と、そんなことは置いておいて⋯⋯俺を見つけてくれるのかと思いきや見つけたのは、ユーフィリア嬢だったらしい。
はしゃいでいたからな⋯『自分のデザインしたドレスをアイラお姉様が来てくれるの!』と言って。あん時の、ソフィ⋯今思い出しても⋯可愛か〜っ!!
許す⋯ユーフィリア嬢⋯を許すっ!ソフィはユーフィリア嬢に向かって進もうとした矢先⋯ソフィに突っかかる令嬢が現れ、わざと転けてソフィに飲み物をかけてドレスを台無しにしようとしたのだが、それだけでも腹ただしいし即刻、こ───処罰してやりたいところだけれど。
ソフィは魔術で回避できるのを知っているから大丈夫だとは思った。そして、その直後⋯目にした光景がおいの目を疑った。
いや、真実を受け入れたくないが正しい。
ソフィが血を吐いたのだ。令嬢の前で。それに驚いた令嬢は驚きに悲鳴をあげた。
「キャアアアアアアア!!」
ただ、その光景はノロノロと動いてるように見えソフィは真っ青な顔をして⋯その場から消えた。転移したのだ。その後、騒ぎになるかと思いきや⋯令嬢の様子がおかしかった。
「なぜ悲鳴をあげたんですの?」
と友人の令嬢に聞かれたソフィに突っかかった令嬢はこう答えた。
「あれ?なぜ⋯私⋯悲鳴をあげてしまったのかしら」
そう言ったのだ。
今さっきの出来事を忘れている───!?
いや、俺以外の奴も見ていただろう?!それに、証拠の血⋯が!ってなかと?!
俺は、ササッと周りの知り合い程度の確実にソフィを見ていたであろう知人に声をかけソフィのことを聞いたら。
「ソフィ・タルアニア?って誰の事だ?」
「ソフィ・タルアニア⋯?聞いたことがないな⋯」
なんて言い出した。おかしい!!おいの婚約者という事実は、この知人は知っているし⋯つい先日、話もした。なのに、忘れ去られてる?!どうなってる?!!
とりあえず落ち着け。ユーフィリア嬢や他の友人に聞きに行こう。
ソフィ・タルアニアは知っているか?と。
─────
──
今、俺とユーフィリア嬢、レン、グラウス、クリス、スザク、スクラが生徒会室に集まっていた。聞き回ったところ⋯俺以外もソフィの事を覚えていた。
そしてあのパーティーで起こった出来事はみんな覚えていなかった。でも、ソフィのことは覚えている。不思議な現象が起きていた。
俺はパーティであった出来事は話さず、俺の知り合いがソフィの事を忘れているんだと話をした。ソフィは悪い意味でも良い意味でも有名だ。
学園中の生徒が彼女の名前を知っている。だから、あの知人の返答はおかしい。それを確かめるべく手伝ってもらうことになった。
そして結果───
ソフィという存在は生徒から消されていた。ウィンディーネ先生でさえも。
「ソフィ⋯という名前の生徒ですか⋯?聞いたことがありませんね〜」
そう言われて、俺達は絶句した。
出席名簿も確認したが、どこにもソフィ・タルアニアという名前は書かれていなかった。おいは酷く不安に駆られて一刻も早くソフィに会いたかった。
早く探して見つけなければ──と思ったと同時に窓をノックする音がした。これは⋯グレン先生の伝書魔法だ。
鳥の形をした手紙が飛んでくるのだ。直ぐに窓を開け、鳥が乗りやすいように手を出す。手に乗った可愛い小さな鳥は、手紙へと一瞬にして変わる。その手紙にはこう書かれていた。
"リアム
診療所の裏手でソフィが血を吐き意識を失っている状態で発見した。幸い、体を調べてみたが異常はない。そして、ソフィは俺には言いたくないそうだ。俺には言えなくとも、君になら言うんではないだろうか。頼む⋯聞いて欲しい"
頭が真っ白になって──頭が固い物で殴られたかのようなガンガンとした痛みが出てきた。ソフィを失うなんて有り得ない。
絶対あってはならない事だ。ソフィを守る為に、俺は努力してきた。初めてソフィの話を聞いた時から更に努力してソフィを守らなければ⋯いや守って、将来を共に生きるんだと。
とにかくだ⋯今はソフィから聞こう。話は、それからだ。
「なんと書かれていたんだ」
レンが俺に聞いてくる。
「ソフィが父親のところにいる」
「会いに行くんだろう?勿論」
「あぁ」
「私も着いて行きます!」
ユーフィリア嬢が声をあげた。続いて声をあげたのはグラウスだ。
「俺も着いていく」
その次にクリス、スクラ、スザクの順に声をあげた。
「ぼ、僕も⋯」
「僕も着いていくよ」
「俺もだ」
「皆、来るんだな⋯」
結局とは言わない。
「来るのはいいが、俺が先に会うんだからな」
そこだけは釘を刺す。その問いに皆は黙って頷いた。
───
──
ソフィside
意識を取り戻してから、次の日。まだ私には自我はあった。今は、お父様の家の自室にいる。
「⋯⋯⋯怖い⋯」
『俺達がついてるだロ!』
『そうだヨ!』
『ピィピィー!!』
3人が励ましてくれる。それもそうだ。3人がついてくれてる。大丈夫。死ぬことは怖くない。大丈夫。
『大丈夫よ、私だってついてる。それに、そろそろ来そうよ』
「え?」
そう呟けばタイミングよくガチャッと音が鳴った。
「ソフィ⋯!!」
この声は⋯
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
驚いて声を出せなかった。この声は私を心配している時のリアムの声だ。ここまで来るのには、かなりの時間がかかるはずなのに⋯どうやってきたんだろう。
「大丈夫と?!大丈夫じゃなかとね!?」
「⋯い、今のところは⋯大丈夫⋯」
「⋯⋯ソフィ、何があったか話してくれるとね」
「勿論⋯よ⋯約束だもんね」
そうして私は、全てを思い出したことを伝えた。1日経つ間にソフィと話を整理していた。
まず、全ての始まりは生まれた時からで⋯私の姉は誘拐されていた。けれど、聖女の力を持ったお姉様は用済みだった。
犯人は、お姉様を始末するでなく置き去りにした。何故なら、この赤子に価値は無かったからだ。
そして、今度は私を誘拐しようと試みるが鉄壁の守りにより実行は出来なかった。そうして、時は流れ今現在の私の状態について話しをする。
「私の魔力はエンペラーにより全ての膨大な魔力を全て毎日、吸い取っていた。私が目が覚めるまで。ただ、リアム達が助けに来たくれた日⋯私の魔力は仕組まれたかのように魔力が残っていた。いえ、仕組まれたのだと思う"無"に」
「無?」
「えぇ⋯その"無"について話す前に。エンペラーも"無"の生贄に過ぎなかった。私、整理するまで忘れていたんだけど⋯私の闇の魔力は純粋なの。なんて言えばいいのかしら、混ざってないのよ。純度が高いの。だから、私の魔力を魔物が吸い取ると逆に体は弱くなる。何故、あのエンペラーが簡単に倒されたのかも検討がついたの。序盤のボスだけれど、ストーリー通りなら⋯かなり苦戦した上に皆は勝つはずだった。でも、呆気なく勝ってしまった。それは、私の魔力を何日も吸い取ったエンペラーは知らないうちに衰弱していた。衰弱していることさえ、わからなかったと思うわ。これはね、自分では気づけない設定なの」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
リアムは黙って聞いている。
「それを知らなかったエンペラーは、そのまま倒された。そして、本当のラスボスは───」
聞き耳を立てている人がいるわ。まぁ、知られてもいいからペラペラ喋ったんだけど。
「───悪役令嬢である⋯この私と無よ」
「!!!!!」
外でも息を呑む音が聞こえた。ウィンが音を届けてくれるから。
「だからね、リアム。私、末期なの。血も吐いてるし、この体が"無"に侵食されているのも感じてる。私の体は、"無"に乗っ取られて魂はその時に消滅するか⋯。それとも、自害することでこの世界を皆を危険に晒さずに死ぬかの二択なの」
私は、すぐさま続けて言う。
「皆は確かに前より強くなった。でも、お姉様の本当の覚醒はまだ先の話。キツいことを言うけれど⋯負け戦なの。私が敵に落ちてしまったら、この世界は────」
スゥと1度深呼吸して。
「確実に終わる」
そう言いきった。
「だから、私は後者を選ぼうと思う。まだ自我があるうちに──」
パシン!!
「いた⋯い⋯何するのよ⋯」
私はリアムに向けてそう言った。だって、リアムに頬を叩かれたから。これって大抵、逆でしょ!?なんて、どうでもいい事を考える。
「せからしかっ!!ソフィはいっつもいっつも!!自分で何とかしようとする!!原作?作者?!知らんとね!!自惚れんな!!ソフィが書いた物語の強制力なんぞ知らん!!ソフィ1人なら無理かもしれんけど⋯おい達には仲間がいる!!諦めるなんて許さんばい!!」
その言葉にグッと詰まる。だけど。
「だって⋯だって⋯⋯私も皆も助かる方法なんて分からないんだもの!!!みんなを死なせたくない!!私はみんなのことが大好きなの!!勿論、リアムは愛してるわよ!!でも、私が皆を殺したなんて事になったら⋯⋯わたしは私はっ!!死んでも死にきれないわよ!!死んだ後のことなんて分からないんだから!!」
「⋯⋯⋯俺は最後まで諦めたくない。ソフィの命も皆の命も、この世界も俺が⋯いや俺達が守る。そうだろ?皆」
ガチャッ⋯
「そうですわっ⋯⋯ぐす⋯⋯私の大事な⋯⋯妹⋯」
「そうだよ。まだ何も起こっていない。できる対策は取ろう」
アイラお姉様にレン様。
「そうだぜ。水臭いな、一緒に冒険した仲だろ。助けてぐらい言えよな」
ドル⋯⋯。
「僕も、洗脳なら得意なんだから。任せてよ」
そこそこ仲良くなった、スクラ。
「僕にも⋯手伝わせて⋯」
凛とした眼差しで、真っ直ぐに伝えてくれるクリス。
「俺は、お前の師匠だ。師匠が弟子を助けないわけないだろ。それに、弟子に助けてもらうとか俺⋯自身が許せない」
スザク⋯⋯。
「み⋯んな⋯⋯」
涙が止まらない。確かに早すぎる展開に不安は拭えないけれど⋯⋯信じてもいいだろうか。この先の未来を──まだ一緒に生きてもいいのだろうか。
「ソフィ、皆で乗り切ろう。この先の未来を一緒に生きる為に───戦おう」
私は⋯その言葉に。
「私と共に戦って欲しい⋯ズズッ⋯いえ、助けてッ⋯下さい⋯⋯お願いします」
助けを求めた。皆は勿論だと頷いてくれた。
「ありがとう⋯皆」
私は今できる精一杯の笑顔を浮かべた。




