3、お茶会の結末
私は彼が着ている服の袖を引っ張った。それから、声をかける。あ、声をかけた訳ではなく、口パクでね。
「ねぇ、ここから協力して脱出しましょう?」
その問いかけに、彼は返事をくれた。勿論、口パクである。
「わかった」
「決まりね。私、ソフィ・カンタレラ」
「おれは、スザク・リオニス」
スザク?!めちゃくちゃいい名前じゃない!!え!!カッコイイんだけど!!きゃーっ!!って心の声は抑えなきゃ!
でも、こんなキャラクターを書いた覚えは一切ない。うぅむ?と思ったけれど、気にしないことにした。
「スザク!いい名前ね!私の事は、ソフィと呼んで。で、作戦を⋯たてたのだけれど。貴方、魔法は使える??」
「使える」
「刃物は、作れる?」
「作れないことも無い」
なんかツン入ってるわ⋯。いやもう、hshs⋯した──ゲフンゲフン!とりあえず、やれる子よ!この子。素晴らしいわ。
「やるじゃない!!じゃあ頼むわ」
彼は刃物らしきを物を作った。それで手首に巻かれたロープを、お互いに切った。お次は足首のロープを切った。これは、凄い⋯感激感謝!!
私も魔法が使えるはずなんだけど一切、手付かずなのよね。この子に教えてもらうこと出来ないかしら。脱出したら、聞いてみよう。
「よし、これで動けるわ」
「これから、どうするんだ──」
ガタン!
「「!?」」
「どうやら止まったようね⋯。さぁ、頑張るわよ!」
さぁ!これから悪党共をギャフンと言わせてやるわ!!私にも武器が、ほし───。
そういえば、あるじゃない。この武器が。それは、靴だった。
7歳が履く靴とはいえ、ヒールがあるのだ。それも、ピンヒールと呼ばれるもの。そう、ピンヒール。皆様、お分かり頂けたかしら?ふふ⋯!
「お前達、いい子にしてたか?」
誰が、いい子になるって?汚らわしい男共め!この美少年をhshsさせたりなんかしないんだから!!両足の靴底を思いっきり顔面に、ぶつけてやった。主に目を狙って。
っしゃあ───!!気分爽快!!
「やってやったわ!!名付けて、ピンヒール目潰しよ!!」
私だって、やれば出来るじゃない!!今は闇の力が使えなくとも物理的攻撃で倒せる⋯!!
この子を私が守るんだから!!悪い大人の、目の保養にさせたりはしない!!
ただ、大の男は⋯ものすごく大きな声を出した。そりゃ無理もない。子供用のピンヒールとはいえ、とんがったものが両目に叩きつけられたのだ。痛いわよね、でも貴方たちが悪いのよ、綺麗な少年を攫ったんだから。それから、その声を聞いて第2の男が相方の確認をしに、やって来た。
「ふふふふふふ⋯」
私が不気味な声をだせば、それは⋯すんなりと口から音が出た。そう声が出たのである。私の不気味な笑い声に、外にいるもう1人の男は情けない声を出していた。
「な、なんで不気味な声が⋯。き、聞こえるんだ⋯」
よしやってやろうじゃないの!!私は綺麗に髪を縫い止めていたピンなどスッと抜き、長い髪をたらした。そして、私は外の男が布を開けた時に思いっきり笑ってやった。渾身の笑みで。
「ぎゃああああぁあ!!幽霊は無理なんだァァァ!!!」
ふん!いいざまね!滑稽だわ!そうして、前髪から手で後ろまで掬って髪をかきあげ、前方を見えるようにした。
「さぁ!!スザクもう大丈夫よ!」
満面の笑みで彼に向かって振り向いた。彼は唖然としていたが。突如、頬が若干⋯朱色に染っているのだが。どうしたんだろうか。熱でも、でたのかしら?
「スザク?貴方、熱でもある?」
「い、いや。ない⋯」
「そう、それは良かったわ。ちゃんと声を出して挨拶出来てなかったわね。改めまして、私の名はソフィ・カンタレラ。どうぞ宜しく!」
「あ、あぁ⋯。おれは、スザク・リオニスだ。宜しく⋯」
幼少期から、いい声してるじゃない!!萌え度がやばいわ⋯。スザクラーブッ!とかうちわ掲げれるわ⋯!!そうなのだ、幼少期より私の好みは広範囲になったのだ!!ツンデレにも目覚めたわけだ。
「とりあえず、悪者はやっつけたから。次はここから、どうするかよね」
「そうだな⋯」
「とりあえず出ましょうか」
「あぁ⋯」
そうして馬車を出てみれば辺りは森だった。キョロキョロ辺りを見回しても森しかない。でも、上を見上げれば城が見える。
うーん、かなり遠くまで来たようね。私達の足で戻れるかしら⋯。あ!!そうだわ!!テテッと、走って馬車の前に上がり込む。そして手網を握った。
「スザク!乗って!」
「え?!ソフィ?!お前、操縦できるのか?!」
「知識ならあるわ!さぁ!早く!」
「わかった⋯」
渋々という感じで乗ってくれた。初乗りだけど!やってやるわ!!とりあえず、左方向転換することに。
手綱を左クイクイと引っ張って馬の顔を左側に向けたら、スっと曲がってくれた。そうして無事、方向転換できたのである!
ふふふふふふ!!
知識だけでなんとかなるものね!!それから、軽く馬の背中を手綱で叩いた。カッポカッポとゆっくり歩き出した。
「歩いたわ!」
「すげぇ⋯本当に初めてなのか?」
「えぇ!初めて!!こんな体験が、できるなんて素敵ね!!」
ちっこい私でも、できるなんて!乗馬の訓練もつけてもらおうかしら。そうね⋯今後の時の為にも護身術は習おう。お父様に掛け合わなくては!
それから、どれだけ経ったのか分からないけれど何とかお茶会が終わる前には帰れなかった──。
「スザク⋯ど、どうしましょう⋯」
「本格的に暗くなってきたな⋯」
「えぇ⋯。お父様もお母様も心配してるわ⋯」
「おれのところは別に。大丈夫だけど⋯」
「そんな事ないわ!絶対、心配しているわよ!」
「それはない」
彼はキッパリと言いきった。
「どうしてなのか⋯聞いても?嫌なら言わなくていいから」
彼は、うんともすんとも言わないと思ったら急に話しはじめた。
「おれは、貴族に引き取られた養子なんだ。ただ、魔力があるってだけで」
「魔力が?」
「そう。おれのこの髪⋯黒いだろ?」
「まさか、黒の髪だから魔力が多いとか?」
「そうだよ。知らないお前の方がおかしいんだ」
「そ、そうだったの。でも、黒髪素敵だけれど。赤い瞳も綺麗だし」
素直に言ったらそっぽを向かれた。また、朱色が頬に刺しているのは気の所為よね。
「あんま簡単に、そういう事言うなよな」
「だって、綺麗なものは綺麗だし。素敵なものは素敵なんだもの。思ってることをそのまま伝えただけよ?」
「もう分かったから!言うな!」
今度は真っ赤になっていた。怒らせてしまったのか⋯。
「ごめんなさい⋯怒らせるつもりはなかったの⋯」
「いや、怒ってないし⋯とりあえず、その話は終わりだ」
「えぇ⋯」
何でもかんでも綺麗だとか言わない方がいいのか⋯でも素敵なのは素敵だし⋯まぁ⋯いっか。
「馬車じゃなかったから、ここまではたどり着けてなかったわよね」
「そうだな⋯お前がいてくれて助かった」
「それはこちらの台詞よ。どうもありがとう。スザク」
「⋯!!?」
また、びっくりした顔をした。
「どうしたの?貴方ってコロコロ表情が変わって面白いわね」
「そ、それは⋯ソフィ⋯がッ──!」
「私が何?」
「なんでもない⋯」
「そう。言いたくないのなら良いわ」
そうして、馬車で移動し⋯さらに時間が経った頃。兵士達の声が聞こえた。
「スザク様!ソフィ様!どこに居られますか!」
「あら、応援が来たみたい。良かったわ。野宿する羽目になってたら、凍えて死んでいたかもしれないわね」
こんな所で、素敵な彼と凍死エンドは遠慮したい。とりあえず、20代後半以上よりかは長生きしたい。新たな願望が増えた。
「とりあえず良かった⋯」
「あ。そうだったわ!!スザク!私、貴方にお願いがあるのだけれど⋯!!」
「な、なんだよ⋯?」
「魔力の使い方について、伝授して下さらない?!」
「え?」
「私の師となって欲しいのよ」
「で、でもおれはッ⋯」
「お願いッ⋯!」
思いっきり見つめた。
「うッ⋯⋯。わ、分かった⋯」
「本当?!ありがとう!!恩に着るわ!」
「ッ⋯また⋯」
「⋯??また?何?」
「なんでもない⋯」
「そう⋯?じゃあ、明日からどうぞ宜しく御願い致しますわ!師匠!」
「えぇっ?!」
そうして、私たちは無事保護して貰えたのでした。それから、スザクのお家とも仲良くなったお陰で彼に会えることになったので、私は万々歳の1日なのでした。
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スザクside
ソフィが大の男に、靴底を顔面に当ててから⋯
「痛てぇ!!いてぇぇぇえ!!目が目がぁー!!」
大の男は悲痛な声を叫び気絶した。それから、その声を聞きつけて、第2の男が相方の確認をしに来た。
「ふふふふふふ⋯」
ソフィから不気味な笑い声が突如聞こえた。術が解けたのだと思う。な、なんだこの腹の底からでる不気味な声は⋯。外にいるもう1人の男は情けない声を出していた。
「な、なんで不気味な声が⋯き、聞こえるんだ⋯」
ソフィは、髪を縫い止めていたピンなどスッと抜き、長い髪をたらした。そこまでは見えたが、何が起こったのか、その後は俺も分からないが大の男が悲鳴をあげたのだ。かなり怖かったのだろうか。
「ぎゃああああぁあ!!幽霊は無理なんだァァァ!!!」
「さぁ!!スザクもう大丈夫よ!」
自信満々という感じで、ソフィは満面の笑みでおれを見た。
⋯⋯!?!?
おれは、唾を飲み込んだ。なんて⋯綺麗なんだろうと思った。おれは、そう。見惚れていたのである。ソフィに。
「スザク?貴方、熱でもある?」
「い、いや⋯ない⋯」
「そうそれは良かったわ。ちゃんと声を出して挨拶出来てなかったわね、改めて。私の名はソフィ・カンタレラ。どうぞ宜しく!」
「あ、あぁ⋯おれは、スザク・リオニスだ⋯宜しく⋯」
カンタレラ⋯?どこかで聞いたような⋯。とりあえず⋯どうでもいい⋯おれは今、目の前の少女に釘付けなのだ。
「とりあえず、悪者はやっつけたから、次はここからどうするかよね」
「そうだな⋯」
「とりあえず出ましょうか」
「あぁ⋯」
適当に返事をしていたら、ソフィは馬車から降りていた。おれは、急いで降りた。辺りを見回してみれば森だった。
ただ、上を見上げれば城が見えた。遠くまで連れてこられたな。ソフィは、テテッと走り馬車の前に上がり込んだ。何する気⋯だ?え?手網を握った!?
「スザク!乗って!」
「え?!ソフィ⋯お前⋯操縦できるのか?!」
「知識ならあるわ!さぁ!早く!」
知識だけか?!不安しかないが⋯仕方ない。
「わかった⋯」
渋々、乗った。ソフィは手綱を左にクイクイと引っ張り馬の顔を左側に向けスっと曲がらせた。そうして無事、方向転換したんだ。
知識だけでこんな事ができるのか⋯!?凄すぎだろ?!おれが驚いている間にソフィは、軽く馬の背中を手綱で叩いた 。そうしたら───カッポカッポとゆっくり歩き出した。
「歩いたわ!」
「すげぇ⋯本当に初めてなのか?」
「えぇ!初めて!!こんな体験ができるなんて素敵ね!!」
何だか凄く輝いて見える。令嬢とは全く思えない。確かに、こんな体験ができるのはなかなかないな。おれは、何だか冒険のような感覚でいつの間にか楽しんでいたんだ。生まれて初めて、彼女のおかげで楽しいと思えていたんだ。
今を楽しいと思えたこと──こんなふうに思える日が来るなんて思いもしなかった。だが、これが終われば彼女とは、なんの接点もなくなってしまう⋯。あぁ⋯嫌だなと悶々と考えていたら突如、声をかけられた。
「スザク⋯ど、どうしましょう⋯」
「本格的に暗くなってきたな⋯」
いつの間にか暗くなっていた。あれ?そんな暗くなっていたのか?と今更、気づいた。
「えぇ⋯お父様もお母様も心配してるわ⋯」
「おれのところは別に⋯大丈夫だけど⋯」
おれの、両親は心配などしないだろう。本当の意味で。
「そんな事ないわ!絶対、心配しているわよ!」
「それはない」
彼女は、そんな事ないと必死で言ってくれたが、それは違う。だから、言いきった。
「どうしてなのか⋯聞いても?嫌なら言わなくていいから」
どう説明すればいいだろう⋯か。
「おれは、貴族に引き取られた養子なんだ。ただ、魔力があるってだけで」
「魔力が?」
「そう。おれのこの髪⋯黒いだろ?」
「まさか、黒の髪だから魔力が多いとか?」
「そうだよ。知らないお前の方がおかしいんだ」
ソフィは本当に知らないみたいだった。焦ったような声色になったが、突如また心臓にいろいろと良くない言葉を言われた。
「そ、そうだったの。でも、黒髪素敵だけれど。赤い瞳も綺麗だし」
さっきから心臓がうるさい。きっと、普段言われないことを言われているからだ。クソ真面目に『本当にそう思ってます』って顔してるし⋯。
「あんま簡単にそういう事、言うなよな」
「だって、綺麗なものは綺麗だし。素敵なものは素敵なんだもの。思ってることをそのまま伝えただけよ?」
「もう分かったから!言うな!」
あぁもう!!こっちは照れるんだ!そんな褒められた事なんて今までないんだよ!!
「ごめんなさい⋯怒らせるつもりはなかったの⋯」
逆に謝られた。いや⋯怒ってはいないただ⋯嬉しいから⋯それに対してありがとうと言えないだけ。とりあえず終わらそう。気まずい⋯おれが。
「いや、怒ってないし⋯。とりあえず、その話は終わりだ」
「えぇ⋯」
渋々?といった感じで話は打ち切られた。そして、ソフィは立て続けに話を続けた。
「馬車じゃなかったら、ここまではたどり着けてなかったわよね」
「そうだな⋯お前がいてくれて助かった」
本当に俺一人だったら、どうなっていたか分からない。魔法は使えるといっても、万能じゃない。
「それはこちらの台詞よ。どうもありがとう。スザク」
「⋯!!?」
今度は感謝された。感謝されたのも初めて。たったの数時間で⋯おれは、このソフィという少女から、たくさんの初めてを貰った。
生まれて初めて、温かい瞳を向けられたこと。自分の大嫌いな容姿を褒めてくれたこと。感謝の言葉をくれたこと。面白いと思えたこと。苦しかった”生きる”という行為を初めて楽しいと思わせてくれたこと。たくさんのものをくれたのだ。この少女は。
「どうしたの?貴方ってコロコロ表情が変わって面白いわね」
「そ、それは⋯ソフィ⋯がッ──!」
それを言うなら君もだ。
「私が何?」
「なんでもない⋯」
なんて言わないが⋯。
「そう。言いたくないのなら良いわ」
それから馬車で移動してからさらに時間が経った頃。
兵士達の声が聞こえた。
「スザク様!ソフィ様!どこに居られますか!」
「あら、応援が来たみたい。良かったわ。野宿する羽目になってたら、凍えて死んでいたかもしれないわね」
野宿なんて男女2人でしてはいけない。密室では無いとはいえ⋯良くない。うん⋯。
「とりあえず良かった⋯」
おれは、ポツリと言った。そしたら、彼女は何か思い出したのか、瞳がキラリと輝く。
「あ。そうだったわ!!スザク!私、貴方にお願いがあるのだけれど⋯!!」
「な、なんだよ⋯?」
「魔力の使い方について、伝授して下さらない?!」
「え?」
「私の師となって欲しいのよ」
「で、でもおれはッ⋯」
ある程度の術は使えても、それだけだ。
「お願いッ⋯!」
彼女は頼み込んできた。綺麗な黄色の瞳が、おれだけを映している。あぁ⋯彼女と、関われるキッカケになるんだ。分からないなら勉強すればいい。おれは、彼女に負けたのだ。
「うッ⋯⋯。わ、分かった⋯」
「本当?!ありがとう!!恩に着るわ!」
「ッ⋯また⋯」
また⋯ソフィは俺に感謝の言葉を述べる。2度目だ。ありがとうと言われるだけで、こんなに心が温かくなるものなのか。
「⋯??また?何?」
「なんでもない⋯」
おれは、また⋯この温かさを教えて貰った。
「そう⋯じゃあ、明日からどうぞ宜しく御願い致しますわ!師匠!」
「えぇっ?!」
そうして、おれたちは無事保護して貰えた。それから、ソフィの家族とも何故か仲良くなったお陰で彼女に会えることになった。
こんなに嬉しい日を絶対に忘れない───