私が悪役令嬢だからって、こんな仕打ちは酷すぎませんか⁈ リューンSIDE
短編「私が悪役令嬢だからって、こんな仕打ちは酷すぎませんか⁈」のリューン王子の視点から書いたお話です。
※話の都合上、上記の作品と設定をいくつか変えました。
オレの名は、リューン=フィラルド。フィラルド王国の王子だ。
オレには好きな人がいる。名をアデルリア=ウェルメールと言う。隣の国、メイルディーン王国の侯爵家の令嬢だ。
彼女とはメイルディーン王国にある王立学園で知り合った。自分にも他人にも厳しく、曲がった事が大嫌いな人だ。とても美しい容姿をしており、例えるならそう、聖女を思わせるような人だ。最初は一目惚れだった。だが、彼女の中身を知るにつれ、どんどん本気で好きになっていった。
しかし、彼女は皆に嫌われている。他人にも厳しい人なので、それが皆によく思われていないようだ。
そんなに嫌うほどのことか?と首を傾げたくなる程に嫌われているのだ。本当に可哀想だ。まあ、自分にとっては最高の人なので、人の評価は関係ないが。
しかし、問題がある。彼女には婚約者がいるのだ。メイルディーン王国のカイナス王子だ。彼はとても彼女を好いているようには見えない。それどころか、最近は庶民の娘に入れあげているという。
その庶民の娘の名はリア。オレたちと同じ王立学園に通う生徒だ。貴族や金持ちの家ではないが、魔法の力に秀でていた為、入学を許された。皆に優しく、皆に好かれていた。
彼女は時々突飛な行動に出る為、度々アデルリアに注意されていた。その度にアデルリアの評判は悪くなっていった。
そう、アデルリアが必要以上に嫌われるのは、その庶民の娘、リアの所為なのだ。
リアの評判が上がれば上がるほど、アデルリアの評判は下がる。彼女たちは見た目は違うが、どことなく似ている。不思議だ。
しかし、オレはリアには全く惹かれない。あの娘は恐ろしい。聖女みたいに皆に優しく誰からも愛されているが、ふと見せる表情が怖い。まるで魔女のようだ。オレの勘だが、あの娘には何かある。あまり近寄らない方がいい。
オレが思うに、カイナス王子はリアに騙されてる気がする。
アデルリアもカイナス王子と婚約解消してオレの婚約者になってくれればいいのに。オレなら彼女を幸せに出来るのに‼︎
しかし、アデルリアはカイナス王子が好きで、婚約者である事を喜んでいる。カイナス王子は、アデルリアの事は好きではないが、婚約解消はする気はない。そしてリアに夢中。……堂々巡りだ。
カイナス王子は、リアが好きだが、国としては有益な侯爵家との結婚を考えているのかもしれない。
だとしたらアデルリアが可哀想だ。あんなに好いているのに、政略結婚の道具としか思われていないのだから。
やはり、婚約解消しかアデルリアが幸せになる道はない。今日は王宮でパーティがある。そう、カイナス王子の婚約者、アデルリアの17歳の誕生パーティーだ。
彼女の誕生日は祝いたいが、婚約者として王宮でパーティーが行われる。複雑な気持ちだ。
オレはパーティー前にアデルリアと話をする為に、彼女を探した。
すると、彼女はある部屋に入って行くのが見えた。
あんな誰も近寄らなさそうな、あんな隠れた部屋に何の用が…。
そう考えていると、彼女の悲鳴が聞こえた。オレは、すぐ駆けつけた。
部屋に着くと、ちょうど近衛兵も到着した。そして、部屋を開けた。
床には血塗れの王が倒れていた。傍には凶器かと思われる剣が落ちている。
そして、それを手で口を押さえて震えながら立っているアデルリアがいた。
「アデルリア‼︎」
「あっ…」
彼女は泣いていた。無理もない。義理の父になる予定だった人が、目の前で悲惨な死を遂げていたんだから。
しかし、何故王はこのような場所に。そしてアデルリアも。
取り敢えず、彼女を何処かで休ませないと。そう思い、オレは彼女の手を取ろうとした。
しかし、その手は違う者に取られた。
「アデルリア=ウェルメール。貴方を王殺しの罪で捕らえます」
そう言い、近衛兵は彼女の手に縄をかけた。
「ちょっと待ってくれ‼︎何故彼女を逮捕するんだ?彼女が入っていくところをオレは見た。時間的に殺すのは難しと思う」
「こんな場所に来る事自体が怪しい。それに彼女は王と近しい間柄。気を許しているはずだから、隙をついてすぐに剣で刺すことも可能だ」
なんなんだこれは。最初から彼女を犯人と決めつけて。おかしい。
他国のオレはそれ以上何も出来ず、彼女は連れさらわれてしまった。その時彼女の手から何かが落ちた。気づかれる前にオレはそれを拾った。
それは小さなメモで、そこには、この部屋に来て欲しいとカイナス王子からアデルリアに宛てて書かれたメモだ。
しかしよく見るとカイナス王子の手を真似て書いたものだ。とても上手に真似ている。
オレはこういうのを見破るのが得意だが、普通は気づかない。アデルリアは誰かに騙されたのだろう。
この殺人は仕組まれていた。犯人は予めアデルリアにカイナス王子の名で手紙を出して、ここへ呼んだ。そしてアデルリアを実行犯、カイナス王子を黒幕に仕立てようとしたのだ。
このままではカイナス王子も危ない。
オレは急いでカイナス王子の所へ向かうことにした。
カイナス王子の面会を求めて案内された部屋で待つこと数時間。なかなか面会が叶わなかった。そこでもう一度面会を願い出るために部屋を出ると、廊下が騒がしかった。
騒ぎの場所まで行くと、部屋の前には人だかりが出来ていた。中を覗くとカイナス王子が倒れている。そばにあるテーブルには、紅茶と小さな瓶と手紙があった。
オレは近づきその手紙を見た。遺書であった。内容はアデルリアに頼んで王を殺してもらったが、その罪を背負って生きていく覚悟がなくなった。そのようなことが書いてあった。
犯人は用意周到だ。黒幕に仕立てた男を殺してしまえば、アデルリアの罪はもう確定したようなもの。それに彼女は周りからの評判が良くない。誰も彼女を助けないだろう。
オレは近衛兵に先程のメモを見せた。彼女は呼び出されて罪を着せられただけだと、訴えた。
しかし、それは実行場所を伝えたいメモの可能性が高いと言われてしまった。
彼らは、彼女以外犯人はいないと思い込んでいる。
他に彼女が犯人でないと証明できるものはないのだろうか。このままでは…
考え込んでいると、鐘がなった。
あたりがざわついた。今から処刑が始まると誰かが言った。
処刑?誰の?…まさか……
オレは処刑場所に急いで駆けつけた。着くと、そこには兵士に引っ張られている彼女がいた。ボロボロの服を着せられ、髪や肌も薄汚れている。牢の中でぞんざいな扱いを受けたに違いない。
しかし、何故だ。あまりにもおかしすぎる。王の死からまだ半日くらいしか経っていない。
犯人を処刑するにしても、あまりにも性急だ。
おかしい。この事件は全てがおかしい。
一体誰が裏で手を引いているんだ。
そして彼女はこの世を去った。
あたりが騒がしい。当たり前か。今、目の前で処刑が行われたのだから。
オレは泣いていた。最愛の人を守れなかったのだ。不甲斐ない自分が情けない。
しかし、周りの声がどんどん煩くなるな。しかも早く、殺せって…。
……えっ?
オレは前を見て驚いた。目の前には先程処刑された彼女がいるのだ。
そして、処刑台に押さえつけられて今まさに処刑される所だった。
オレは慌てて処刑台に駆けつけようとした。しかし、人が多過ぎて近づけない。
そして、彼女に二度目の死がやってきた。
一瞬体が震えた。オレは急いで顔を上げた。
前を見ると処刑台には誰もいない。
さっきのは幻覚?それとも時間が戻った?
どちらかは分からないが、オレは急いで人混みを抜けてすぐに処刑台まで行ける場所に身を隠した。
もし、これがループなら…
そう考えているとあたりは騒がしくなり、兵士に連れられて彼女が現れた。
オレは急いで剣を抜いて走り出した。立ちはだかる兵士を倒し、彼女の元に辿り着いた。
そして彼女を担いだ走った。
走って走って走って走って、それは長いこと走り続けた。
彼女は嗚咽を漏らして泣いていた。
追っ手の姿が見えなくなったので、近くの物陰で一旦降ろした。
「大丈夫か?痛いところはないか?」
しかし、反応がない。暫くすると彼女は話した。
「わ……た………は……」
彼女の声は殆ど出ていなかった。喉が潰れているのか、もしくは耳が聞こえないのか。オレは、彼女の手を取り、手に文字を書いた。
【耳が聞こえないのか?】
彼女は頷いた。
【目は見えるか?】
彼女は首を横に振った。
【君は無実だ。必ず助ける】
彼女は目を潤ませていた。
また、周りの音が騒がしくなった。兵士が彼女を探している。ここにいつまでも留まるのは危険だ。オレはまた彼女を担いだ。
オレは走った。しかし、先程より兵士の数が多い。応援を呼んだのだろう。
オレは兵士に背中を斬られ倒れた。
「いっ、いやあぁあああーー‼︎」
彼女の叫び声が聞こえた。しかし、オレは血がだいぶ流れていて、動けない。すると彼女が近くで倒れた。彼女も斬られたのだ。
「ごめん……なさい。わたし……の…せいで」
彼女は涙ながらに言った。
「話せるようになったんだね。すまない、君を助けたかったが、助けられなかった」
「ううん。私を信じてくれただけで、もう十分。貴方は…だ……れ…?」
「オレは………」
彼女の質問に答えようとしたが、口が上手く動かない。意識ももう、もたない。
そして、オレは死んだ。
「んっ…」
オレは目を覚ました。辺りを見渡すとここは馬車の中のようだ。確か死んだはずだが。
しかし二回処刑前にループして、オレが流れを変えたから違う時間に来たのか?一体今はいつなんだ?
「今からどこに行くんだったかな?」
オレは同乗していた側付きに聞いた。
「王子、しっかりしてくださいよ。今日はメイルディーン王国のカイナス王子とアデルリア様の婚約発表のパーティーですよ」
婚約発表は確かアデルリアの16歳の誕生日だ。一年も前に戻ったのか。これなら彼女を助けられる。
取り敢えず彼女を保護しよう。婚約発表の前ならまだ間に合う。オレと婚約すればいいんだ。
オレは会場に着くと、会場内を隈なく探した。しかし、見つからない。来ているはずなのに一体何故。
庭で途方にくれていると、上から声がした。
「リューン王子‼︎」
彼女は大きな声でオレを呼んだ。ピンクの艶やかな長い髪に白いすべすべな肌。宝石みたいな緑の瞳。処刑台にいたあの痛々しい姿はどこにもなく、いつもの彼女がいた。
「君は…」
「ごめんなさい、受け止めてください」
彼女はそう言うと、バルコニーから飛び降りた。ビックリしたが、オレは彼女を受け止めた。
「君がこんなにお転婆だとは思わなかったよ。良かった…無事で。本当に良かった」
彼女が生きている。その温かな温もりを感じ、オレは涙を浮かべ震えながら彼女を強く抱きしめた。
そして彼女の前に跪き、手の甲にキスをした。
「アデルリア=ウェルメール。君に結婚を申し込みたい。君をここから連れ去って良いかい?」
もう、君を二度と失いたくない。必ずオレが守ってみせる。
オレはそう心に誓った。