「働いてください魔王ぁ!」
初投稿ですー。楽しんで呼んでもらえる作品目指します。
突然ですけど俺、魔王こと【第3代魔国王ベルセルク・ノティクス】はたった今魔界を追放されましたー え、・・・なんで?
◇
ー6時間前 【魔界 】魔王城・魔王の部屋
鉄製の扉を激しく開け、地響きに近い足音が近づいてくる。
「魔王様ァ!起きてください!!今度はまた西の国の勇者が責めてきましたァ!!!」
俺の安眠を妨げた上に、これでもかと大声を部屋一面に響かせているのはこの男、ドラゴン族の長でありながら魔王国の宰相を務めているベルフレイス・ガーデンだ。
魔王城最上階に位置するこの俺の部屋で、ここまで喚声を悪びれもなくあげられるのはこいつか、四天王で側近の各種族長4名くらいだろう。だとしてもここまでうるさいのはこいつくらいだ。
面倒くさそうに肩から上だけ動かし、首を向ける。あぁ、うるさいな全く。
ドラゴン特有の巨大な紅蓮の顔を怒りでさらに赤に染め、金色の目を光らせた宰相が睨みつけている。
「それで?戦況は?」
「はい、・・・場所は西方都市アラスト近郊マーク平原、敵は勇者1名とその仲間4名!此方はサキュバス及びヴァンパイア族2000体をヴァンパイアロードが、機械族1000体をオリハルコンゴーレムが指揮し対処に向かわせております!!」
ベルフレイスが口からブレスのような何かを零しながら力強く言い放つ。
うーん。いつも思うんだがドラゴン族は皆英明で思慮深いとあるが、ちがったのか?それともこいつだけ癇癪持ちなのか?
兎に角俺は寝たいんだ。
「あ、そうか。頑張れ」
そう言い残し俺がまた眠ろうとするとお得意の爆音が部屋を揺らす。
「魔王様ァ!!!今度という今度は寝かせませんよ!!この前も、そのまた前も、ずぅっと前から 「頑張れ、」・・・しか言わなくなったじゃないですかァ!!起きてください!!ちゃんと魔王らしく勇者と対峙して下さいィ!!」
怒りに震えたベルフレイスがその巨大な両腕で俺を鷲掴み、まるで赤子が人形で遊ぶかのように力強く振り回す。並の魔物ならこれだけで重症だろう。 ほんとに面倒だなこの男は。
「どうせ俺が出なくとも方が付くんだ。戦力に懸念があるならお前のとこの精鋭を数体派兵すればいいだろう。龍一体で都市ひとつの戦力だ。申し分無かろう」
振り回されながら言う。確かに俺は勇者との戦いに遥か前から参加しなくなった。
それもこれも、週一ペースで現れる奴らに問題がある。人間界中から集められた奴らは、やれ妥当魔王だの、やれ神託だのといいズカズカと踏み入ってくる。
「ふははは!よくぞ参った勇者よ!そしてこの業火の前に己の愚かさをしるがよい!」
とか
「我こそが災厄の神にして、【第3代魔国王】、ベルセルク・ノティクスであるぞ!散れぇ!」
とか、
最初は確かにやっていた。(楽しかった)しかしそれも何百を過ぎ、何千に差し掛かった頃、飽きたのだ。
多すぎた。・・・多すぎるのだ勇者よ!普通はこうもっと、世紀に1人の逸材として生まれ、類まれない才能を持ち、人類の命運を託され規格外な戦闘力を有し現れ、大地が割れ、天は裂ける死闘を繰り広げる。そして最後に一騎打ちで魔王を倒す。
それくらいのものを言うのではないか?勇者よ。・・・等と考えていると宰相が眉間に皺を寄せ返答した。
「戦力ではありません魔王様ァ、体裁としての問題ですゥ!転生の勇者やふっかつのじゅもんで蘇る勇者共が言いふらしてるんです!「魔王は怖気付いている」「魔王は闘いから逃げた」と!私は恥ずかしくて恥ずかしくてぇ!今回は力ずくでも連れていきますよ!!勇者にご健在な姿をお見せになってください!」
どうやら宰相は俺を国の威厳の為だけに連れていく気らしい。興味が無い。俺は寝かせて欲しいんだ。
「アッ」というベルフレイスの両手を空間魔法でこじ開けさせ、するりと着地する。
亜人族の魔王特有の2本の角、左頬に王紋の入った茶褐色の肌、漆黒のマント。それら全てを見せつけながら言う。
「体裁?魔王はここに健在だろう。そんなに体制が大切ならお前が戦前に立てばいい」
「なァっ!魔王さ・・・」
「なに、・・・何問題ない、お前自ら魔王と名乗ればいい。それだけだ。それだけで人間も納得するだろう。なにせお前は魔界内でもトップクラスの戦闘力を誇るのだからな。そうだな・・・【四代魔王激昴のベルフレイス】とでも名乗っておけば良いではないか、ハハ」
皮肉を込め口角の端を吊り上げて言うと ベルフレイスの皮膚にみるみる血管が浮き上がるのが見えた。 あ、こいつもうすぐ沸点だ。
「こ、この!っ・・・」
「もう良い行け!〈この者を転移させよ〉テレポーテーション!!」
右手を向け詠唱する。たちまち巨大な龍はこちらに突進しようとする形で光に包まれ姿を消した。はぁ、ようやく騒々しいのが去った。暫く寝るとしよう。
俺はベッドに倒れるとそのまま目を閉じた。
◇
ー3時間前 【魔界】魔王城 作戦会議室
「ーという訳でありまして、賛成4反対1により、現国王、3代魔王ベルセルク・ノティクスの能力封印、魔王解任、及び人間界への追放の決議は可決と致します」
戦場から帰還した宰相から初めに魔王追放と切り出された時、四天王達は皆驚愕した。
しかし全員、少なからず不満を抱いていたのは事実。今回のことだけではなく、日頃から全ての政務を部下に丸投げし戦も放棄し誰の言葉も耳に貸さない。する事と言ったらただ1人寝るだけの毎日。
魔王はそれを数十年続けてきた。そのせいで元は絶対君主の存在だった彼は今は魔界内でただの魔王の肩書きを語るだけの立場になっていた。
当然人望も失っている。必然的に魔王の追放が可決された。
「デは如何にして封印、追放するか計略を練ろうゾ」
四天王の1人が口を開き会議は進行して行った
ー
ー
◇
俺は今、心地よく寝ている。風に揺られ草花が頬を撫で、大地の温もりをその肌で感じる。日光が照り、体を暖める。あぁ、なんていい気分だ。
・・・・・・ん?・・・待てよ?日光?風?目を見開く。青。青空が視界に入る。
「ふぁ?」
魔王・・・城。だったはずだよな?起き上がり、周りを見る。広がる緑の平原と澄み渡る青空。
「は?・・・は?ここどこだ?」
魔王こと俺は焦っていた。先程まで自室で寝ていたはず。それが何故か見知らぬ土地で目を覚ましたのだ。
「ゆ、夢?ぁああ、これは夢なのだな?」
と口にするが脳は次第に鮮明になっていく。明晰夢?にしてはやけに感覚がハッキリしている。
いやこれはおかしい!まず魔界の空は濃紫であり、ほとんど雲におおわれている。大地も荒野だ。こんな緑地などおかしい。寝ぼけるにしても度が過ぎる!となると、ここは人間界?
そしたら一体誰がここまで移動させたのか・・・・・・
「あぁ!まさか、あの宰相!謀ったな!」
いつかやるとは思っていた。しかしついに痺れを切らしたのだな!1番俺に嫌忌を抱いていのは奴だ。よし見ておれ!今すぐ戻って誰が王なのかもう一度叩き込んでやる!
右手を天に向け唱える。
「〈我を転移させよ!〉テレポーテーション!」
何も起きない。
「あ?感が鈍ったか?・・・〈我を転移させよ〉テレポーテーション!!」
おかしい。何も起きない。 急いで魔法でステータスを表示させようとするがにも反応しない。
すぐに体を確かめる。服は問題ない。が、頭を触ると、角が・・・あるべき場所に存在してない。魔王の証でもある角がない。
サーッと血の気が引いていく。低級魔法を複数唱えるが、一切反応しない。ならば身体能力はどうか。
地を殴り付ける。激しい痺れと痛みが拳を伝い肩を震わせたが、何も起きない。
「痛っぁああ!」
痛みにこらえ次は走ってみる。遅い。遅すぎる!以前は全力を出さず魔法に頼らずとも地をえぐる速度で疾走できた。これでは人間が走るのと変わらないではないか。
立ち止まり空を見上げる。
「・・・詰んだ?・・・俺、詰んだのか?」
俺は今日、魔界を追放されてしまったようだ。
読んでいただきありがとうございました。
さて、魔王、どうなるんでしょう?