26、絶望と始まり
ソフィside
「────────!!」
暴れれば暴れるほど、首に指がくい込んで更に息がしずらくなっていく。こんなに近づいている気配にも気づけなかった。
浮かれすぎたんだ私───。
こんな初っ端からBADENDまっしぐらなんて、思いもしなかった。油断してた。
だって殺されるのは私の悪事が原因だから。
だから、まさか実の父親に絞め殺される事になるなんて思いもしなかった。親は私の事を娘とは思っていないようだけどね⋯。今まで、邪険に扱うことはあっても、殺意はなかった。
でも今は違う─────。
この私を本気で殺しにかかっている。
「お前が、お前がァ⋯!!!」
「⋯うぅっ⋯」
首を締められた直後って苦しい声を出せるのね⋯。でも、ほんとに苦しい。
私なんの為に幼い頃から特訓してきたんだろう。
一体何をしているんだろう私。
「お前だけが残らなければ⋯!!婚約破棄などされなければァ───!!!」
ダメだ⋯なにかしなくちゃ。逃げなくちゃ⋯何としてでも、蹴るなり闇の魔法使うなりして目の前にいる父親を倒さなきゃ。
死んじゃう。嫌だ、死にたくない。
私はまだ死にたくない。BADENDなんて嫌だ。でも、体は震えて動かない。
初めて殺意というものを知り私は恐怖で動けなかったのだ。どんなに体術を身につけていても、魔法が強かろうが死の直前で使えなきゃ全く意味は無いのに。
そんなの分かってるのに。動いてよ⋯!!私の体!動いて⋯!!そんな思考も段々と出来なくなってくる。
ただ、最後に頭に浮かんだのは⋯リアムの顔だった。
「もう1人の子─────」
父親は狂ったように何か大事な事を言いかけた。
その時─────!!
『なんで反撃しないんだヨ!!バカだロ!?!』
『オレが何とかしてやるからナ!!!』
2人は何かを唱えた。
「うわっ?!!なんだこれはっ?!ツタが私の体に巻きついてッ─────!!!」
ドサッ!!!
私の体は重力によって真下に落ちる。父親の手から開放されたからだ。
「ゲホッ!!ケホッ!はぁはぁ⋯!」
震えが止まらない。涙も止まらない。
でも、ここには居られない。
居たら殺される───────。
私は何とか震える身体を叱咤して、闇魔法を発動した。
───
──
《ソフィがいなくなった父親の部屋》
「ミィツケタ───────」
父親の背後から謎の声が薄気味悪く、響いた。
────
──
─
ふわふわしてる⋯何だかとても居心地のいい空間。そして私はある映像を見ていた。いえ、映像というより現実に起こった何か。
私は双子の真上にいた。所謂、幽体離脱みたいな感じで⋯。双子と言っても、産まれたばかりの赤ちゃん。だから、髪の毛とかそんなに生えてる訳でもなく。見分けが全くつかない。
でも双子は似ていた。顔がそっくり。双子って凄いわ。一卵性なのかな?
そこで目の前の風景は変わり夜になった。先程までのふわふわした感覚はなく、きっと⋯さっきのふわふわは太陽の暖かさをそう感じていたのだと思う。
今は静寂と言った方が正しいと思われる。双子の2人がスヤスヤと眠る場所に1人のフードを被った誰かが侵入してきた。
そうして、フードで顔の上半分は見えないものの、その人物の口元はキッチリと弧を描いて薄気味悪く双子の前に来て笑っていた。
「あぁ、この子が⋯闇の──────」
闇の⋯の後はなんて言ってるの⋯!?
フード被った怪しい男は、双子の赤ん坊のうち1人を連れ去った。そして、次の日が来た。翌日の朝私の若い両親がいた。
そして嘆いているのは分かる。だけど、なんて言っているのか分からない⋯。見張りの雇っている人達に対して激怒しているのは分かった。だけど両親共に泣く素振りは一切なかった。
この先の続きが知りたい。
どうしても知らなきゃいけない。私が書いた物語⋯ソフィの物語の重要な部分。そこが分かる気がする。
書いたのは書いたんだけど⋯内容を覚えていなかったのだ。場面は徐々に歪んでいく。
突如、頭に声が響いた。とても幼い少女の声だ。
"やめて!!"
え?
"これ以上私の記憶を開けようとしないで──!!!"
私は別に、この先を知りたいってだけで⋯。そんな風に言い訳したかのように言ってみたけれど実際は知りたかった。
何が何でも。
だって、思い出さなきゃ死ぬから───。
"嫌ァァアアアアアアアアアア──!!"
少女の絶叫が響き渡った瞬間。
私のいるであろう空間が鏡のように──
パリン───!!!!!
割れた。そして⋯目の前に映る光景は、ソフィの幼き頃の記憶だった。多分3歳??の頃かな⋯。
『おかあさま⋯!おとうさま!見て!』
そうして、彼女は、闇魔法を発動した。両親の表情は、酷く醜く歪み彼女を蔑んだ目で⋯冷たい瞳で見た。
「お前は⋯出来損ないだ!!!まさか、逆の力とは⋯。そんなモノは必要ない──!!」
私はその時初めて平手打ちをされた。え?なんで?って思った。なんで⋯おとうさまは、私の頬をたたくの?
すごく痛いよ。痛いよ痛いよ──なんで?
私はただ、おとうさまとおかあさまに喜んでほしかっただけ。だっていつも2人でコソコソと話をしていたのを聞いていたの。
"ソフィには魔法が使える。あの子の力は───だろう"
"もう片方の子は─魔法だったんだよ"
"だから、大丈夫だ。私達は幸せになれる!!あの子のお陰でな。あの子のお陰で富も名誉も全て手に入るんだ!!"
"おほほ⋯!流石、私と貴方の子ね!!確かに⋯誘拐されたのは癪だったけれど、ソフィは魔力持ち。大丈夫よ。あの子が─魔法を発動さえすれば私達は英雄で!将来苦労しないわ!"
2人をソフィからの視点で見たらとても嬉しそうに喋る両親に愛されていると思っていたそうだが、"私"からすると、これ親なの?って⋯素直に気持ち悪いと思った。
そもそもソフィを平手打ちした時点で私はキレている。何だか、今⋯幼き頃のソフィと私の心が融合していた。何故か分からないけど、感情が流れ込んでくる。
『やさしかった、おとうさま、おかあさまはその日を境に私に精神的苦痛をあたえてきた』
"お前じゃなければ"
"片方だったら"
"価値がない"
"死んだ方がマシ、居なくなればいい"
"私たちを不幸にした娘"
"目の前に現れるな"
"気持ち悪い"
"消えろ"
"なんで産まれてきた?片方で良かったのに"
"死をもって償うべきだ"
"俺達が欲しているのは、お前じゃない!"
『7歳になる時まで⋯4年間。たったの4年間だけれど、ずっと言われつづけてきた。でも、使用人達は何故かきづかない。外面だけは良かったから多少の違和感はあれど気付かなかったのかもしれない。わたしは⋯精神をやむしかなかった。けれど私は心のどこかで、前に戻れるって思っていたのだと思う。また、わたしを愛してくれるって』
「"そして貴女が現れた"」
「え?」
目の前には私。でも幼い自分がいた。
「"貴女は私だけど違う。貴女の魂は別の世界のモノ"」
なんでそれを知って⋯。
「"だってあの時、私は⋯死んだから"」
「え───?」
「"私ね、お母様に池に落とされたの"」
「そんな⋯!?」
「"本当よ。ネルが助けてくれなかったら私はその時に死んでいたわ。ほら、私小さいでしょ?もがけばもがく程⋯ズブズブと沈んで息が出来なくなった。とっても怖かった⋯。このまま1人で誰にも見つけられずに池の底で骨になるんじゃないかって"」
「⋯⋯⋯」
私は言葉を発することが出来なかった。その代わりに涙が出てくる。
「"でも、ネルが救いあげてくれた。だけど、少し遅かったの。だから最後に魔法を使った。私の体に魂を入れる闇魔法を。そして貴女が選ばれた"」
嘘でしょ⋯??そんな事ってある?いや、そもそも転生している時点でありえるのか。でも私が目覚めた時ネルに慌てた様子もなかった気がするけど⋯
「"それは、数日経っていたからよ。2日目になれば療養で寝ていただけ。わざわざネルは言わないわよ、私に気を使ってね。その時に貴女の魂が私に入ったの"」
「えぇっ⋯!?!」
だから、目が覚めた時に⋯あれー?ってなったのか!!
「"そういうこと"」
「あれ?でも待って?私がソフィの中に入ったのに、なんでソフィは今も居るの?」
「分からないわ。未練があったのか⋯魔法が失敗したのか⋯分からないけれど。私はソフィの中の表に出ない1部として存在した。私もビックリした。貴女に話しかけたりは出来なかったけれど貴女の気持ちをそのまま理解出来た。不思議な感覚だったわ。そして、本当の意味で私を救ってくれたのは貴女よ"」
「えっ⋯」
「"さっきから、え?しか言わないわね。他に何か言えないの?貴女、そこらの幼児じゃないんだから。シャキッとしなさい"」
おっとぉ⋯?!大の大人が7歳のお子様に怒られている?!!ていうか、さっき⋯『え』以外のこと言ったけどね?!
「仕方ないじゃん⋯。衝撃的事実すぎて⋯それに私だって今さっき殺されそうになったんだし⋯。って、それより私が貴女を救ったってどういう事?」
「"7歳から生きてきた、8年間。私は貴女の感情に同調していたの。あなたの考えも全て分かった。記憶も全部。私は貴女が書いた物語を見たけれど、きっと貴女に出会ってなかったからそうなっていたわ。貴女の描く極悪令嬢にね。そして、あなたの世界で言うBADENDに引っかかって死んでいたわ。だけど貴女の考えや行動で両親は変わらなくても周りが変わった。貴女を慕う人が周りにできた"」
「それは⋯私がありのままに──」
「"うん。知ってるわよ。貴女だから出来たの。それに、ビックリしたのは⋯リアムの国の町での出来事。本来、獣人達に嫌悪されるのが当たり前。街の反応が当たり前なの。だけどそれも軽いほうね。だって、人間って分かっただけで殺しに来る獣人もいるんだから。それ程、獣人と人間の因縁は根深い。そんな簡単に覆せれるものじゃないの"」
「そ、それは私も思ったよ?!だって聞いてた内容と全然違うくて⋯」
「"貴女は気づいてなかったかもしれないけどグレンが貴女を町へ向かえ入れた時⋯町の住民達は蔑んだ目で見ていた。子供達はよく分かってないから例外ね。でも、人間は悪いやつなんだって教えられているの。けれど、子供達は貴女を怖がりはしなかった。それが住民の皆を納得させる理由になった"」
「えっ⋯そうなの?!!」
「"そうよ。獣人はね、善悪を勘で感じ取ることが出来るの。でも、それは子供の時だけ。子供が毛嫌い⋯邪険にする人は全て極悪人なのよ"」
「うっそーん!!マジで?!」
「"ほんと。だから、人間は幼い獣人を誘拐したりして奴隷印を刻ませたりする。真偽を確かめるために、又は愛玩道具として。そこで疑問が起きるでしょう?"」
「うん⋯獣人って人間より強いよね?歴史、勉強したけど詳しく載ってなかったの」
「"それはね、ごく一部の人しか知らない魔力道具のせいなのよ。それを持っていれば、獣人は人間を攻撃出来なくなるの。それと幼少期は獣人と言っても強いわけじゃないから。人間の大人ぐらいかしら?それでも人間が束になれば負けることは無いしね"」
「はぁ?!!チート道具とか卑怯じゃん!」
「"でも、対抗する手段がない人間は獣人を従わせる為の道具を作り上げてしまった。そして、それは広く広がる。そうして、逆もまた然り。今度は獣人が人間を支配し始めた。獣人は獣の血が入っているから環境に合わせて変化していったの。それが繰り返されて⋯それから何百年後に和約が結ばれた。お互いの領域に許可なく立ち入り禁ずってね"」
「それが和約なのか⋯。和約が結ばれたって簡潔にしか書いてなかったのよ!!なんつー本だ!あの本は!」
「"でも貴女は、難なく入っちゃうし⋯獣人達の心も掴み取っちゃうし。それに他の人まで!!精霊さんなんて、その次にびっくりしたわよ!でも、友達が出来て嬉しかった。本来の私だったら、できなかった経験が沢山できたの!!それに⋯恋ってのも⋯。私ね、レン様を一目見た時に、私この人のこと幸せにしたいって思ったの。だからあんな両親だけど、お願いして取り合ってもらったの。取り合ってくれたのは『王子の婚約者』という両親にとって価値があるモノだったから。それに公爵家だったから、思い通りにことが進んだ。そして彼に会って、確かに惹かれた。でもね、私も愛し方を知らないから。途中で放棄しちゃったの"」
「え⋯?放棄って──」
「"そのまんまよ?面倒くさくなったの。私は確かに彼に何かを感じた。あれは好きという感情で間違ってない。でもね、一方的だったの。いつまでも私の想いは一方通行だった。幼いなりに思いを伝えたけれど彼は微動だにしなかった。話さえもしてくれなかった。これは一方的な片思いってやつだったけれど。楽しかったわ⋯"」
「恋愛って苦しいものや楽しいものもあるもんね」
「"そうね。私の恋は少しいえ⋯かなり、苦しかったけど、貴女の恋は順調そう。まさか、出会った初っ端から求婚するなんて思わなかったケド"」
「だって、神々しいぐらいに神がかってたんだもの。仕方ないでしょ⋯。でもあれは正式じゃないし⋯」
「"終わりよければ全てよし⋯よ?"」
「そうだけど、婚約破棄が何故か知らないうちに出来てたし喜んだ束の間⋯殺されるなんて思いもしなかった」
「"それは同意見だわ。とっても怖かった。体が動かなかったもの"」
「やっぱり⋯??」
と聞くとソフィは目を左右に動かして、言いずらそうに
「"え、えーっとあれには⋯かなり私の影響を受けているかもしれないけど、貴女だってそうよ?"」
「分かってるわよ!私だって⋯!!今まで両親の愛に恵まれて育ってきて⋯妄想と2次元をこよなく愛してきて、でも社畜という痛い現実を振り切り特別生死にさ迷うことなく、殺されることもなく、平和に過ごしてきたから⋯。あのなんとも言えない狂気を向けられた時は、頭が真っ白になった。なんーにも役に立たなかった!!」
「"そうね、お友達が助けれてくれたから私たちは生きている。感謝しなきゃ"」
「うん⋯そうね。ちゃんとお礼言わなくちゃ。それとごめんね、ソフィ。私の黒歴史の生贄にして」
「"別に謝らなくてもいいわよ?ソフィ。貴女は私を作った悪も含め良き理解者でもあるんだから"」
「なんかありがとね⋯」
「"ふふ⋯確かに私は貴女の物語では悪役で普通にやっちゃいけない事を平気でして最後には死刑になるけれど、彼女も彼女なりの幸せがあったと思う。確かに歪んではいたけれど。レン様をひたすらに⋯狂うほどに愛せた。そしてそれを止めてくれる人がいた。それだけで、きっと私は救われた。多分理解は出来ないだろうけど。伝えておくわ"」
「うーん、さっぱり分かんないけど⋯。どういたしまして⋯かな??」
「"正直な人は大好きなの、私。さてと何だか訳の分からない長話しちゃった。あ、でも。貴女が悪いのよ?開けちゃダメって⋯貴女に見せたくなかったのに。私の記憶解放しちゃったから"」
「だって気になったんだもの。仕方ないじゃん?」
「"そういう人よね。貴女って。そんなところも好きよ"」
「え、何?!愛の告白?!」
「"違うに決まってるでしょ!!"」
「分かってるって!冗談よ!」
「"もう⋯"」
ふふ⋯からかうのが楽しいわ。
「"聞こえてるわよ"」
「えっ!!なんで!」
「"あなた馬鹿なの?今は、同調してるから考えも全部理解できるって話してるじゃない"」
「あ、そっか。そうだったね!」
「"歩いてもないのに、鳥頭ってどういう事よ!"」
「ナイスツッコミ!」
「"はぁ、調子が狂うわ⋯"」
「えっへん!」
「"ドヤ顔するんじゃないわよ!!腹立つから!"」
「えへへ〜」
「"とりあえず⋯貴女はココにいてはいけないしね。目が覚めれば、上手くいってるわ"」
「え?という事は⋯ソフィとお別れ?」
「"残念でした。貴女の幸せを見届けるまで離れないんだから!"」
「え!ほんとに!?嬉しい!!こうやって話したりできるのかな」
「"たまーになら出来ないこともないんじゃない?"」
「やったー!!!」
ソフィはぷいと顔を背けているが頬も耳も赤かった。可愛い⋯。ツンデレさんだ!うふふふ⋯⋯。
「"辛うじて大丈夫だと思うけれど⋯私達はもう親の元に居ちゃダメ"」
「そうだね。あれは、ないわ。私もあんなの初めてだったから⋯怖かったし⋯。何も出来なかったけど次は殺るわよ」
「"殺っちゃダメよ?!"」
「うんうん!大丈夫よ。私、大人だから」
「"イマイチ信用出来ないわね⋯。とにかく⋯私を不幸にしたら許さないからね"」
「わぁ⋯これは確実に恨まれるやつですね。頑張って生きます!!」
「"それじゃ⋯またね?あまり無闇に闇魔法使っちゃダメよ"」
「うん。分かってる。ありがとうソフィ」
なぜ私が、分かってるって自然と返事していたのか。この時も今までの私は無意識だった。スっと入っては消えていた。
重大な事を──。
そして、謎の空間は弾けた。




