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世界の均衡

どうも、相笠です。

お盆の季節ですね。皆さんは帰省されるのでしょうか。されるのであれば、交通安全に十分に気を付けて下さいね。

「よし、こんぐらいでいいか?」

『そうですね。…えっと、野営地はあっちみたいです』

 そう言って左のこめかみあたりを叩いてくる。

「こっちか?」

 その方向に体を向けて頭の上のフェンリルに聞く。

『えぇ、あってますよ…ご主人様、敵です。注意してください!』

 いきなりの言葉に一拍遅れて周りを警戒すると、野営地の方向に複数の敵、そして、1人がこっちに来ていることが分かった。

「なるべく離れるなよ。その辺の木の裏にでも隠れていてくれ」

『わかりました…来ます!』

 狼が飛び退いてすぐ、ソイツはやってきた。

「ッ!」

 体が動かない?状態異常は無効となってるはずなのに…。目の前の敵…少女は僕が動かない事を確認すると、満足気に頷いた。

「それは私のユニークスキル。状態異常が効かないなら、麻痺してる状態を普通にすればいい」

 そう言うと、少女は巨大な魔法陣を自分の手で描き、それを発動させた。魔法陣は普通詠唱によって自動的に描かれるが、魔力を均等に込めるために、自らの手で描くという方法もある。それは詠唱で発動したものよりも、長持ちし、魔力の消費も少ない。

「これは?」

「貴方も気付いているはず。貴方が向かおうとした場所では貴方の仲間達が戦っている。私達からすればこの状況は最高の攻め時。鴨が葱を背負って来るとはこの事かしらね。わざわざ、弱い個体がバラバラになって無心に山菜採りなんて…この世界を舐めているの?」

 その言葉にハッとする。咄嗟に周りを探ろうとするが、魔力の動きが制限されている。

「攻撃されたらひとたまりもないから魔力の動きも制御させてもらった」

「…クソッ」

「さて、本題に入るが貴方達はこの世界の『異端者』にあたる。そうだろう?異世界人。そして、その中でも特に貴方は異端だ」

 魔法陣が完成し、魔法が発動された。その魔法とは…

「…なんだ、これは…?」

 そこには、クラスメイトや騎士団の人が魔物や盗賊団と戦っている様子が映し出されていた。

「貴方達の裏にいる女神。ソイツは臆病者だ。そして、その傘下にいる貴方も」

「…何が言いたい」

 状況は理解出来たが、この少女の目的が分からない。所属は、多分、魔神側。

「危険因子はここで取り除くべきだと思ってね。残念ながら、貴方とそのお仲間、総勢40名にはここで死んでもらう。先に数を減らすべきだと思ってね、まずは貴方以外の異世界人が死ぬ様を見てもらおうか」

 自身の勝ちを確信したのか、ソイツは雑談を始めた。俺としては魔物の侵攻や盗賊団を今すぐにでも阻止したいが、体が動かない。

「ここ数日、私の部下を使って貴方の事を探させたが…貴方はどうも他の異世界人とどこか一線を引いているようだ。だが、何故かその異世界人を守ろうとする…何故だ?貴方は他の奴らと何が違う?」

 …考えろ。この状況を打破する方法を。せめて、ステータスだけでもわかれば…。フェンリルの背中に乗って皆のところへ向かうか?…いや、多分こいつがこの中で1番厄介な相手だ。

「…俺は皆を守る。皆を無事に地球へかえすんだ…」

 つい口をついて出ていた。念話でフェンリルに指示を出そうとするが、それも出来ない。なら…【バーティカルエンゲージ】…だめか…

「…そうかっ、貴方は…お前はアイツ(女神)と繋がっているのかっ!だが無駄だ、お姉様から賜ったこの私のスキルに欠点なんてない!」

 …なぜバレた?魔力の動きでも読んでいるのか?なら…魔力を使わないスキルは…ない、のか…。少しでも時間を稼いで打開策を考えないと。早くしないと皆が死ぬ。

「…お前の目的はなんだ?」

「さっきも言ったが…そうだな、私達…お姉様の目的は世界の均衡を守ること」

「…どういう事だ?」

「なら、なぜお姉…邪神と女神がいると思う?それはね、世界の幸福と憎悪、正の感情と負の感情は常に均衡となっている。…まぁ、自分にとっての幸せが他人にとっての幸せかどうかは分からないって事。あるでしょ?まぁ、その均衡が、今みたいに人間が増えすぎると、負の感情が高まって均衡が崩れる。故に私達は人間を滅ぼすもしくは文明をなくさないといけない。私達の仕事は世界の均衡を守ることだから。でも、女神は現実から目を背けて、勇者みたいに息のかかった者を送り込んでそれを阻止しようとする」

「…文明が一度滅亡したのはお前らのせいか?」

「そういうこと。ついでに、魔王ってのは、均衡が崩れると同時に生まれ、世界の感情がどちらに傾いているかで、その逆の感情を持った魔王が生まれる。世界の均衡を保つためにね」

「初代魔王の時は世界が負の感情に溢れていたのか?」

「あら、全くもってその通りよ。そのせいであんな腑抜けた魔王が生まれたのよ」

 いや、諦めるな…強力なスキルには必ず欠点もしくは穴があるはずだ。…欠点…。コイツが最強だと自負している…譲渡…劣化…。

 もしかして…。

【神化】

 …よし、動ける!

「な、何で!?なんで動けるの!?」

「さっき君が言わなかったっけ?私が女神様と繋がっているからですよ?それに、そんなに強力なスキルで穴がない筈がない。その穴は、自分よりも下等の生物であること。残念ながら、私には人間としての霧崎 陽向と、神としての霧崎 陽向がいるからね」

「…これは、おしゃべりもしていられないね」

「ヴェルの事を悪く言った事、皆を危険に晒した事、責任取ってもらうよ」

「…あんたは誰?少なくとも、今の、この世代にいるような強さじゃない!」

「…なぜ私が初代魔王の事を知っているのか、それを考えたら分かるでしょうに」

「ま、まさか…初代勇者!?」

「ご明瞭」

 目の前の少女の顔がサッと青ざめていく。

 そして、こちらが臨戦態勢に入っている事を確認すると、いきなり無詠唱で魔法を打ってきた。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 暗黒魔法・上位・薪尽火滅

 100分の1秒後着弾予定

 効果・着弾した周囲の者全てを焼き払い、無に帰す

 回避可能・ルート・左右15度

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 放たれた魔法がどのようなものか、それが人目で分かるようになった。

 指定されたルート通りに動き、そのまま少女に肉薄する。驚きで固まっている少女に孤月刀で一閃する。…やっぱり人を斬る…肉や骨を断つ感覚は慣れない。

「…ひゅ…ヒュウ…お、ねえ…さま…ごめ…ん、なさ…い…」

 そう言い残すと少女は息を引き取った。

 にしても…世界の均衡を保つ、か…。どっちのしてる事が正しいんだろう。僕が今してる行為は…善?悪?…分からないな。少なくとも、人殺しには変わりないんだろうな。

「…って、感傷的になる前に皆を助けに行かないと」

 そのままの状態で返り血がついた状態で僕は皆のところへ急いだ。

さて、また次回。

相笠でした!

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