第二段階
2本目
3本目出るかも
「あの、これって何ですか?」
私の手にしている手紙。今日朝起きたらすぐに1階に呼び出され、狼さんもといフィアさんから手渡されたものです。
「ご主人様から渡すように言われていた手紙です」
「そうですか…あの、陽向くんは?」
「その手紙を読めば分かるかと」
表情を無くしてそう答える姿に少し手元が震えます。最悪の事が脳裏を過ぎり、こびりついて離れません。
「東條、俺がやるよ」
そう言って手紙を私から取り上げたのは…。
「江本くん?」
「大丈夫、あいつの事だ、何かしら理由があるんだよ」
その言葉自分に言い聞かせているようで、また心が痛くなります。この2日間陽向くんの姿は見えなかったし、フィアさんが私達に付き添ってくれていました?よく言えば付き添い、悪く言えば監視です。多分、監視なのでしょう。
「…そうか」
少し悲しげに、苛立ちを隠さずに顕にしてそう呟く江本くん。
「何て書いてありましたか?」
「魔王の討伐に1人で行く事、今の状況、そして俺たちには元の世界で幸せに暮らして欲しいとの事。大まかに言えばそれくらいか」
その言葉に誰もが黙り込み、それぞれ手紙を見ようと覗き込む。
「あの、フィアさん。転移は強制ですか?」
「えぇ、そう伺っています。それに……これは秘密にしておけと言われているのですが」
私の質問に答えた後、声を潜めて詳しい事を耳打ちしてくれました。
「この世界には、魔王がいるのはご存知ですよね?」
その問い掛けに頷く。
「この世界の脅威は魔王だけじゃないんです。その脅威の親玉はご主人様曰く皆さんを狙っているらしく、このまま世界に留まっていると、その脅威が皆さんに及ぶ可能性があるのです。ご主人様と一緒にいたいと思う気持ちは私も同じなので理解出来ますが、悔しい事にご主人様にとっての1番は私ではなく、皆さんの安全なんです。なので言い方は悪いですが、大人しく元の世界に戻って頂けませんか?」
「魔王よりも強いのですか?」
「えぇ、此度の魔王を1としたならば、ご主人様が100程度。親玉、邪神が200程。ご主人様が鍛錬を積んでいるので今の強さは分かりませんが、最後に会った際、ご主人様はそう仰っていました」
私達が束になってかかっても倒せない魔王、その魔王が束になってかかっても倒せない陽向くん。陽向くんが束になってかかっても倒せない邪神。いや、3人居れば勝てるのかもしれませんが。
なんと言うか、世界は残酷だなぁって。そう思いました。だって、私がどう頑張ったって陽向くんの手助けをすることが出来ないのですから。想い人が死地に向かうのを眺める事しか出来ず、私達の為に傷ついているのに、それを労わる事すら出来ない。そんな不条理にまみれた世界。
私達は宿屋の1階でこの世界最後の時間を迎えるのでしょう。
せめて最後に陽向くんに手紙を書こうと私を筆を執るのでした。
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「着きましたね」
「行きますよ」
ウラジーミルさん、ヴェルの言葉に頷き、魔王城の扉を開ける。
「だ、誰だっ!?…エイブラムス様!?」
敵襲だと思って槍を向ける兵士は、自分達の知っているエイブラムスさんが見た目人間である僕らを連れている事に驚き、動きが固まる。
その隙を見逃さずに、全員で意識を刈り取る。
「制圧完了」
そう呟くと、エイブラムスさんの案内に従って僕らは静かに魔王城を走り、魔王のいる部屋を目指した。
所々兵士が見えたが、気づかれないように後ろから気絶させたり、結界を張って声を響かせないようにしたり、全てを殺さずに制圧していった。
そして、走り回る事10分、対勇者用の仕掛けも解除して、ついに魔王のいる部屋まで来た。
ーバンッ
「誰だ?」
勢いよく扉を開け、魔王が誰何するのも無視してヴェルが飛び掛る。
飛び掛るヴェルをよそに、部屋を見渡すと、加虐趣味があるのか、様々な拷問器具や血のついた何かが置いてある。
とても腹が立つし、同時にコイツになら何でもやっていいような気さえ起きてきた。
「ふっ…躾のなってな…い!?」
力を抑えてゆっくり飛び掛っていたヴェルが空中でスピードを上げ、そのまま殴る。
それに反応することが出来ずに魔王は錐揉み回転して壁に飛んでいく。今度は僕が進行方向に割り込み、壁を突き破らないように、ヴェルの方向へ殴って返す。
「ナイスリターン」
半分遊びながら2人で魔王を殴ってラリーをする。回転を変えたりスピードを変えたりコースを変えたりして遊んでいると、途中から魔王の意識が飛んだ。
「さて、すっきりしたので、サクッとやっちゃいましょう」
凄いいい笑顔で微笑むヴェルに狂気を感じながら孤月刀で首を切る。
「よし、終了。次の行程に移りましょう」
「魔王様、私はこの国の連中への説明、この国の後処理などをしますので、ここで失礼させてもらいます。死ぬ前に貴方様をもう一度見ることが出来て光栄でした」
「うん、頼んだよ、相棒。仕事が終わったらまた顔を出すからさ、元気でね」
この国の主導者がいなくなった今、序列2位のエイブラムスさんが魔王代行として国民を導いていく必要があるらしく、ここから先は別行動になるらしい。魔族にも、人間にもそれぞれの生活がある。それを壊さないように、守れるように、僕らは邪神を倒さなければ行けない。
「頑張らなきゃ」
「えぇ。陽向様、魔王様の事、よろしくお願いします。そして、この世界の事もよろしくお願いします」
深々と頭を下げるエイブラムスさんの気持ちを受け取ってから僕らは城を後にした。
『ご主人様、もう終わったのですか?皆さんが転移しそうです。すぐにこっちに来てください』
転移するのか…。今から行って間に合うかな。いや、魔法で転移するわけだし、多分大丈夫。
「ヴェル…」
「行ってらっしゃい」
「別れをしなかったら絶対に悔やむとだけ助言しときます」
「一期一会、自分にとっても相手にとっても英雄殿とは気心の知れた仲間なのでしょう。なら、その縁を大切に。別れもせずに別れるのは…とても辛い事ですから」
ヴェルとエイブラムスさん、ウラジーミルさんの言葉を受け、僕は皆の所へ転移した。
特になし!




