今生の別れ…?
3本目
今までありがとう。大好きだよ。
いや、ちょっと子供っぽいかな…ここは「愛してるよ」なんて…いやいや、ないない。うん、「好きだよ」でいいです。
「よしっ…出来た」
「なーにが出来たの?」
「あ、美琴ちゃん。どうせなら手紙で気持ちを伝えようかなって…」
「ふふ、この乙女が。でも、その手紙って自分を忘れないでねってことも含まれてるんでしょ?」
「そ、そんなっ…いや、覚えてくれてると嬉しいけど…多分、会えない…から」
「あー、あぁ、泣かないで…」
泣きそうになる私を宥める美琴ちゃんも泣きそうです。美琴ちゃんだけでなく、クラスメイト全員。異世界転移?を当初喜んでいたクラスメイトも人や魔物、命を絶つ事に抵抗を感じ、その相談に乗り、みんなを支えてくれた陽向くんがいなくなる事にみんな悲しんでいるんです。
「でも、陽向くんはみんなの心に残るんだよね」
「そう。絶対に忘れない。例えあいつが私達を忘れても」
そういった時でした。私達の足元が光り、視界に、『転移しますか?』という選択肢が出てきた。
「みんな、まだ選択するな!最後に1度、陽向に会おうじゃねぇか!」
江本くんがその表示を見た瞬間そう言い、みんな『はい』を押そうとしていた手を止め、大きく頷いた。
「って訳でフィアさん、頼める?」
「えぇ!分かりました!」
そう言って目を瞑ってから少し経った時、私達が求めていた優しい声が響きました。
「良かった…みんないた」
「陽向!」
「陽向くん!」
「何勝手に帰らそうとしてんのよ、バカ」
「「「霧崎!」」」
私達が1番早く反応し、それにつられてみんなが顔を上げ、表情を明るくしました。
「みんな、ごめんね。手紙には詳しく書けなかったんだけど、説明するね」
全員が固唾を飲んで陽向くんに注目しています。
「この世界や地球を見守る神様がいるんだけどね、その神様の1柱に、時の神ゼラミス様がいたんだ。その神様は心優しい神様だった。ある日、自分の目にかけていたとある世界の人間が戦いを繰り返したんだ。何の罪もない人間まで傷つく姿に心を痛め、時間を巻き戻して、全ての人間に自分を信仰させようとしたんだ。けど、それは、私欲で時間を巻き戻すのは禁忌なんだ。それによって神の権威を剥奪、彼はそこで心が歪み、自分の信者を作るために、力を付けようとした。それこそ、神の権威に縋ることなく。その時、今のままじゃ人間を変えることが出来ないと思った彼は、力を付けるために、邪神になり、僕らを取り込んで力を付け、そのまま神ごと世界を壊して新しく自分に従順な生物を作ろうと計画したんだ。それに気がついた神様は、天使や僕みたいなやつを使って邪神を倒そうとしているんだ」
長い話を黙って私達が聞いていると、誰かの手が上がった。
「はい。つまり、俺達がいなければこれ以上邪神とやらが強くなることもなく、陽向達も安全に戦えるって事か?」
そうクラスメイトの小倉くんが尋ねると、陽向くんは黙って頷きました。
「そう。言い方は悪いけど、みんなが地球に戻れば勝率は上がる。不安要素が1つなくなり、邪神の計画が頓挫するからね。もしここで邪神が博打を打ってきたらその時はこの世界に顕現している全勢力で叩き潰すよ」
陽向くんがぴしゃりとそう言い放つと、その後表情を緩めて、私達のよく知る陽向くんに戻りました。
「と言うわけだ。みんな、異世界にお別れしようぜ」
「ごめん、裕二」
「気にすんな。俺達はお前の事を絶対に忘れないから」
「うん。それと…」
陽向くんがこっちを見ながら江本くんに耳打ちをする。
「任せとけ。お前も素直になってれば…」
「分かってるよ、そんな事」
互いに笑顔を向けて「馬鹿だなぁ」「馬鹿だよなぁ」なんて言っています。
「俺達が見守っててやるからよ。安心しな。将来、俺の親友は世界を救ったんだって子供に教えてやるから、それが嘘にならねぇように絶対に勝てよ」
「誰の子だ?誰の?」
「もちろん、美琴、俺とお前の子だよ!」
「な、な、な、何言ってんの!?」
みんなはいつもの痴話喧嘩だ、なんて和んでるけど、陽向くんにとってはこれも最後なんだよね。
「絶対に、勝って生き延びるよ。そして、天界から裕二達の事見守るよ。もしかしたら裕二達の子供の将来を案じてちょっとした能力を授けるかもね」
「なんだそりゃ。知ってるか?特異な奴ってイジメに会いやすいんだ。だから、そいつらを守れる程に強く優しい子か、普通の子にしてくれよ」
「今から子供の心配か。多分、裕二達は別れることなく結婚するんだろうな」
「当たり前だろ?」
なぁ?と美琴ちゃんに顔を向けると、案の定美琴ちゃんは顔を真っ赤にしていた。
「もうっ…気が早い。そういうのはゆっくりでいいじゃない。時間はあるんだから」
「やっぱり、心配要らないな」
そう言って笑い合う2人。一頻り笑い合った後、互いに握手をしました。
「んじゃあ、俺はもう行くから」
そう言って消える江本くんやクラスメイト。彼らの消える姿を静かに、悲しげに見送る陽向くん。
「陽向くん…」
「東條…ごめんな、あっちの世界で幸せに」
「…私、絶対に陽向くんの事忘れない!」
「ありがと。でも……いや、なんでもない。幸せにね」
「うん。私ね、ずっと…ずっとずっと陽向くんの事が好きだったの。もうお付き合いとかは出来ないけど、言っておきたくて」
そう言うと、涙を流しながら陽向くんは微笑んでくれました。
「僕も、東條…柚の事が好きだよ。だから、あっちの世界で誰よりも幸せになってね」
「うん…」
やっぱり世界は残酷だなぁって。
両片思いってこういう事なのでしょうか?
「大好き…絶対忘れない」
まだ話していたい。けど、時間は無情で、他のみんなが転移をした事によって、強制転移が始まったようです。
「じゃあ、ね」
「う、うん。バイバイ」
最後にお互いに微笑んで…そして、世界は光に包まれた。
これが、私達の勇者の物語の閉幕…だと思ってました。けど、私は違った見たいです。
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「…フィア」
「はい。私がいますよ。ご主人様の傍に」
「…うん、いつも、ありがと」
抱きついてくるご主人様を受け止め、時折聞こえる嗚咽も聞こえないふりをしてずっと楽になるまで背中をさすった。
肉親と別れた事のある私だから分かる。別れがどれほど辛いものか。でも、唐突な別れよりも、準備出来てからの別れの方が何倍も楽なんだろう。だから、私は言える。その別れの辛さを忘れるぐらい泣けばいいと。泣いて何になる、と言う人もいるけど、泣ける時に泣く。それで人は強くなれるから。
ちょっとはっちゃけた。




