58、早すぎるカウントダウン
療養も終わって、クリスとスクラとも仲直りとはいかずとも⋯こっ酷く叱った。
ちゃんと謝ってくれたし、二度とあのブツは飲ませないようにと言い聞かせた。飲ませていいのは、敵のみとしなさいと言いつけておいた。
魔力は全回復するけれど、味の凄まじさから体への副作用が強すぎる。たとえ魔力が回復したとしても、副作用の強すぎで瀕死に近い状態になるだろう。
私だから良かったものの⋯⋯。危ないわ、あのブツは⋯。あんなもの実在してはいけなかった。なんてものを作り出したのかしら。
私が復帰してからというもの、攻略対象の皆との関係は良好で私が行った酷い仕打ちもしてないし、するわけが無い!!のだけれど物語の強制力もあるはずだわ!と⋯。
かかってこいや!と意気込んでいたのだけれど、なーんにもなくて。拍子抜けした。
学園祭やら、魔力大会など難なく乗り越えて。1年生を無事乗りきった私は、今───2年と3年生の学園合同パーティに出席していた。
2年と3年の合同パーティでは、今後の卒業後⋯⋯言わば、人脈作りの場と言う訳。1つ上の学年は、私達2年の中から逸材を探し出し自身で見定め将来有望になりそうな人材をスカウトする事が可能。
2年は3年の目に止まれば声をかけられ将来が約束されるという事も可能。そして、2年は2年で上の学年の猛者と組むことが出来るチャンスという貴族ならではの催しがこのパーティーなのだ。
学園の中では平等と言うけれどこのパーティーだけは全く違う。バトルなのだ。けれど、私からすると⋯このパーティーは負け戦なのである。
皆が私に近寄らない。近寄るとすれば嫌味を言いたい時だけ。そう、私は今⋯⋯虐められている。影でコソコソとだけども。何故か立場が逆転?しているわけよ。
まぁ、アイラお姉様が虐められなくて良かったとは思ってる。そこは感謝だなと。それと、リアムがこの1年頑張ってきたおかげで学園内のみにはなるけれども獣人に対しての理解が少しずつ認められつつある。
こんなに早く認められるようになったのはレン様の尽力もあるお陰でも、あるのだけれど⋯。そこで私は少しばかり嫉妬することも増えた。リアムの良さに令嬢達が気づき始めたからだ。
なので⋯リアムに、みとれている人も多数いるのだ。そんな彼の良さを1番知っているのは私よ!!と言いたいがそんな事は恥ずかしくて言えないし⋯⋯どれだけ傲慢なんだと思われても嫌だし、言わないけれど。
ソフィはいつも聞いてくれてる。呆れてるけれど。そうそう、ピィリアスは姿を消す能力を獲得して皆から見えないように、ひっつくようになった。
ソイとウィンは見た目は変わらないけれど魔力のコントロールが更に上達して他の妖精が文句を言えないほどの腕前になった。もしかすると、近い将来2人と、お別れする時が来ると思われる。
悲しいなとは思うけれど、友人が馬鹿にされるんじゃなくて見返して皆に認められている姿を見たいという思いもある。まぁ、その時が来たら考えよう。
今は目の前のパーティーに集中。
パーティーだからと言って何にもないとは言えない。何が起こるか分からないのが私の物語のパーティーだから。そう、パルプンテが起こるのよ!!と、とにかく落ち着きましょう。
私は扉を開けてパーティー会場へ入る。今日のドレスはスレンダーラインドレス。胸元から真っ黒で、そこから濃い青色から薄い紫へそして下の裾の方は濃い紫色へとグラデーションが施されている。
これも私がリアムの色に染まりたくて考えたデザイン。本当に至ってシンプルなのだけれど、所々に蝶々の模様も入っている。魅惑的な女性?でも、品がない訳じゃないように作った。
リアム⋯褒めてくれるかしら⋯。と思いながら、会場内を進んでいく。視線が痛いけれど気にする事はない。
なんてったって!アイラお姉様のドレス姿が見れるのよ!!しかもおおおお!!聞いて聞いてええ!?!私がデザインしたドレスを着てくれるの!!!
やっぱりアイラお姉様は可愛いドレスがいいと思ったからプリンセスラインのドレスにして、ピンクの髪に映えるように少し濃いめのピンクと薄いピンクの素材を使って可愛らしく、でも上品に見えるようなデザインに仕立てあげた。
和と洋の融合ね。この世界にある桜に似たサイラを布で作り上げて左右に大小散りばめてみた。絶対似合うと思う。そして私は、キョロキョロとアイラお姉様を探す。
あっ!!いたっ!!私は思わず駆け寄ろうとした。だけど、アイラお姉様の方へ行く手を塞ぐように令嬢が現れた。うーん⋯普通のモブ令嬢ね。
ん?転けるじゃない!!
危ないと思って、多少の闇の力を使った。影を止めれば転けるのを阻止できるから。
その瞬間。
ひとつ⋯心臓がドクンと鳴った。気付いた時には。
「カハッ⋯!!?」
血を吐いていた。
「キャアアアアア!!?」
行く手を塞ぐようにやってきた令嬢が悲鳴をあげた。悲鳴をあげたいのはこっちよ。私は、口から大量の血を吐いていた。
やばい、こんなところで大勢の人に見られる訳にはいかない!!私は何故か、そう思った。そして思った時には転移していた。場所は、リアムの国。そう、私の義理のお父様がいるところ。
「カハッ⋯」
吐血が止まらない。転移したのは、診療所の裏手だった。なんで、こんなに血を吐いてるの?私は。苦しい。胸が痛い。動悸がやばい。頭がクラクラする
「ソフィ!大丈夫カ?!」
「大丈夫?!ボク達がいるヨ!!」
ソイとウィンが心配してくれてる。大丈夫⋯⋯何が起こってるか分からないけれど。大丈夫。
「ゲホッ⋯⋯」
さらに吐血した。もうそろそろ意識が飛ぶ。でもなんだか、似たような⋯⋯場面なかった?そして、私はとてもとても大切な事を思い出した。
何故、今思い出したのか───────
コレは⋯⋯⋯レン様ルートの最終。
そして、ソフィ最後の見せ場のストーリー。
私の命のカウントダウンが始まった合図だと。
「まさか⋯⋯⋯時期が、はや⋯⋯すぎ⋯」
そうして私は⋯また、意識を手放した。




