不動明王と八大童子!!
歪禅との戦い!
総本山の最終決戦!
俺は座主。
この総本山を束ねる長。
蚩尤鬼人となったかつての総本山の戦士・歪禅が法子の通う学園を襲った。それだけでも総本山が動くには申し分なかったが、この座主が直々に動くには私情が含まれていた。何故なら、この学園に通い今も学園の中で安否の分からない娘の法子が余命が本日消えると予言されたから。
俺は座主であると同時に法子の親なのだ。いてもたってもいられずに今直ぐに飛び出して行きたかった。しかし、座主の責務は世界の命運すら左右する。
「もどかしい…」
しかし、俺には頼れる仲間達がいる。必ず法子を救ってくれると信じている!
俺達は増殖するする歪禅を一つに統合した巨大化け蜘蛛と対峙していた。
歪禅の本体であり、この戦いの山場であった。
しかし、俺達の仕掛ける攻撃は一つも傷を付ける事も叶わなかったのだ。
そこに現れた戦士がいた。
「お前に任すぞ!光明!」
光明とは俺の親友であり戦友だった男から託された少年だった。少年はダチに命を助けられた事で恩人としてだけではなく師として仰いでいた。総本山に身を寄せる事は裏の世界に生きる覚悟が必要であった。生きるために厳しい修行と化け物を相手に退魔行に身を置く事になる。しかし少年の潜在能力は俺の予測を上回り、側近の晴明に次ぐ実力であった。その強さ、その佇まい、その戦闘能力はかつてのダチを被らせた。更に、この少年は神の転生者、かつてダチが背負いし不動明王の転生者なのだ。
不動明王に変化した光明が大地から火柱と共に飛び出して来て、歪禅の前に立ち塞がる。
「お前は逃がさん!」
「逃げる?私が?笑わせるな!私はお前を始末するために準備をしていた。この今の私こそ究極体!何者も敵わぬ支配者となるのだ!あははははは!」
「夢物語は結構。もう良ければ退魔させて貰う」
光明は飛び上がると手にした燃え盛る降魔の剣で斬りかかる。
「!!」
しかし光明の攻撃も空間の歪みに外されてしまう。
「無駄だ!私には誰も攻撃は当てられぬし、そして」
上空より歪禅の六本の足が大槍の如く突き出される。
「ぐぅう!」
退魔の剣で受け止めるも、その重圧に弾き飛ばされる光明。
「俺達も光明の加勢をするぞ!」
俺の指揮に光明の戦いを見ていた仲間達が再び戦闘体制に入る。
「邪魔だ!」
なぬ?
「こいつは俺が相手をする。座主様、悪いが皆を退けさせてください」
俺は…
「そうだった…」
この光明は口調こそ丁寧だが『我』が異常に強いのだ。何もかも自分一人でやらねば気がすまぬ。つまり強さは一級品だが駄々っ子の我が儘なガキなのだ。
「まるで法子が二人いるようだ…」
しかし相手は仮にも守護者級の人間が転じた化け物。そう甘い事は言ってられなかった。それでも食い下がり攻撃する光明だったが、やはり無駄であった。
「あいつは誰だ?親父?じゃなくて座主様」
見知らぬ新たに現れた光明に、息子の勇斗は気にかかるようだった。
そうだったな…
「あの者はお前と同じく明王の転生者。やがて共に戦う時が来るだろう」
「俺と同じ?」
光明と同様に軍茶利明王の転生者である事もあり、興味深げに光明を見る目は過去の自分と被らせた。
過去に軍茶利明王を宿した俺と、不動明王を宿したダチが共に戦ったように…
「総本山の虫けら共!お前達は根絶やしにしてやろうぞ!」
『糸喰!』
無数の糸が雨のように降り注ぎ光明を襲う。
しかも歪禅を中心に糸喰は総本山全体へと広がっていき降り注ぐ。
俺は隣にいた勇斗に体当たりをして弾き飛ばすと、代わりに俺の身体は糸が絡まり縛り付けられた。
「これは!ち、力が抜けていくようだ…」
この糸には神力だけでなく霊気をも吸収する力があり、俺だけでなく総本山の仲間達は今の攻撃をくらい糸に絡まれて急激に体力を消耗して立てなくなっていく。
「親父!!」
唯一助かった勇斗に俺は構うなと合図をする。
「ふははは。お前達は間もなく干からび朽ち果てるだろうて?」
勝ち誇る歪禅に、勇斗が立ち上がる。
「テメェ!上等だ!」
『オン・アミリティ・ソワカ!明王変化唯我独尊!』
勇斗の姿が軍茶利明王の姿へと変化する。
「紅双蛇血鞭!」
軍茶利明王の両手から紅色の蛇のように撓りながら鞭となって大地を削りながら上昇して化け蜘蛛の歪禅へと向かっていく。
「無駄だ!」
歪禅の言葉通り、軍茶利明王の蛇血鞭は歪禅から逸れていく。
「奴を中心に歪んだ空間が結界になっているのか…だったら至近距離から、ぶちのめす!」
駆け出して飛び上がった軍茶利明王は歪んだ壁に拳をぶつける。
しかし見えない壁が空間を歪ませ軍茶利明王は弾かれたのだ。
「うぐわあああ!」
更に上空より歪禅の六本の足が大槍となって突き刺して来たのだ。
「!!」
軍茶利明王は突き刺さる寸前で、
「奴は俺の仕事だ。お前は黙って見ていろ?」
降魔の剣で大槍の足を受け流した不動明王光明によって助けられたのだ。
「お前、無事だったのか?」
「問題無用」
だが、無事だったのは光明だけではなかった。
「どうやら俺達には、この糸は効力が薄いようだな?」
「晴明様が戻るまで私達が食い止めないといけないわ」
それは竜二と赤羽宮であった。それに、
「早くアイツを倒して法子を迎えにいかないとね」
「私もそう思う」
「女の底力よ!」
更に、
「女子に負けたら男子の面目が立たないぜ!」
「いかないとね」
「どっこい!まだまだいけるぞ!」
新谷 玲羅、白石 雪、鈴木 美和、桃井剣太郎、金丸 剛、一瀬 明希の八人だった。
彼らも光明同様にカミシニの血が流れた特異体質。否、産まれる前にカミシニの博士によって造り出された実験体だったのだ。しかし神を殺す血を持ってはいたが血を武器や能力に使う事が出来た。
それだけで十分だった。魔を退魔するのに強力な力となる上、カミシニを相手に力を奪われずに攻撃は有効。彼ら彼女らは総本山にとって思いがけない戦力となってくれた。
正直、まだ若い彼らを血生臭い裏の世界で、頼らざるおえない事に胸は痛む…
確かに最初は俺は彼らが総本山に出家する時、断固拒否した。しかしそれでも彼らは自分達の境遇を理解した上で総本山に残り戦ってくれているのだ。俺は彼等を晴明に託して授業を頼んだ。生き残るために。だが、今はお前達だけが頼みだ!
「頼むぞ?お前達!」
俺の思いは…
「邪魔をするな?奴の相手は俺がする!」
って、おぃ!
光明が仲間達の手助けを拒み、一人で戦おうとする。
「光明!それはないんじゃない?私達も戦えるんだよ!」
玲羅の言葉も無視し、
「いい加減にしろよ?光明君!俺達だって戦うよ!」
剣太郎の言葉も無視。
「全く…いつも一人でしょい混むんだから」
「全くだ…」
呆れる宮と竜二。
この八人と光明は幼なじみであり、同じ境遇の中で孤児院で育った。
「光明!俺達はお前と運命共同体だ!だから俺達の力を使って、あの化け物を倒してくれ!」
「………」
運命共同体・・・
竜二のその言葉に光明は暫にし考えた後、仕方なく頷く。
そして光明は八人の兄弟達を後にして、再び歪禅へと向かって行く。
「光明に俺達の力を集める。準備は良いな?」
竜二の指示に八人は同時に印を結び真言を唱え始める。八人の神気が融合しながら集中していく。それは神々しく凄まじい力の波動を発する。
そう。彼等は自分達を物語の主人公だとか、プリンセスやらの自称転生者と名乗ってはいるが、彼等は紛れもなく転生者!しかも神の転生者なのだ!
彼等は慧光童子,慧喜童子,阿耨達童子,持徳童子,烏俱婆伽童子,清浄比丘,矜羯羅童子,制吒迦童子の八尊。その神々は不動明王に付き従う八大童子!
竜二は集約させた力を光明に向かって飛ばす。
「これが俺達からお前に送る絆の力だ!受け取れぇー!!」
力は背を向けながら右手を掲げた光明の降魔の剣に届くと、その形が変わっていく。
『倶利伽羅の剣!』
倶利伽羅の剣とは八人の仲間達の神の力とカミシニの力を一点凝縮した破壊の剣。その剣は光明の降魔の剣と融合する事で絶対無比の力となる。
「クゥウオオオオ!」
光明はその凄まじい力に押し潰されそうになるが、意地だけで持ちこたえた。
「お前達の思いは受け取った。後は俺に任せろ!」
光明は飛び上がると歪禅へと突っ込んだ。
「何だ?あの剣は?まずい!あれは危険だ!?」
歪禅もまた、その戦闘の感で光明の持つ剣が危険だと感じた。
「だが、私には届かぬ!」
歪禅の周りを空間が歪み絶対防御のバリアーとなった。
触れれば肉体が崩壊する程の空間の歪み!!
「私の力で原子レベルで捻り潰し始末してやろう!!」
歪禅を中心に歪んだ空間が広がっていく。
この壁に触れれば捻られたように歪曲して跡形も無くなる。
かつて俺は歪禅と一度組み手をした事があった。俺の合気は触れた相手の力を逆に使い軌道を変えて確実に倒す事に対して、歪禅は触れずに相手の軌道を変えて倒す。その手合わせの結果、俺は辛うじて勝てた…
奇跡とも思えた。
あの歪ます技には弱点があったのだ。それは歪むタイミングと言うのか?AからBへ通りCにゴールする道をAからCへ空間を歪ませてネジ負ける。その間、ABCとACの道を交互に繰り返し挟むようなイメージだ。つまり空間が歪むタイミングによっては障害がないのである。その僅かなタイミングを狙えば!!
「既に見切っている」
「…タン・タン・タン・ツー・タン・タン・タン・ツー・タン・タン・タン・ツーりゃああ!!」
光明は倶利伽羅の剣をタイミングを取り降り下ろした。
その斬撃は静かに空間に一直線上の線を作ったのである。
まるで何もないように歪んだ空間は真っ二つに分裂し消滅し、中で守られていた歪禅の身体が両断されていた。歪禅も自分が斬られた事に気付いていなかった。突然感じた激痛に悲鳴をあげたのである。
「テンポを掴めれば止まっている盾など容易く斬れる。お前は過信した!」
そうだ。
歪禅は化け物の姿となり異常なまでの力を手に入れてしまった。そこに頼ってしまったがために油断が生じてしまった。恐らく、本来の技量で戦っていれば歪禅が経験の分だけ光明に上回っていただろう。これが生死を分ける戦いなのだ。
だが、
「まさか!?」
光明の倶利伽羅の剣によって消滅していく化け蜘蛛の中から何かが飛び出して上空へと脱出したのだ。
「あははははははは!」
「歪禅!!」
人の身の歪禅が一体、滅びる肉体より脱出したのだ。
「しぶとい奴め!再び冥土に送ってやる!」
光明が倶利伽羅の剣を構えると、その剣は消える?
「くっ…」
倶利伽羅の剣は一撃必殺の剣。
その力は一振りで力の全てを解放するのだ。
そして力尽きて消えてしまったのである。
「…オノレ…この私の計画を…台無しに…ゆ、許…」
だが、分離したはずの歪禅の身体も崩壊が始まっていたのだ。
「ここまでか…だが、私は一人では死なん…お前達共々、道連れにしてやるぞぉー!!」
歪禅の身体が膨張していき肉団子のようになっていく。
まさか!?
自爆するつもりか!?
その事に気付いた光明と勇斗が、歪禅の自爆に間に合わせようと上空に向かって飛び上がった。
間にあえー!!
だが、
「気付くのが遅かったようだな?私諸とも…」
全身が膨張して破裂する。
『終わりだぁー!!』
上空から放たれた閃光が飛び出した二人を、地上にいる俺達を、学園を…
飲み込んでいった。
次回予告
総本山の戦士達はどうなったのか?
そして、法子の安否は?




