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私は兄で出来ている  作者: 渡里あずま


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6/6

エピローグ

 翌日の昼休みも、咲姫は高志を誘って昼食を共にした。

 昨日、高志はパンだったのでお礼に、と咲姫は弁当を作ろうとしたが――遼に、却下されてしまった。


「咲姫の手作り弁当なんて、渡してたまるか!」


 そんな訳で、高志に渡した弁当は遼の手作りだ。咲姫の弁当とお揃いにならないよう、中身を変えていたり、新たな口実を作らないように捨てられる容器に入れている辺りに遼の執念を感じる。


「大人げないけど、弁当はうまいね」


 そう笑って、嬉しそうに弁当を食べていた高志が――しばらくして、ぽつりと呟きを落とす。


「咲姫ちゃん、狙ってた?」


 その言葉に、咲姫は弁当を食べる手を止めた。そして口の中のおかずを飲み込んで、高志の質問に答えた。


「引導を渡して貰おうと思ったのは、本当……ただ、そう思ってくれたら嬉しいなとは思ってた」

「もし、思わなかったら? 遼さんが紹介してくれる人と、結婚してたの?」

「うん。お兄ちゃんが認めた人なら、間違いないだろうから」

「はぁー、とことん信用してるんだね……でもさぁ。そこで、俺にはならないの?」


 感心したような呆れたような、そんな声の後に高志が問いかけを続ける。

 それに少し考えて、咲姫は口を開いた。


「高志君とだと、私ばっかりが幸せになるから」

「……えっ?」

「高志君、言ってたよね。自分を抉り取ってるって……だとしたら、お兄ちゃんにフラれたら私、残り滓じゃない」

「ちょっ、言い方!」

「それじゃあ、相手に失礼だから頑張って、細胞再生させないとだけど……普通の人なら、悠長に待ってくれないと思う。それこそ、結婚まで進まないで終わっちゃうかもしれない。でも高志君は違うでしょう? 笑って、待っててくれちゃうでしょう?」


 だから、高志君じゃ駄目なの。

 そう話を締め括って、咲姫は弁当の残りを慌てて掻っ込んだ。そして立ち上がり、高志にペコリと頭を下げると咲姫は屋上を後にした。


「俺とだと、幸せになっちゃうんだ……失恋したのに嬉しいとか、我ながらチョロすぎる」


 だから、咲姫は知らない。

 咲姫を見送った高志が、ため息をつき――次いで、にやける口元を押さえながらそう呟いたことを。



 教室に戻る足取りに合わせて、咲姫の長い髪が揺れる。

 遼にフラれたら、遼の為に伸ばしていた髪を切ろうと思っていた。

 けれど、お互いの気持ちを伝えて一緒にいることになったので――この髪については、二人きりのうちは切らずにこれからも遼にやって貰おうと思う。遼が好きなのが解っていて、わざわざ切る必要はない。


(すぐに結婚はなくなったから、進学するかどうかも決めないと……あと、少しは私も料理を覚えないと)


 遼のご飯は勿論、好きだが関係性が変わるに辺り、甘えてばかりや自分磨きが足りないと愛想を尽かされてしまうかもしれない。支えられるところは、咲姫もしっかり支えなければ。


(でも、呼び方は)


 出会った時からずっと『お兄ちゃん』と呼んできたので、他の呼び方となるとすぐには難しい。

 何せ十二年、兄妹をやっている。その関係から恋人に変化するのには、もう少し時間がかかるだろう。


(今までの私は、お兄ちゃんで出来てたから)


 それでも、これからも自分といることを選んでくれた遼と、ずっと一緒にいる為に。

『兄』でだけじゃない『自分』を形成しよう、と咲姫は思った。

 それからその決意のまま、表情は変えずに――だがその両手で、咲姫は決意を固めるように拳を握った。

完結です。ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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