5、悪役令嬢ではなく悪役坊っちゃま
ネルに頼み込み、服屋へ来て私は、あらゆる男の子服を選んだ。動きやすさは、やはり男物がいい。
女子の服は全てドレスばかり。ズボンがない。そして、私は作って欲しいものを店主に提案しようと声をかけた。
「これとこれとこれと⋯スイスさん!頼み事があるの!」
「どうされましたかな?」
「オーダメイドを作って欲しいのよ。紙と筆あるかしら?」
「かしこまりました、少々お待ち下さいませ」
紙と筆を用意してもらって、私は描いていく。ワンピースを書いた。この世界では、膝より下を見せるのは良くないと言われているのでロングワンピース。
あとはストールを羽織る形で書き出した。肌を見せるのも良くないのである。あとはストールのクリップを書き足し、それをスイスさんに見せた。
「素晴らしい⋯!!ソフィ様!!私は感無量でございます。このようなデザイン、初めて見ました」
「ふふ⋯とりあえず。これを用意してもらっても?」
「えぇ⋯!!ソフィ様。私が、こんなことをお願いするのは、はばかられるのですが⋯!このデザイン⋯売って頂けないでしょうか」
「へ?⋯そうね。おいくらで?」
これに価値が?!そうか⋯ワンピースという概念が、この世界には無いのね!!
「この服の利益6割をソフィ様に」
「6割も?!コホン⋯いいわ。それで手を打ちましょう」
やったわ!!!まさに大収穫⋯!収入が入ってくるなんて!!これで、今後の生活も安心ね。
「あとは、こちらのアクセサリーも⋯」
「それは、ストールのクリップよ。とりあえず、止めれれば良いから。他にもあるのだけれど⋯今日は、この1枚だけで」
「他に思い浮かぶデザインがあるのですか!!それは楽しみでございます!またお待ちしております!!」
「勿論!任せてちょうだい!さて、着替えたいのだけれど良いかしら?」
「えぇ、構いません」
そうして、着替えた。うん、動きやすくていい。貴族の坊ちゃん程度には見えるかしら。
「ネル?これどうだい?似合ってるだろう?」
何とか低い声を出して、ネルに声をかけてみた。真っ青になったネル。これは、やばいのかしら。
「え、えぇ⋯ソフィ様⋯」
「えっと⋯。今にも倒れそうだけれど⋯大丈夫かい?」
真っ青から頬に赤みがかかる。
「だ、大丈夫で⋯ございます⋯わっ⋯」
そんな、ネルの顔を見てびっくりした。
「ちょっと待って?鼻血が出ているよ。早く、止めないとね」
とりあえず⋯笑顔で対応しなくちゃ!と思って精一杯微笑みかけたら、ネルはパタンと倒れた。
「ネル?!」
うっ⋯!支えようにも、体力がないのと筋力がないせいで支えれないッ⋯!前世の私なら、余裕でいけたはずなのにっ!!
お米10キロだって余裕で担いでいたんだから!やっぱり体力と身長と胸を!なんとかしなくちゃ!!
「ソフィ様、大人の女性を支えるには流石に厳しいと思われます」
そう言って、スイスさんがネルを支えてくれた。あ⋯そうか!!私、7歳だから体格差があるんだった!すっかり忘れていた⋯。いかんいかん⋯20代後半という意識が抜けていないらしい。
「ありがとう。スイスさん」
「ソフィ様。私の事はどうかスイスと、お呼び下さい。以前は、スイスと呼ばれていたのに何故、急に⋯」
「オホホホ⋯私、尊敬する人は呼び捨てで呼びたくないの。今まで失礼な態度をとって、ごめんなさいね」
「尊敬⋯!?い、いえ!そんな!」
「えぇ⋯こんなに素敵なデザインの服をたくさん作っているんだもの。尊敬するわ」
「ソフィ様から、尊きお言葉が⋯頂けるとは⋯私はッ⋯有り難き幸せでございます」
「それは言い過ぎよ?!」
「そんな事は御座いません。あの斬新なデザインを思いついたソフィ様は素晴らしいです」
ちょっと照れるじゃない⋯!!って私が作った訳では無い。自惚れては、いかん!
「そんな事ないからね?!本当に!今日は、用事があるから、これで失礼するわ」
「はい、またいらして下さい」
「えぇ」
そうして、私はスザクの家へと向かった。
勿論、ネルも回復していたわよ。
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「スザクー!!来たわよ!!」
そう言って、スザクの部屋の扉をバンッ!と開けたら。
ガタンッ!!
という音と共に、スザクが椅子から転げ落ちる瞬間を見てしまったのだ。
「大丈夫⋯か?」
「お前、誰⋯って──ソフィ?!」
「えぇ、そうよ」
「男にしか見えない⋯」
「ふふん!有難く、その言葉を受け取っておくわ!」
まさか、悪役令嬢たる私が悪役坊っちゃまになれる日が来ようとは!!作者ありがとう!ありがとう私!!
「ってその、本⋯凄いわね」
「あ、あぁ⋯。これは、ちょっと⋯な」
「???」
「とりあえず、魔法の仕組みについて座学から始めるぞ。習うより慣れろって訳にも、いかないからな」
「ほぅ⋯そうなんだ。よっし!やってやるわ!スザク先生!お願いします!」
私は男の子モード突入&学生気分を味わうことに。
「うぇ?!お、おう⋯」
それから、魔法についての座学を始めたのまでは良かった。
「おい寝るな!!」
「す、すみません⋯先生⋯」
そういや⋯私。授業中、妄想するか寝るかしか、してなかったわ⋯。いや、魔法の座学楽しいっちゃ楽しいんだけど。1時間も経つと、集中力が⋯⋯スゥ──
「だから寝るな!!はぁ⋯。一旦、休憩にする⋯」
「スゥスゥ⋯」
「って聞いてないな。こんなところで、無防備に⋯寝るな⋯馬鹿──」
とスザク先生が呟いていたのを私は知らない。ハッと目覚めたら、おやつ時の3時。集中力が切れてから1時間ほど寝ていたらしい。
なんか暖かいと思ったら毛布?をかけてくれていた。スザクは、熱心に本を読み込んで何か紙に書いている。
「スザク⋯せんせー⋯。何、書いてる⋯の?」
「うわ!?起きたのかよ⋯何にも。とにかく、休めたなら座学の続きからするぞ。いいな?」
「ふぁい⋯」
「やる気なさそうだな」
「そんな事は⋯ありま⋯せん⋯」
ほんとに寝ぼけ眼なので、自分で頬を叩いた。
パチン!!
「よし、覚めた」
前世でよく気合いを入れる時にやっていた癖。仕事で、どうしてもやらなければ、ならないことがあって眠たいけど寝ることが許されない時。これをすると目がスっと冴えたのだ。たったの、これだけで目が覚めるのだから凄いと思う。自分で自画自賛である。
「先生、お願い」
「分かった」
それから、夕方まで学んだ。
「明後日までに、復習しといて」
「分かりました」
「それで、復習が完璧だったら⋯実践練習することにするから」
なんですって?!実践!?復習、頑張るわ!!
「任せて!!復習で満点、取ってやる!!マジの厨二病になってやるわ!!」
「チュウ⋯ニビョウ⋯??」
「なんでもないのよ。えぇ。何にも」
「お⋯おう⋯」
スザクは一瞬、怯んだ。ふふふ⋯我の闇の力により世界は我の手に!なーんて!こんな感じだったっけなー厨二病。
「それから今日は、ありがとう。スザク。また頼むよ」
「あぁ⋯って、その喋り方⋯どうにかならないのか?」
「え?そんなに嫌?」
「嫌、というか⋯。その、容姿には⋯あってるんだが──」
「あってる⋯けど?」
「なんか変」
「変って⋯あ⋯」
「ん?」
「スザクの髪って漆黒だと思ってたけど⋯。そうじゃないんだ⋯。少し藍色が、かかってるんだね」
「は?⋯え?急になんだよ」
「えっと、髪の⋯夕陽に当たった箇所が藍色に見えるなって」
「本当⋯か?」
「嘘つくはずないでしょう?」
「そうだな⋯。お前は、そんな事しないもんな」
「そうだな⋯の後、何か言った?」
「何も。おれの髪、黒だけじゃなかったんだな⋯気づかなかった⋯」
「私も今、気づいたもの。さぁてと⋯お暇させて頂くわ。スザク、ありがとうね。また来るわ」
「あ、あぁ⋯分かった。ちゃんと復習しとけよ」
「はーい!」
そうして、私は屋敷に帰ることに。
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ふぅ⋯復習しなくちゃ!!と、その前に!両親に夕飯に呼ばれていたわ!行かないと!
「さぁ、皆で頂きましょう?」
「そうだな」
待ってください。
いやぁ⋯ほんとに普通の両親だな。なんで、あんな悪役令嬢うまれるんだ?
「ソフィ?早く食べなさい。冷めてしまうわよ」
「えぇ⋯お母様!」
そうして、無事に夕食も食べ終えた。お風呂にも入れたし⋯。特に不自由はしていないけど全てをされるって体が、なまるわ。
体操でもするかな。あ、縄跳びないかしら。よし。明日また、お買い物に行きましょうか。予定は決まった。さぁ戦に備えて寝るだけ!
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