50、ココロのシャッター
アクア・クリスネンスside
そうして、1年が経った頃──。
師匠から力の制御を無事修得し初期的な魔法も教えて貰った。それ以上は、学園で学び自らが切り開いていけと言われた。
「さぁ、僕が教えられるのは⋯ここまでだよ」
「ありがとうございました」
「良いんだよ〜!君みたいな優秀な生徒を持てて僕もやり甲斐があったしね〜。あぁ、そうそういつも言ってるけど忘れちゃダメだよ?」
「魔法は人を傷つける事もできるけれど、守ったり幸せにすることが出来る・・・ですよね」
「そう、魔法も悪いものじゃない。使い方を間違えなければ、魔法は君の武器になる。まだまだ、ここから出たとしても屋敷の中では心無い言葉を言われるだろう。外の世界に出ても、賞賛する者⋯君の力を妬む者。利用しようとする者。はたまた、君の力は人を幸せにできたり守ったりする事が出来ると言ってくれる人が現れるかもしれない。必ず、君を理解してくれる人は現れるはずだよ。それまで、めげずに頑張るんだよ」
「はい⋯⋯!僕、立派な大魔道士になります!」
そう幼い頃に師匠に誓い日々を生きてきた。だけど、師匠が言っていた通り僕を利用しようとする者⋯⋯魔法が怖いと怯える者しかいなかった。
両親だけは、僕を沢山褒めてくれた。ずっと、周りには敵しかいなくて張り合える奴も居ない。人生に飽き飽きしていたところ学園で出会った彼女に惹かれた。
最初は課題で一緒になった。そして議論を重ねるうちに僕よりも博識であることが分かった。こんなに楽しい会話が出来たのは師匠に学んでいたあの頃以来か?
とにかく楽しかった。僕の大好きな魔法についてこんなに語り合えて、切磋琢磨して能力、技術を上げていける。いつの間にか、幼い時の名残で彼女を師匠と呼ぶようになった。
僕は魔法の研究だけでなく、魔道具の開発も行っていた。そこで、ふと思った。師匠の笑顔を見たことがない。
いつも議論について話す時は険しい顔だったり落ち着いた顔?をしか見たことが無い。1度くらい、見てみたいという謎の欲求があって考えに考えた末────
スターを室内で鑑賞できる魔道具を作ることにした。それを完成させることに成功した。だから、彼女を誘って空き教室まで、やって来た。僕は彼女に促す。
「師匠は、ここに座ってて」
「分かりましたわ」
僕は椅子から数歩離れた中心に行き準備をする。
「真っ暗になる」
そう告げて発動させた。そして、師匠の元へ戻る。
「綺麗⋯⋯⋯」
やっぱり、そうだよね。でも、僕がみたい反応ではない。
「でしょ、これはねスターを見れる魔道具を作った」
「綺麗だわ⋯⋯」
彼女は感動していた。そこはいいんだけど⋯違う⋯⋯。僕はもっと幻想的に見えるようにと思って魔法を使う。
パキンッ!
雪を降らせた。
「わぁっ⋯⋯!!幻想的!!」
幻想的なのは狙ってるから良いんだけど⋯⋯。
「どうかな⋯」
とりあえず聞いてみた。
「クリス!!あなた凄いわ!!こんな素敵なものが作れるなんて!!私には、できっこないわ!!」
彼女は急に僕の手を握って上下に振ってきた。それに、何故かクリスと呼ばれている。今まで、そんな風に呼ばれたことはないと僕の感情が戸惑っていたところ⋯更に追加で彼女が言う。
「実力もそうだけど⋯⋯魔道具を作るにはかなりの繊細さが必要なのに。貴方の魔法と技術は人を幸せにするのね」
「⋯⋯⋯⋯⋯!?」
その言葉に僕は衝撃を覚えた。そして、僕が望んでいた彼女の笑顔を初めて見た。僕自身を認めてくれる存在に出会えた───師匠の言葉の1部がスっと思い浮かぶ。
『出来ると言ってくれる人が現れるかもしれない。必ず、君を理解してくれる人は現れるはずだよ。それまで、めげずに頑張るんだよ』
「えっ?!!ど、どうしたの?!私、変な事言った?!」
彼女は焦った声をあげる。
「違う⋯⋯!!違う⋯⋯んだ⋯⋯⋯」
あれ?僕、泣いてる?泣いてるの⋯⋯か?彼女の笑顔を見ると胸が、あったかくなった。ドキドキと脈が早いけれど、そんな事より僕自身を認めてくれた事に驚きと嬉しさが心の中を支配した。
この涙はきっと、嬉し涙だ。師匠と出会えて僕は幸運に違いない。もっと僕を知って欲しいし、君をもっと知りたいと思うのは、良くない。
彼女は、リアム・スペラードの婚約者なのだから。この居心地のいい⋯この関係がずっと続いて欲しい。そう思った。
✵✵✵✵✵
ソフィside
きゃあああああああっ!!!!待って!!カメラ!スマホ!!カメラ!スマホ!!スチルぅぅううう!!!
クリスが泣いている可愛い美味しい可愛い食べた⋯⋯⋯⋯ゴホンゴホン。荒ぶっておりますソフィです。クリスが泣き出して結構な時間が経った。
静かに涙を流すクリスはとても綺麗だった。負けたわ────。というか、何故クリスが泣き出したのか想像がつかない。
理由を聞こうとすれば違うんだ、としか言わないし。どうしろってんだ!!え、襲って欲しいの?!え?!
『危険人物発言は冗談でも、やめなさい?』
はい、すみません。襲うのはリアムだけにします。
『そうしなさい』
え?!破廉恥な!とか言わないの?!
『言って欲しいわけ?』
いえ、いらないです。
『なら最初から黙ってて』
はい、スミマセン。ソフィは最近、私に手厳しいツッコミをしてくる。そのツッコミを聞いて危ない思考が止まるわけなので、ウィンウィンな関係ではあるんだけど。
推しの事になると私は壊れるから自分でも理解している。でも、どうしようもない。どうすることも出来ないのだ。条件反射だから!!
とりあえず⋯脳内に、クリスの涙というタイトルをつけて脳内保存した。めちゃくちゃガン見したのは間一髪バレていない⋯⋯良かった。ほんとに良かった。
「グスッ⋯⋯⋯みっともない所を見せた⋯⋯。もう、気にしないで⋯⋯。これを師匠にあげる」
そう言って貰ったのは、スターを見れる魔道具。
「えっ?いいの?」
「うん。僕からの⋯⋯感謝の気持ち、それくらいは許されるよね?」
「え?そ、そうね」
リアムなら、喜んでくれると思う。いやでも、ちょっと妬くかしら?!きゃっ!!っと、ダメダメ気持ち悪い乙女思考になっていたわ。あぶね。
「良かった。友人として渡す物だから、大丈夫なはず」
え?友人⋯⋯⋯?ゆ・う・じ・ん・??⋯友人────!??!えっ、クリスが私のことを友人ですって?!!そんな事ある?!
そんな事あっていいの?!えっ?これ私⋯⋯生き残る確率格段に増えてるんじゃない?!いやいや、油断は禁物よ。
もう何もかもストーリーから外れてるんだもの。気を引き締めないと⋯⋯いつ死ぬか分からないからね。
卒業するまでの辛抱って辛抱できるの私?!あぁでも、推しと友人とか恐れ多いけど⋯⋯⋯私はこの一言しか言えない。
「尊い⋯⋯マジ神」
「は?」
「!!」
ち、違いマース!!チガウンデスヨ!心の声がデタナンテ!!
「ゆ、友人と仰って下さって⋯⋯⋯身に余る光栄ですわ」
「何、言ってるの⋯⋯それは、僕のセリフ。それじゃあ、またね。ソフィ・タルアニア嬢」
そう言ってクリスは部屋を出ていった。はっ⋯⋯!!
「は⋯⋯?」
初めて、フルネーム呼びされたァああああああああぁぁぁ!!!!ただ、フルネームで呼ばれただけで私は歓喜に打ち震えた。
だってあのクリスが!!あのクリスがフルネーム呼びするって大事件だよ!!?一緒に過ごして分かったこと。クリスは人の名前を覚えれない。
先生の名前だって何度も何度も言い間違えてるのを聞いたからね。だから興奮した。そんな私は⋯⋯何とか食事を済ませ、自分の部屋に戻ってから───
「ソフィ様?この装置は、なんですか?」
「スターを見ることが出来る魔道具なの!クリスネンスさんが、くれてね?」
「へぇ⋯⋯」
「これを見ながら寝ましょう?」
そうして、魔道具をセッティングして発動させる。
「わぁあっ⋯⋯⋯!!」
アイラお姉様は、歓喜の声を漏らした。
「凄いわよね」
「はい⋯⋯!!あのクリスネンス様がこんな素敵な物を⋯お作りになるなんて。私、感動しました!!」
「そうよね、私も思うわ。それ、またクリスネンスさんに会った時にでも言ってあげて。とっても喜ぶと思うわ」
「そ、そうでしょうか⋯⋯⋯?」
「えぇ、そうよ」
「機会があれば、言ってみますね」
アイラお姉様、いい子っ!!いい子っ!!そうして、スターを見ながら⋯⋯たわいもない話をして就寝した。
それから、スクラ・グレッチアとはなんの交流もなく。クラスメイトという顔見知り程度でなんの接点もなく⋯⋯関わることも無く。
ただ、他の攻略者達とは親交を深めざるをえなかった。けれども、仲は順調で問題もなく⋯リアムが上手くフォローもしてくれるおかげで何とか乗りきった数ヶ月後⋯⋯⋯。
ついに、あの時がやってきた。
そう、魔物による聖女狩り。
いえ、聖女⋯誘拐事件っ!!!アイラお姉様がレン様と親密になった直後に起こる魔物による軍勢が学園に攻めてきて攫われるのだ。
放っておくのが一番いいのだろうけど、そう上手くはいかなかった。
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