カラー
5人の生徒が契約書にサインすると、船橋が集めて桜木先生に渡した。桜木先生は、契約書を1枚1枚確認してから、その場に立ち上がった。
「では、これからパッセンジャーを授与します。それぞれのカラーは、各学年担任の先生の意見も聞きながら決定しました」
公太は改めて机の上に置かれたスマートフォンのような携帯機器を見た。それぞれ赤、青、黄、緑、白にきれいにコーティングされている。
「3年、千葉倫太郎くん」
「はい!」
千葉が立ちあがり、桜木先生の前に行った。千葉は長身の桜木先生と同じくらい背が高い。短髪で黒縁メガネをかけており、見るからには真面目でしっかり者だ。
「君にグリーンを授与します。また、今年のリーダーは君に任せます。3年生が1人で大変かもしれないが、後輩のことをよろしく頼みますよ」
「ありがとうございます。全力を尽くします」
千葉はそう言って、緑のパッセンジャーを受け取った。
「2年、南春樹くん」
「はい」
南が桜木先生の前にでた。南は小柄で、中性的な顔立ちだ。いつも柔和なほほえみを浮かべていて、その場にいるだけで何か安心感がうまれる。
「君にブルーを授与します。経験者は、千葉くんと君しかいないから、千葉くんをよく支え、チームのバランスをとってください」
「拝命いたします」
南は微笑みながら、青のパッセンジャーを受け取った。
「2年、相川ミサキさん」
「はい!」
ミサキは小走りで桜木先生の方へ移動した。ミサキは、ショートカットではっきりとした目鼻立ちをしている。誰よりも負けず嫌いで、芯が強い。
「君にレッドを授与します。君は1年間、よく努力してきたみたいですね。そうした努力の積み重ねが今の君をつくっています。サークルでもがむしゃらにやってみてください」
「必ず、桜蔭サークルの力になります!」
ミサキは力強く宣言して、赤のパッセンジャーを受け取った。
「1年、湯川アリスさん」
「はい」
アリスがすっと立ち上がった。アリスは、透明感があり、儚い印象を与えるが、実際話してみると茶目っ気もある普通の女の子だ。
「君に、ホワイトを授与します。先輩を頼りながら、頑張ってください」
「ありがとうございます」
アリスは白のパッセンジャーを受け取った。
「1年、広瀬公太くん」
「はい!」
公太は、はりきって返事をした。自分は黄色か、と残ったパッセンジャーをみながら桜木先生の前に立った。目の前に立つと、桜木先生には不思議な威厳があった。自然としゃんと背筋が伸びる。
「君に、イエローを授与します。1年生が2人も桜蔭サークルに入るのは、史上初ですが、湯川さんと共に先輩を頼りながらがんばってください」
「がんばります!」
公太は、黄色のパッセンジャーを受け取った。手にとってみると、普通のスマートフォンのようだった。画面上は、2020年4月13日16時33分と、時刻のみが表示されている。
「さて、では早速ですが、これから初仕事に向かいましょう。みなさん、パッセンジャーを持ってついてきてください」
桜木先生の言葉に公太は、ワクワクしながら、黄色のパッセンジャーを握りしめた。