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天使の弓矢で魔王少女が爆誕しました!

 この世には、数えられる理不尽というものはいくつあるだろう。一つか?いや二つか?そんな事は神のみぞ知る事であって、我々人間には預かり知らぬ事である。

 ここにまた、そんな理不尽にやられようとしていた少女の姿があった。

 彼女の名前は莉布陣野りふじんの極実きわみ──なんて大正時代の小説の登場人物と現代のキラキラネームが結婚したような名前ではなく──水戸みといのりという。

 親が転勤族なため中学、高校と転校ばかりを繰り返し、今までまともな友人などできた試しのなかった彼女だが、この度一人暮らしの許可を得て、近くのアパートで生活し始めることになった。


 ──のだが。


「やっばーい!遅刻遅刻ぅー!」


 通学路。十字路に向かうそのコンクリートの歩道の上を、まるで少女漫画の主人公でも演じるかのように、食パンをくわえながら走る主人公の姿があった。

 というのも、これは祈が狙ってやっていることなのである。


 彼女は昔から、よく漫画やアニメを見て妄想するような女の子だった。

 だからか、この状況も相まって、最近読んだ少女漫画をリアルに実践し、いわゆる的な運命の出会いを引き寄せようとでも考えていたのである。そして、実行した。

 多くの人間はこのように、妄想はできても実行はしないだろう。それをやってのける行動力は、まさに天界の神様も報いてやらねばならない。


(きっと、今日はいいことあるわ!だって初夢、一富士二鷹三茄子って全部出てきたんだもん!)


 そんな根拠のない期待に胸を馳せながら、運命の交差点へ差し掛かった──その時だった。


 ──プップー!なんていう、クラクションの音が、彼女の鼓膜に響いて。


「……え?」


 それが、彼女の人生の終幕となった。

 まさに運命の出会いといえば運命の出会いだが、しかし出逢いたかった運命とはまた違うものだったと愚痴を言う前に、彼女の命は赤い大輪の花と共に散ってしまうのだった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


「ここは……」


 目が覚めると、何もない真っ白な部屋の中にいた。

 しばらくそこでじっとしていると、部屋の奥の扉から、一人の金髪の女性が姿を現し──スライディング土下座をしてきた。


「は!?」


 思わず、そんな声が出てしまう。


「うちの天使が、本当に申し訳ありません!」


「て、天使!?な、なんのことですか!?」


 これが噂の女神様か、なんて変なことを考えながらも、いきなり現れた謎の人物に驚く祈。


 すると、女神らしき女性は土下座してこうべを垂れたまま早口にこう答えた。


「実は、あなたが実行しようとした少女漫画の出会いのシーンを見て、『おいおいマジかよ、マジでリアルでやってるやつ初めて見たわ(笑)ちょうどいいや、うちの天使たちの恋の矢を打つ練習台にでもしたろ(笑)』とか考えて天使に恋の矢をあなたに打たそうときたのですが」


「お、おおう、ちょっと待とうか。色々突っ込みたいところが出てきたんだけど」


 完全にこちらを馬鹿にしたような態度で、全く誤っている素振りの見えない女神(仮)に、どもりながらも制止を呼びかける。

 が、続いて放たれた彼女の言葉に、意識の全てを持っていかれた。


「うちの天使としたことがうっかりで、恋の矢と間違えて破滅の矢をあなたに打ってしまったんよ(テヘペロ」


「いやテヘペロちゃう!あと古いよ、そのネタ!」


 大きくため息をつく。


(それにしても、この人めっちゃ天使強調するなぁ)


 どこの世界でも、失敗を自分のせいにしたくないのは同じなんだな、としみじみと思わずにはいられない。

 と、そんなことを考えていると、その女神らしき人物は徐に立ち上がって服に着いた埃をはたいた。


「それはともかくとして」


 話は終わったとばかりに、次の話題へと移行する。

 祈も、別に過ぎたことだからあまり気にはしない──と言うことでもないのでちょっとばかし頭に血が上ってしまったのは言うべくもない。

 彼女のムッとした表情を見て、女神らしき人物は『うっ』と少し呻きながら狼狽て──そうだと一言呟いた。


「こっちのミスであなたが死んでしまったのは本当に申し訳ないと思ってるの。だから今日本で話題の異世界チート転生、なんてしてお詫びしようと思うのだけど、どうかしら?」


 若干上から目線なその提案に怒りを拭いきれない節もあったが、しかしそこはこれまで何度も漫画やアニメの世界を妄想してきた水戸祈。

 まってましたとばかりに表情をコロっと切り替え、満面の笑みをその顔面に貼り付けた。


「待ってましたぁっ!!」


 ……表情に出すまでもなく言葉にしていた。


「それで、どんなチートがお望み?一応、出身地以外ならなんでも叶えてあげられるんやけど」


 聞いて、なるほどなるほどとやや鷹揚に頷く祈。


「ちなみに、転生先の世界って……?」


「勿論、王道の剣と魔法の異世界よ」


 それを聞いて、心の底からガッツポーズを決める。

 こんな夢みたいな話があっていいのだろうか。もし夢ならば覚めないでほしい。


「じゃ、じゃあどんな魔法でも使えるくらい、無制限な魔力をください!あと転生したら絶対美少女の姿にしてください!」


「わかった。じゃあ転生した先の種族はエルダーアルヴにしてあげるわ。

 他には?」


 聞かれて、今度はうーんと唸り、そういえば言葉が通じなければなんの意味もないなぁと思いつく。


「すべての言語が理解できるようにしてください!」


「オッケーオッケー、設定しとく〜」


(おお、なんかノリ軽いなぁ。

 この調子ならもうちょい無茶なお願いしてもイケるかな)


⚪⚫○●⚪⚫○●


 眩しい木漏れ日の下で目を覚ます。

 柔らかな風が草原の上を凪いで、金が勝ったエメラルドグリーンの長髪が揺れた。

 その緑色の瞳に映る景色は長閑で、どこまでも広がる草原には角の生えたウサギ──いわゆるアルミラージが跳ね回り、空には巨大な怪鳥がけたたましい鳴き声を上げて飛び回っていた。


「これが……異世界……っ!」


 立ち上がり、感動に震える手足を押さえて言葉を発する。

 耳朶を打つ自分の声は、前世の自分のものよりもわずかに高く、幼い感じがした。


 どうやら、本当に生まれ変わってしまったみたいだ。


 祈は感動のあまり、『やったやったー!異世界だー!わーい!』などと年甲斐もなくはしゃぎ回り、最終的には『異世界〜っ、来たぁーっ!』と大声を上げて草原に倒れ込んだのだった。

実績解除【転生】

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