ファイアボールを打ってみた!
「えっと、まずは状況を整理しようかな」
祈は草原から身を起こして、自分の装備を確認することにした。
まず着用していたのは、何かの動物の革でできた黒色の丈の長いインバネスコート。フードがついてて、おまけに猫耳の飾りまであしらわれている。
縫い目はしっかりとしていて丈夫そう。見た目ではちょっとやそっとでは壊れなさそうで──しかし彼女の願いが女神(仮)に届いていたなら、きっとこれには《破壊不能》と《自動洗浄》、《防毒》、《耐熱》、《耐寒》、《自動防御》、《自動再生》、《隠蔽》、《魔力向上》、《体力向上》、《筋力向上》、《敏捷向上》の能力が付与されているはずだ。
「うん、ばっちりチートだ」
転生時に与えてもらったスキル《鑑定解析》でちゃんと能力が付与されていることを確認し、その下のワイシャツの方も確認する。
ワイシャツは見た目は普通のワイシャツだ。ただ前立や襟にフリルやレースがあしらわれて可愛らしいデザインになっていて、そこにインバネスコートと同じ能力が付与されていること以外は。
次はスカート。
こっちは青のプリーツスカート。膝上丈のミニスカートで、チェックの柄がついている。こちらもインバネスコートやワイシャツと同じ能力が付与されている。
そしてそのスカートから伸びるのは青のニーハイ。ミニスカとニーハイの間の絶対領域も合わさってとても可愛らしい。
「うん。
スカートはちゃんと下着が見えないようにスキルが働いてくれてるみたいだし、これでどれだけ激しく動いてもオッケーだね」
スカートをたくし上げると、すぐさま謎の光がさして下に履いているショーツが見えなくなる。
《暗視》や《鑑定解析》のスキルすらも跳ね返すほどの強力なバリアの効果がその光にはあるらしく、どれだけ目をこらしてもその奥のショーツは見ることができなかった。
「にしても、これちょっと見方によってはエロいね……。
見えないからこそ際立つエロス。
……うん、アリだわ」
うんうん、と仕切りに頷いて見せる。
靴は動きやすいスニーカー風の作りの革靴だ。
こちらもインバネスコートなどと同じ能力が付与されていて、そしてそれに加えて《疲労回復》の能力も付与されている。
これでどれだけ長く歩いたとしても、足が疲れることはない。
「まったく、チートにも程があるってもんだぜ」
自分でオーダーしておきながら、ヤレヤレと肩を竦めて首を横に振る。
「さて、装備の確認は終わったし、次はスキルの確認といこうか」
この世界に、ステータスウィンドウなんてものは存在しない。
しかし女神(仮)にそれすらもオーダーしていた祈は、難なくそれを開示する事ができた。
(確か、《ルーン魔術》と《数秘術》の組み合わせで動いてるんだっけ。よく知らんけど)
魔法の一種らしいので魔力を消費するが、しかし魔力の貯蔵量が無限大な彼女には関係のない話だった。
「えーっと、まずは上から順番に試してみよっかなあ♪」
楽しげに、鼻歌まじりにスキルの検証を行う。
「まずは《魔法》から……とりあえずオーソドックスにファイアボールから行ってみよう!」
手を前に突き出し、魔法をイメージする。と、勝手に魔力が体の中で動き出し、自動で術式を形成し、掌に拳大の火の玉が出現した。
「おおっ、案外魔法って簡単なんだ!」
初めての魔法に興奮して、キャッキャと騒ぐエメラルドグリーンの美少女。
この時祈は気づいていなかったが、この魔法が発動するまでのこのプロセスは、実は《自動詠唱》というスキルによる効果だった。
このスキルはつまり、普段なら自力で魔力を編み上げ、イメージを魔力に投射し、発現のキーワード……つまり呪文を提唱するという過程を、全てオートで勝手に行ってくれるというチートスキルなのである。
「さて、記念すべき魔法一発目は誰にぶつけてやろうか……。
どうせなら、どこまで飛ばなかってのも一緒に検証したいし、やっぱり空飛んでるやつの方がいいかなぁ」
呟いて、上空へと火の玉を掲げる。
するとそこには、ちょうど誂えたかのように大きな怪鳥がくるくると遊回しているのが見えた。
「決めた!あの鳥にしよう!」
目を眇めて、照準を固定する。
コウモリのような翼を持ち、太く長い尾と長い首を持つ巨大な鳥。
《遠視》のスキルで観察してみれば、赤い鱗に覆われていて頑丈そうだった。
「いっけぇ!」
気合の入った掛け声とともに、ファイアボールを怪鳥(だと祈が思っているもの)に向けて発射する。
──バヒュン!
その火球は、そんな音を立てながら鋭い矢のように楕円に変形しながら、うまく狙った通りその翼を打ち抜き、爆発した。
「おおっ!結構届くもんなんだね!」
どれだけの高さだっただろうか。
おそらく一キロメートルほどは距離が離れていただろう的に見事的中させ、喜ぶ祈。
実は魔法が命中したのも、彼女の持つチートスキル《必中の矢》による命中補正が発動したからである。
「これだけ魔法が届くなら、もう私無敵だって思ってもいいかもしれない」
性能だけならばたしかにその通りと言わざるを得ない効果に満足して、爆煙の中から墜落していく赤い怪鳥を眺めるのだった。
……後に、この赤い怪鳥が実はドラゴンだったと言うことに気がつくのだが、知らないと言うのは実に恐ろしい話である。
それから、いくつかの魔法の実験やスキルの検証を終えた祈は、一路ウィンドウに表示された地図に従って街を目指すことにした。
ちなみに彼女が実験検証に使った草原は、まるで大量の隕石が落ちてきたかのようにクレーターだらけ──どころか、近くの森も何もかもが消しとんで、広大な荒野へと様変わりしてしまったことは、見て見ぬ振りであった。
実績解除【初めての魔法】
実績解除【初めてのスキル】
実績解除【森林破壊】
実績解除【地形崩壊】