46、彼の見解(2)
着替えて出てきた彼女に俺は言った。
「えっと、ソフィ⋯タルアニア⋯か?」
「あぁ、そうだよ。だけど、此処の国では私の事はニアって呼んでくれ。いいね?」
「お、おう⋯⋯。お、男にしか見えねぇ⋯」
顔立ちも、何らさっきとは変わりないはず?なのに華奢な男にしか見えなかった。こう、なんか守りたくなるような?そして、彼女⋯いや彼はハッとしたかのように言い出した。
「そうだ⋯君の名前も考えないと。そうだなぁ、グラウス・ドルニシアだから⋯ドルでいいかな!」
ドルか、まぁ悪くないな
「あー分かった。それでいい」
「じゃあ決定だ。行くよ」
なんの文句もないので1つ了承しニアと共に店へと出た。
「あっ⋯⋯!!いらっしゃっていたんですね!」
「こんにちは。いつも、ありがとうね」
「いえっ!そのお方は⋯?」
ん?知り合いか。まぁ、それもそうか。
「私の友人なんだ。うっかり着いてきてしまってね」
そう言ったニアは猫耳のついた獣人の耳元で何かを囁いたようだ。彼女は真っ赤になっていた。え?男と勘違いしてないよな?
つーかよ。
「うわ⋯⋯王子と瓜二つじゃねーか」
そう言ってしまった事は仕方ないだろ。レンもそうだが、アイツも天然タラシだ。あの日⋯突如、変わった時から社交性が著しくランクアップした。時には女性が惚れ惚れするような仕草、行動まで出来るようになっていた。
しかも自然でだ。だから余計タチが悪いんだが。数々のご令嬢が密かに傷ついていることをレンは知らない。
まぁでも、レンには本命がいるらしいからな。その為に何年も前から頑張っていたみたいだが結果は良くなかった?らしい。
というのも噂とかスルーしちゃうタイプだから俺。え?騎士のくせに、それぐらいは聞いとけって?まぁ、学園ってのもあるし女子が噂してることなんて喉ほど興味はない。
とりあえず主に危険が及ばないウワサは聞き捨てている。これまた、父親に言うと怒られるんだが。
だから何でだよ。
「それじゃ、アーニャ。任せたよ」
「はい!お気をつけて!」
ニアが挨拶を終え、フードを被ったので俺も同じく被る。そうして、黙って歩いていたが気になるので声をかけた。
「なぁ、どこに行くんだ?」
「ん?クラリスちゃん家だよ」
「誰だよ」
「元彼に付きまとわれて困ってた兎人の女の子」
「なんでそんな事になってるんだよ」
「私が助けたから、男と勘違いされて何故か気に入られただけだよ」
そんな事あるわけ───いや勘違いするな⋯これは。
「⋯⋯⋯凄いな⋯アンタ」
「ニアだよ、ドル」
「⋯⋯悪い⋯」
思わず設定も忘れてた。話は終わりだと言わんばかりの表情でスタスタと歩くニア。獣人の国なんて初めて来たが、賑わってるな。
色んな種族がいるみたいだ。狐とか熊?とか。とりあえず視察だ。街を見てるのも楽しいけどな観光みたいで。
「おい!クラリス!!出てこい!!」
家の前でドンドン音を立ててる奴がいた。アレが?そうか?なぜ俺が気付いたかって?ニアの表情が凍りついたからだ。
「あれ⋯」
「元彼だ。アイツ」
ニアはスタスタと、歩いて行き
「邪魔」
そう一言呟くと、綺麗な回し蹴りで地面に叩きつけた。すげぇ⋯⋯あんな技もあるのか⋯。ニアは体術もいけるのか?!
「ぐはっ!?」
ていうか、ニアを怒らせたらやべぇな⋯。怒らせないように気をつけねぇと⋯あとは敵に回したらダメだな。そんなことを考えてる間に、ニアは扉を軽く叩いた。
コンコン⋯⋯!
「私です。ニアです、大丈夫ですよ」
ガチャッ⋯
「ニアさん!!」
そう言って出てきた獣人の彼女は目が真っ赤に腫れて不安でいっぱいだったんだろう。痛々しい姿だった。無理もない。
嫌いな奴から、あんな執行にドアを叩かれて脅され力を持たない女子からしたら恐怖でしかないだろう。
部屋へと案内してもらい、席へと座る。キョロキョロと見ないようには注意してるが⋯。
「災難だったね⋯」
「しつこくて⋯」
「そうだな⋯。いっその事、全裸でそこら辺にほっとく?」
いやいやいや、今聞き捨てならないことを聞いたぞ。
「お、おいっ⋯それは過激すぎるぞ⋯」
ご令嬢の口からそんな言葉を聞くことがあるなんて思いもしなかった。いやどこから考えつくんだよ。怖いわ。まぁでも⋯
「せめて⋯下着だけは⋯つけてあげてくれよな」
せめてもの情けだ。付きまとい男。女を泣かすのは俺だって許せないからな。
「そうしたら、もう来ませんか⋯?」
彼女がニアに潤んだ瞳で見上げていた。ニアと言うと⋯ニヤけたような⋯いやこれは何だ⋯。なんて言えばいいんだ⋯あぁ、あれだ!!
「おい、ニア⋯犯罪者の顔してる。落ち着け!」
これだ。
「はぁ?!この、私に向かってどういう事だ!」
え、分かんねぇの?自覚ないのかよ。
「そのまんまの意味だけど」
悔しそうな顔をしたと思ったら、返事もせずに話を進めやがった。おい。まぁ、自覚してたなら良かった⋯とでも思っておこうか。
「そうだね⋯。試してみないと分からないけど⋯心は折るべき⋯だよな」
そうして─────
俺がやられても精神おられると思う。
ニアは、やりやがった。
俺が助言した通りパンツだけは履かせて、あとは縄でぐるぐる巻きにして⋯ある貼り紙を貼りつけていた。
「僕は変態です。どうか僕を見て下さい」
いやなんだよ、この文章。おかしいだろ。ていうか、絶対関わりたくねぇわ。本人も、よくわかんないなこの文章⋯と呟いてた。お前自身も分かってねぇのかよ!と言いたかった。だが──
「えぐい⋯おん───ぐふっ!」
俺の心の声を全て吐き切る前にニアに、拳を食らった。いってぇええええ!!
「隙がありすぎだよ、ドル⋯」
コイツ⋯女か?ほんとに女か?!!いやこれ⋯男じゃないか?!怖すぎる⋯!!だが面白い!!
だって、強いってことじゃないか。まぁ、さっきの試験で強いのは知ってたけどさ。
それから数時間も経たないうちに、例の男が外でギャアギャアと騒ぐ声がした。
「こっちを見るな!!そんな⋯そんなっ!蔑んだ目で俺を見るなぁぁあああっ!!!」
あ、やっぱり耐えれなかったか。もしかしたら獣人なら、耐えれるのかなって若干思ったふしはあった。
獣人ってまぁ動物にも変化できるわけで、まぁ動物の姿になると所謂、全裸って訳だ。だから、そうでもねぇのかななんて思ってたが一緒だったか。人にもよるかもしれないけどさ。
ブチブチっ!!
一部始終を言えば⋯。
目覚めた後⋯通る人達に蔑んだ目で見られ、更には服は取り上げられている為、あまりの恥ずかしさに、縄をぶち破り逃走したみたいだ。俺だって嫌だわ。
「うわ⋯⋯これは敵に回せねーわ」
おっと、ついつい心の声が──
「ん?何か言ったかな?ドル?」
「俺は何も言ってない⋯!!」
ば、バレてねぇよな?大丈夫だよな?地獄耳っぽそうで怖いんだよ⋯笑みが。
「はぁ⋯⋯スッキリしました!ニアさんありがとうございます!これで、もう二度と来なくなるといいんですが⋯⋯」
「そうだね、来なくなるといいんだけど⋯」
彼女も、スッキリした様子だ。もう、来ないだろ。もし来たら⋯アイツは勇者だ。俺が褒めて称えてやるよ。
「今日は食堂に是非来てください!私の父が『次に来られた時は!!』と言って聞かなくて⋯大丈夫ですか?」
「勿論!喜んで!」
いつの間にか話が勝手に進んでいる。ニアはものすごく上機嫌だ。
「ニア⋯俺を忘れてないか?」
「あっ⋯⋯」
あ、その反応と顔は忘れてたって顔してるな。って、わかり易すぎだろ。でも、戦闘になると分からない⋯気がする?まぁ今度確認しよ。模擬試験があるだろ。
そうして、俺達は飯を食べに行くことになった。
────
──
「何日ぶりですかな?!娘をまた、助けて頂きありがとうございます。ニアさん!」
「いえいえ、私は何もしていませんよ。すこーしばかりお灸を据えただけです」
「かなり⋯えぐかったけど⋯な⋯」
気さくそうな旦那がニコニコと喋る。俺は心の声を漏らした。ニアは俺を無視し。数秒も待たないうちに彼女はやってきた。
「ニアさんはどうしますか?お肉とか⋯大丈夫ですか?」
「あぁ、好きだよ」
その会話が終わったと同時に俺に視線がきた。
「えっと⋯⋯」
「ドルはどうする?」
「えっと、俺は⋯⋯お前と同じやつで⋯」
何がいいか分かんねぇからな。
「決まりだね、クラリスちゃんのオススメ料理お願いしてもいいかな」
「はいっ!!少々お待ち下さいね!」
少し話す時間はあるのか⋯。そう思って口に出した言葉は、さっきもニアに言ったような言葉だ。
「ニア⋯お前すげぇのな。こんなに、簡単に潜り込んでさ」
んーなんか俺余計なこと言ってる気がするな⋯。
「簡単に潜り込めるわけが無い、それにすげぇと言われることでもない。リア⋯⋯ぐふん⋯ゴホン⋯。私のお嫁さんの国なのだから、夫が知ろうとしなくては何も始まらないだろう?」
え?
「えっ?お前⋯⋯夫いたのか?」
「許嫁だけどな。いるよ愛する人が」
そう話すニアはどこか遠くを見て⋯相手を思い浮かべているんだろう。とっても幸せそうな顔をしていた。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
綺麗だな⋯。
「なんだよ⋯」
ボーっとしてた、ちゃんと返事をしなきゃならないのに掠れた声でしか返事が出来なかった。
「そ、そ⋯うか⋯。いた⋯⋯んだ⋯な」
それに何故か、モヤッとするのは何でだ?
「あ、あぁ⋯」
それから会話はなかった。いや、しなかったが正しいか。ニアの婚約者を知るのは学園に戻ってのすぐの話だ。
そう前婚約者も。
前婚約者はレンであり、今の婚約者はリアムである事を。この時に俺は、情報は必ず知るべきだと⋯。迂闊だったということにやっと気付いた。そして、主君の好きな人はニアだ。
そう気付くのも、容易かった。
───
──
─
「お待たせ致しました!」
彼女が、大きなトレーを2つ抱えて持ってきた。お、ステーにサラとライだな。出来たてホカホカだーって当たり前だな。
「美味しそうだ!」
彼女が来たことに今更気づいたのでワンテンポ反応が送れた。
「ッ⋯⋯⋯うわぁ⋯!すげぇいい匂い⋯!」
ここは、気にしないフリだ。
「じゃあ、頂きます」
「はい!召し上がって下さい!」
「頂きます!!」
あー美味いな。レンにも食べさせてやりたい。何だかんだで、素朴な味も好きだからな。
────
──
満腹満腹。食べた⋯美味しかった。
「ドル、美味しかったね!」
「あぁ、そうだな」
幸せそうで何より。
「そろそろ戻らないとヤバくないか?」
「あぁ、それもそうだね。帰ろうか」
そして、席を立ち会計の場所へ。
「ご馳走様でした」
「お粗末様だ⋯!食いきてくれてありがとうな!ニアさん!」
「いえ、美味しいものを食べさせて頂いて⋯ありがとうございました」
そして、お金を払おうとしたが店主は無償でと言ってくれたので有難くそうさせてもらうことになった。
「そう言って貰えて嬉しい限りだ!気をつけて帰ってな」
「ニアさん!本当にありがとうございました!また!」
「うん!またね」
そうして、店を出た直後に事件は起こった。
シュン──────────!
瞬きをする暇もなく、目の前には俺の目に刺さろうとしてたであろう針が止まっていた⋯?何故、疑問形なのかって?目の前で物体が止まってる光景なんて見たことないからだ。
物体を止める魔法なんて聞いた事がない。ただ、目の前からものすごく甘い匂いがする。しかも赤い。
なんだこれ?ストロベか?塗りたくられてるのか?いやそんな訳ない。だって、この形は暗殺に使われる針だ。付着してる赤い液体は、おそらく毒。敵は何処だ。
「探索」
ボソッと唱える。範囲は限定した。針をこちらに投げてきた野郎は何処のどいつだ。突如、声をかけられる。
「大丈夫か?ドル」
「だ、大丈夫だけどさ⋯目の前でずっと止まってるんだけど⋯」
「あ、悪かったね」
そう言ったニアは、何をしたのか知らないけど。針を落とした。やっぱり、ニアだったのか。
ジュワワワッ⋯
不可解な音がなり⋯地面は溶けた。
「うわっ?!」
こんな毒⋯見た事ねぇぞ!!しかも、証拠を残さねぇなんて!!ってことは⋯あの液体に触れてたら、俺は今頃1部消えてたってことか。うわ、怖。つか、逃しちゃならない!!そう思ったと同時に察知した。
「あの家の上だ!って、気配が消えた」
「えっ?私には⋯なんにも感じられなかったのに⋯」
え?ニアが?なんで?とにかく、これはレンに報告だな。あと、あの毒についても調べないとな⋯。ニアに聞いた方が、分かりそうだけどな。
とりあえず無事に帰ることが出来たのだった。




