休息
1週間が始まるよー…。
もう1月も終わりかぁ。
それから数日間、僕はとにかく扱かれた。休憩はとるけど、休みはない。小休止をとったらすぐに再開。特訓に終わりは見えなかった。
「まだ粗いぞ!ステータスに頼るな、己の技量を鍛えろ!」
「はい!」
最初に言われたのは、ステータスのお陰で、大抵の魔物には苦戦しないが、動き自体、技量は素人そのもの。ステータスに頼らずに道理に合った動きを身につけろとの事。
「道理に合わないことをするな!柔軟に動きを変えるのは構わないが、無駄に動くとそれが命取りになる。何度言ったら分かるんだ!あと4日だぞ!」
「は、はい!」
打ち合いの中で、体捌きがなってない、踏み込みが甘いなど、徹底的に指導された。
「はぁ…はぁ…もう一本…!」
「そのしぶとい根性はきらいじゃねぇよ」
「おはようございます…っ」
「おぅ、しっかりやってんな。よし、今何回目だ」
「今、2400ちょっとです」
「その割に綺麗に振れてるじゃねぇか…まだちょっと力んでんな」
朝日が登ると共に、武神がやって来て、経過を確認する。
「ふむ、止め」
「はい!」
2430を超えた辺りでストップがかかった。
「少し力んでるのと、やっぱりまだ雑念が混じってんなぁ」
「うぐっ…すみません」
「いや、いい…良くはないか…」
双剣の扱いにはまだ慣れないが、武神と魔法神による混合魔法のお陰で基本の振り方、動作は体が覚えている。
「…今のところ、魔法に頼ったな?実際の戦闘では魔法を頼るのも大いに結構。だが、それはある程度地力がついてからだ」
「…はい!…ふぅ、もう一本!」
基礎動作をしていると、前から矢が飛んでくる。それをいなすという訓練。最初は1本ずつ。そこからどんどん発射間隔が狭まり、同時に2本、3本とどんどん数を増していく。
「ふっ…ふっ…はぁっ!」
「…ほぅ」
そして、さっき指摘された段階を超える。視界に映る矢の本数は4本。右下、左上、左下、そして僕の眉間目掛けて。
「たぁっ!」
「よし、止め」
それらをいなすと武神からストップがかかった。という事は何かしらの指摘があるか、訓練内容が変わるという事だ。かれこれこの訓練は半日ぐらいやっている。流石に集中力が切れて、頭が痛い。
「流石にキツかったか。予定を少しずらす。特訓は中止だ。ついてこい」
苦笑いしている武神がどこかに連絡をすると、僕に向き直ってそう言った。
「…どこへ?」
「風呂だ…あんま根詰めんなよ。焦る必要はないんだから」
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「ふぅ…」
神界を連れ回され、挙句の果て色んな人に揉みくちゃにされた後、僕は風呂に来ていた。
武神は、すれ違う人それぞれに親しげに話しかけては風呂に誘っていた。そのせいで、今風呂にいるのは、天界の半数近く。中にはヴェルや魔法神、顔見知りの天使もいて、とても賑わっている。
そんな中で考えるのは、今までの特訓の事。5日で終わらせると大見得をきったが、結局、体調を崩して中止に。体は特訓の内容を覚えているし、ステータスも上がっているので、成果は出ているが、このロスタイムで何人…何千人の人が危険にさらされていると考えると、気分が重くなる。
「おぅおぅ、辛気くせぇ顔してんなぁ。まぁ坊主、お前も分かっただろう?体ってのは全ての資本だ。それを大切にしないで、結果を求めると今みたいになっちまう。あんまり焦んなよ、焦るとそれだけ大切なものが見えなくなるから」
武神は諭すように優しく僕にそう教えてくれた。
「まぁ、1番分かりやすい例ってのはな、試験前に根詰めて寝ずに勉強をして、結果試験当日に熱を出すって奴だな」
豪快に笑った後、だから、と武神は続けた。
「あまり自分を追い込むんじゃねぇぞ。どうせ、いまこの瞬間、下界では何人もの人が恐怖を感じている、とかそんな事を考えて負い目を感じているのかもしれないが、お前は気にしなくていい。下界に顕現している神や天使が食い止めてるからよ。少しでも早く万全な状態で行ってやれ。それがお前に出来る事だよ」
さてなんか変な話しちまったな、今日は休めよ、と言って武神は他の所へ行った。と思いきや、天使に話しかけては楽しそうに雑談を始めた。
「3日もあの武神の特訓を耐えたのは誇っていいと思うよ」
後ろから話しかけて来たのはヴェル。
「あ、久しぶり」
「久しぶり。やっぱりここの湯はいいね」
「あ、うん。ってそうだ、少し気になったんだけど、天界に上下関係ってあるの?」
「あぁ、あるにはある」
「どういう事?」
「仕事中は上下関係がある。けど、それ以外の時には上下関係はない。あるのは、個人と個人の繋がりだけ。仕事は仕事、プライベートはプライベートって感じかな」
「なるほど」
「今ね、僕の同期の天使が下界で戦ってるんだけどね、なんか力試しみたいな感じで楽しんでるって言ってたよ。その子は僕に仕事を押し付けて自分から下界に飛び込んで行った子でね、その子のおかげで魔物の進行は進んでないよ。それどころか中大将すら倒しちゃったみたい」
「そう、ですか…」
「うん。それでね、仕事も終わったし、今いる天使で十分に回る仕事量だから、下界下りようかなって。だから、また一緒に戦おうね」
きっと、励ましてくれているんだろう。慣れていないのか、中々たどたどしく、不自然な言葉で紡がれたソレに、心が温かくなった。
「うん!」
1日でも早く修行、特訓を終わらせ、みんなを地球に返す。改めて強く心に誓った。
また見てね!相笠でしたぁ!




