桜を救い出せ!座主の戦い!
アジ・ダハーカによって桜が奪われた。
戦士達は絶望に戦意を失う。
俺は蛇塚軍斗…
現総本山の座主だ。
助っ人に入った俺とアータル神はアジ・ダハーカを追い込んだ。そして倒したかに思えた。しかしアジ・ダハーカの影は少女を守っていた竜神族の四人を弾き飛ばした後、再び実体化し彼女の首筋に牙を立てた。少女は血を吸われ崩れ落ちて倒れると、その身体に飲み込まれていく。アジ・ダハーカは彼女の力を手に入れて本来の姿を見せる。空を覆うように飛び上がった姿は、見上げる程の巨大で邪悪の根元、魔蛇竜アジ・ダハーカの姿に!!
「己れ!再びあの姿を垣間見る事になろうとはな…」
俺はかつて、あの姿のアジ・ダハーカと戦った記憶があった。
「だが、あの時は卑弥呼様の力をもって食い止めたに過ぎん…」
「弱気だな?」
「そう見えるか?」
俺の身体が震える。しかしそれは武者震いだった。
「過去の因縁を断つにはこのくらいでなければな?俺もあの頃の俺ではない!」
するとアジ・ダハーカの身体から黒い玉子が幾つも地面に落下して来ると、ヒビが入り割れた中から蛇や蠍、蜘蛛や百足といった毒虫が抜け出して来た。しかも全てが大型のアジ・ダハーカの分身が!
「素手では毒に犯されるか?ならば!」
俺は掌から金色に輝く錫杖を出現させると向かって来た化け毒虫達を殴りながら倒していく。
「私達の体力を奪うつもりのようだな?」
アータル神もまた噴き出す炎で毒虫達を焼きながら消滅させていく。
少女を奪われた竜神族の四人を見ると、完全に戦う目的も戦意を喪失していた。
そこに俺は渇を入れる。
「お前達!戦わぬなら即刻去れ!この場にいて良いのは戦士のみ。絶望を覆し戦える者のみだ!」
「くっ…」
それでも戦意を喪失している四人に、
「このままではあの娘を取り戻す事も叶わんぞ?良いのか!」
「!!」
それは少女がまだ生きているって事だった。
「まだ生きているのですか?彼女は?」
その問いに俺は頷く。
「俺も昔、奴に取り込まれた経験がある。奴は体内に取り込みはするが、力を根刮ぎ奪うために完全に同化するためには少々時間がかかるのだ。それまでに救い出せれば必ず!」
四人の竜神族の戦士は顔を見合せせると、戦意が再びよみがえる。
「黒竜玄武!」
「あぁ、彼女は俺が命に代えても守り抜く!」
すると赤竜朱雀と白竜玄武も助太刀をせんと毒虫達の相手を始める。
「だが、あのような化け物をどうやって…」
青龍蒼覇は空中に浮かぶアジ・ダハーカを見上げながら、その強大な力に圧倒されていた。
「竜神の戦士よ!諦めるには早いぞ?」
俺は錫杖を手に声をかける。
「しかし、どうやって?」
「俺達が策もなくこの戦場に来たと思うか?」
「?」
「少し時間が欲しい。奴の身体から彼女を救い出し、更に倒す策がある。お前達も協力してはくれまいか?」
「何か策があるなら無論協力はするが…」
「頼む!」
俺の男性の合図で、アータル神はその姿を変えて高校生の少年に戻っていた。
「あはは…」
「正義よ?どのくらいだ?」
「10分ください。どうもアレは直ぐに出せないみたいなんです」
「10分だな?聞いた通りだ!竜神族の戦士達よ?今から10分。その間に彼女を救い出すぞ!」
「あ、あぁ!」
アジ・ダハーカの身体から溢れ出す障気と次々に産まれて来る大型の毒虫が迫る中を、俺を中心に四人の竜神族の戦士が迎え撃つ。
「黒龍玄武君と言ったかな?有り難うございます」
黒龍玄武は人の姿に戻った真坂正義を強力な盾で守ってくれた。
「お前が勝機なら必ず俺が守る。だから信じているぞ?」
「大丈夫です。なにせ僕の中にいるアータル神は最高の相棒ですから!」
「よくは解らないが信じよう!」
そして、
「害虫駆除だ!俺の炎が全て焼き消してやる!」
赤竜朱雀は炎を自在に操り、巨大害虫を消し去る。
「僕も戦います!」
白竜白虎は接近する巨大害虫に軽く手を触れると、爆発的な力で巨大害虫が吹き飛んでいく。
「竜巻爆手」
それは圧縮させた風の気を触れたと同時に一気に爆発させているのだ。
「俺は戦う事しか知らぬ!」
青龍蒼覇は両手に青き竜の気を立ち込めさせると、手にした二本の刀の形が代わる。
『双覇青竜刀』
「一匹足りとも残しはせん!」
二本の青龍刀から放たれた竜が、巨大害虫を飲み込み消し去っていく。
俺は三人の戦いを見ながら確信する。
「新たな世代の戦士が着実に育っているな…」
俺は上空のアジ・ダハーカを見上げると意を決し試みたのである。俺は指先を噛むと血が垂れ、そして血で地面に陣を描く。陣形から俺の血が光り輝くと俺を包み込む。
「それは?」
青龍蒼覇の問いに俺は印を結びながら答えた。
「俺は今から奴の体内に入り彼女を救い出して来る。お前達はそれまで奴の進行を食い止めていてくれまいか?」
「それはどういう事ですか?」
「力を得た奴は世界を滅ぼすであろう。それを食い止めねばならぬ!その代わり俺はお前達の守るべき娘を救って来よう」
「あのような障気の中心に入ったら命が幾つあっても…」
「ふっ…安心しろ?俺には奴に近い蛇神の血が流れている。多少なら奴の体内でも身体がもつだろうて」
「貴方はどうしてそこまで?」
「奴との因縁もあるが、それよりお前達のような世を救うべき世代が必要なのだ。まぁ…それがなくとも彼女は救うつもりだがな?」
俺は青竜蒼覇に笑顔を見せるとアジ・ダハーカを見上げた。
「参る!」
俺は陣形から放出される覇気を全身に纏いながら飛び上がると、上空に待つアジ・ダハーカに向かって突っ込んだ。
「虫けらが!近付けさせはせぬ!」
アジ・ダハーカは寄せ付けさせんと口から障気を吹き出すが、俺を包み込む蛇神の血の結界が身を守る。そしてアジ・ダハーカの身体へ矛の如く突き刺さり体内へと消えた。残された青龍蒼覇と赤竜朱雀、白竜玄武は俺の消えた姿を見て、戦士として、自分達がするべき事を理解した。
「俺達がするべき事はあの人が彼女を連れ帰るまでの時間稼ぎだ!それが今出来る最善の役目!」
三人は頷くと、印を結んで同時に陣形を張る。それは強力な覇気で巨大害虫を寄せ付けず、更に磁場が発生する。そして同時に唱えたのである。
『聖獣変化唯我独尊!』
すると巨大な三つの光が上空へと昇っていき、爆発したかのような閃光が闇を照らす!
「ウグゥウウ!?」
アジ・ダハーカの目の前には三体の光りに輝く聖獣が道を塞いだのだ。
その聖獣とは…
『青竜』『朱雀』『百虎』
三体から濁流と炎、雷が降り注ぎ群がる巨大害虫達を全て駆除した。
アジ・ダハーカは目の前に現れた聖獣に対し、
「クハハハハ…異国の神獣ごときが絶対神である我に何が出来ると思うてか?」
アジ・ダハーカの開かれた口から放たれた障気が吹き出されたが、三体の聖獣の光りが浄化していく。
「オノレ…蹴散らしてやろう!」
「耐えよ!」
アジ・ダハーカと三体の聖獣が戦っている最中、俺はアジ・ダハーカの体内の中をさ迷っていた。
「一度入った事があったから何とかなると思っていたんだが?甘かった。もたもたしていると…」
俺の身体は自らの血を触媒にした結界で守られてはいるが、身体を蝕むような痛みが生じていた。
しかも中は闇と押し潰すような重圧。
右も左も、平衡感覚すら頼りにならん。
俺はそこで立ち止まると瞼を綴じて取り込まれた彼女の気を探る。
「必ず生きているはずだ!絶対に救ってみせるぞ!」
俺は彼女に自分の娘を被らせていた。年の頃も同じくらいだよな?
「生きてさえいれば娘の友になってくれるかもな」
「!!」
その時、闇の深く先から感じたのだ。
「見つけたぞ!!」
俺は更に闇の深く奥へと突き進んだ。そして闇の中で拘束されて光る少女を見つけたのだ。
「良かった。やはり生きていたか」
俺は彼女のもとに近付くと身体に巻き付き拘束している蛇を引きちぎる。そして肩を掴み呼び掛ける。
「目覚めよ!」
彼女の目は開いているが光りはなかった。力を吸い出されるだけの器として自我を消されたのか?
あの時と同じだ…
かつて俺の妹であり、蛇神の母胎として選ばれた詩織も同じくアジ・ダハーカに取り込まれた。だが、あの時も俺は無謀にもアジ・ダハーカの体内に飛び込み救ったのだ。この娘も必ず俺が救い出してみせるぞ!
俺は彼女に意識に同調を試みる。
彼女は今…
「私は…死んだのかな」
闇の濁流の中で意識の欠片が残っていた。その魂は今にも消えかけていたが、唯一の心残りが存在を残していたのだ。それは?
「私は…だ・れ・な・の?な・に・も・の・な・の?」
彼女は知らない。自分自身を…自分が何者で、何のために生まれたのか?
その答えが知りたい…
「そうか…」
俺は彼女の心を読み、そして彼女が目覚めるために、
「俺の中にある蛇神の血とお前達の竜神の血は古の繋がりがある。お前を目覚めさせるために荒療治だが、他に策はない!」
俺の指から流れる血を彼女の唇に押し合てる。彼女の唇を通り舌に血が達した時、彼女の全身に俺の血が全身に一気に廻り回ったのだ。
「あっ!!」
彼女の身体が痙攣を起こして全身の血管が浮き上がる。そして沸き上がる力が暴走を始めたのだ!
「クッ、俺の薄い蛇神の血の力でも彼女にはまだ強すぎたのか!?」
俺は暴走する彼女を抱き締めて抑え込む。溢れ出す力は俺の身体を圧迫し、全身に雷が落とされる衝撃を受け続ける。
「うぉおおおお!」
耐え凌ぐ俺の身体は限界に近付いていた。
「これが彼女の力なのか?俺が見誤るほどの激しい力…これが竜神の力なのか!?」
俺が彼女を抑えていた時、背後から嫌な声がする。
「私の中が騒がしいと思えば、またお前か?人間の小僧よ?」
「小僧と呼ばれるには老けたがな?俺は蛇塚軍斗。蛇神族の生き残りだ!」
「蛇塚の一族も我が計画には役立たずだった。だが、それでももう一歩という時にお前が邪魔をした。そしてまたこの度も…それは死に値する罪よ!このまま闇に押し潰されて我が養分となるが良い!」
すると闇の重圧が更に俺と彼女を押し潰す力が強まって来た。
「うぉおおおお!」
俺は彼女を抱き締めながら闇の重圧に抗う。
このまま押し潰されてたまるか!
俺は全身全霊の覇気で闇を押し返す。だが、出口の見えない闇の中でどうすれば良いのだ?
諦めない…
決して!諦めてたまるか!
その時、声が聞こえた。この闇の中で、それはアジ・ダハーカとは違う…あの懐かしい友の声だった。
「君は…変わらないね?」
その声に俺は驚きと衝撃を受けた。姿こそ見えないが、その声は懐かしい幼なじみの声に間違いなかった。
「ひ、光か?」
光とは、かつて故郷である蛇神島を支配していたアジ・ダハーカの別人格。いや?アジ・ダハーカの転生した人としての人格。俺の幼馴染みで友だった。だが、アジ・ダハーカの人格に意識を奪われ自我を失い、肉体を奪われた。
「お前は…お前の魂は消えたのではなかったのか?」
「うん。今の僕は魂の欠片に過ぎない。君の魂が消えかけていた僕の魂を呼び覚ましたに過ぎない…」
「どうして現れたんだ?まさか俺と昔話でも?」
「そうだね。それも良いよね?だけど、時間がないんだ。ほら?見えるかい?」
光が指差した方向に光の道が伸びていく。
「この道が唯一の希望。この先に未来がある!今一度、軍斗くん?君が未来を掴んでくれ!」
「光!」
俺は消えかける光の道を振り向かずに彼女を抱き抱えて駆け抜けた。
そして!
「砕けろ!闇よぉおお!」
俺は闇の中から光を掴み握りしめると、硝子が割れるように闇に光がさして、外の世界へと飛び出したのだった。
次回予告
アジ・ダハーカとの最終決戦!
いまだ目覚めぬ桜の安否は?
そして・・・




